第22話 壁ドンドンドンドンドン! でフルコンボですわー!
「………」
壁ドンをされた。それは不良がするようなカツアゲに使うものではなく、イケメンが女の子を口説く時に使うものでもない。とにかくそれは、火照った頬と僕の白い体の距離を近づけた。
凉坂さんの手が壁にめり込んだ、夕焼けに照らされた顔がこちらに近づく。
「………啓さん」
色っぽい、艶やか、好色。近づいてくる彼女の顔はそのような言葉を連想させる。
「はい……。」
返事をしたが、そこで再び会話が止まる。無言の心地の悪くない時間が周りの空間を包み込んでいく。
その冷たくも暑くもない俯瞰の時間で彼女の瞳だけを見ていた。
翡翠色で輝きを放つ宝石のような瞳。見ているだけでそこに憑りつかれて吸い込まれそうになる。
自分の鼓動が聞こえた。
それは屈強な生物と至近距離で目が合ったからではない。美しい女性にうっとりと見つめられ、その目の魅力を脳や全身で理解させられたからだと理解できる。
「啓さんが悪いんですよ」
先程までの強烈なお嬢様言葉でなく、わた飴のようにふわりとして甘ったるい言葉だった。そんなものが耳元でゆっくりと溶けていく。
抵抗する気も力も全く無かった。このまま彼女に溶かされて生きていきたい。目を合わせた時そう思った。
「啓さんが悪いんですのよ、私の事を美しき姫君なんていうなんて……」
彼女の手が僕の顎を撫でる。「さっき冗談で言った美しき姫君」なんて言葉も今の彼女にはこれ以上なく似合っている。
僕はどうしてしまったんだろうか、この艶めかしい女性のためならばある程度の事をしたいと考えてしまう。おかしい、こんな顔が良いだけの、得体のしれない女性に対してそんな感情が湧いてきている。
とにかく今はこの美しい女性と会った目をずらさなければ。
硬く張り付いて動かない自分の顔を強引に横に逸らす。それでも視点だけは最後の最後まで彼女の瞳から離れようとしなかった。
これで、僕は一度冷静になれるはずだ。この胸の高鳴りも、不整脈のような鼓動の速さも直ぐに無くなるんだろう。
細く白く、華奢な指に僕の顔が再び凉坂さんの瞳へと手繰り寄せらる。更に触れられた顎が持ち上げられる。
これじゃまるで、王子様が姫にキスをする直前のようだ。
「啓さん」
声が脳に響く。視界には美しい物が一面に貼られている。脳が体の力を抜くことを強要したかのように、いきなり入っていた体中の力が無くなっていく。
「啓さん、あなたが悪いんですからね。ちゃんとわたくしの事覚えて頂いてたなんて……」
その言葉を聞いて脳が震えを起こし始める、何か奥底にしまっていたようなものが引き出されていくような感覚が頭の中を支配し始めた。
脳が浸食をされ始める。
体から何か無理やり引っ張られているような。
ああ、まあいいか。
不意にそう思った。
「啓様、何をしているんですか? 彩様そのけだものから離れてください」
ポンと軽い音が頭上から音が聞こえる。真剣そうな顔をしたメイド服の美月が何かを訴えるような顔をして立っている。
「襲うなら私にしてください!!!!!!!!!!」
真剣ではなさそうな顔をしたメイドが上から大事なことを言ってきた。
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