第23話 人聞きが悪いですわ! 私のはただの確認作業ですわ!

「襲うなら私にして欲しいです! 啓様、お願いですからお嬢様を襲うのをやめてください」

言葉が聞こえてふと自我を取り戻した。催眠術にでもかかっていたかのように彼女に張り付いていた目が今では正常に動いている。


きっと主のためでなく自分の幸福のために発せられた言葉だったが、その言葉で僕は我に返ることが出来た。

でもやっぱりツッコミたい部分がある。僕は凉坂さんを襲ったりなんてしてない。それにどっちかと言えば彼女が僕の事を壁ドンして襲っている。


「僕はどっちかと言われれば襲われてる側なんだけど、あと美月の事は何があっても襲わないし」

「そうですか、とても残念です。そうしますと、彩様が啓様の事を襲っているという認識で間違っていないでしょうか?」


残念がるな! 薄々気がついてはいたが、見ないふりをしていた。美月は貞操観念がどうやらかなりぶっ飛んでしまっているらしい。


「美月、襲うとは人聞きが悪いですわ! 私は啓さんがさっき愛の告白、思い出したかのような事を言ったので、愛とか諸々を再確認していただけですわ!」

「彩様、疑ってしまい申し訳ございません。では私にも一度でいいのでその強い力で愛の再確認をして頂けますか? 私は彩様、お嬢様の事が大好きなのです」

美月の趣味が混ざっている言葉だったが、嘘を付いているようには思えなかった。とくに最後の『私は彩様、お嬢様の事が大好きなのです』という言葉だけは彼女の心の奥底から発せられたように見える。


「分かりましたわ、美月は仕方がないですわね。美月よく聞いておきなさい、私も美月の事が大好きですわ」

「彩様、彩様……。ありがとうございます」

僕の事を置いてきぼりにして二人だけでそんな会話が繰り広げられた。凉坂さんは全く美月が所望してた力を使ってはいなかったが、それでも彼女達、特に美月の顔は幸福という文字を顔に映しているように見えた。


「それで啓様、思い出したというのは本当でしょうか?」

思い出した……? いいや、僕はそういったニュアンスの事を一言も発した覚えはない。どこで何を勘違いされたんだろうか。

「ごめん、よく分からない」

「そうですか、彩様、こいつはすぐ嘘を付いて誘惑してくるゴミ野郎ですので気をつけてください」


酷い言われようだ。でも僕の発が何か誤解を生んだのだったら主に使えるメイドの発言としては受け入れるべきものだろう。

「凉坂さんも美月も勘違いさせたんだったらごめん」

「啓さん、いいえ、わたくしもさっきは取り乱して啓さんに無理やり愛の確認をしてしまいました。色々な事を今後はちゃんと話し合っていきましょうね」


凉坂さんは大人な対応で僕に許しを与えた。彼女の真摯な態度を見ていると自分の発言一つ一つをしっかりと大切にしなければと思う。


「それはそれとしてわたくしは嘘が嫌いですので、啓さんにはお仕置きのデコピンですわ!」

「それだけは勘弁してください、何でもしますから!」

「彩様、罰ならメイドの私にお願いします!」


三人での妙な鬼ごっこが始まった。

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