第21話 混乱ですのよ、このまま攻撃で完封勝利ですわ!

「はい、私は啓です。よろしくお願いします」

「啓さん、初対面の人に名字を名乗らないのは失礼でしょう? ちゃんと名乗るのですわ!」

幼子を怒るように凉坂さんが声を上げる。多少ピリピリとした空気が流れる。彼女の説教は、常識を持った人が非常識な人に怒るようだった。

朝人分かってくれ、このお嬢様は非常識なんだ。お前からしたら普段プライドの高そうな友人が抱えられてきて、その友人が見目麗しいか弱そうなお嬢様に何一つ逆らわず「初めまして」なんて言われたら自分の頭がおかしくなったと思うかもしれない。


でもお前は正常だ。お前が思ってる華奢すぎるお嬢様の筋肉をよく見ろ。服を着ているにも関わらず筋肉がハッキリと見えるだろう。ちなみにお前の思っている5000倍は力強い。いや、力強いなんてもんじゃない、その女は異常だ。リンゴなんて片手も使わず指が2本もあれば潰すことが容易だろう。


「初めまして、私は啓です。宜しくお願いします」

「啓、啓……。はじめ、まして?」

何とも言えない顔とどもった話し方で朝人は返事をする。相手は混乱しているようだ、これが対戦ゲームならば価値が確定しているはずだ。

あいにくここは現実なようで、相手が混乱すればするほど相手との会話が難しくする。


いや、ここはゲームだ。そう思わなければやっていられない。


もう対戦ゲーム形式で行こう。パワーでごり押しだ。相手は混乱している。

頭の中に片隅に居た、小悪魔凉坂さんを振り払う。よりパワーを信じ切るパワー系天使を頭の中に呼び寄せて、心を一度ドーピングする。


「初めましてですね、どうぞよろしく」

「え……。ああ」

「こちらは凉坂さん、素晴らしいお嬢様です」

「うん、お嬢様?」

「はい、こちらの見るものすべてを魅了していくようなお嬢様です。何者なのかは私もよく分かっておりません」

とにかく混乱を誘うように、普段の口調とかけ離れたものを使った。ノリと勢い、そして強すぎるパワーとにかく生きていくのに大切なことは事はコレだけだ。


「まあ、啓さんったら」

先程までの子供を叱るような声でなく、ポッと効果音が付きそうな明らかに照れているような声だった。なぜか凉坂さんまで混乱というか、少し変になったようだがもう止まれない。


このまま離脱するように押し切るしかない。俺は握力55前後あるんだ、並大抵のことなら押し切れるはずだ。


「美しい姫君よ、あなたの側近をお忘れでは? そろそろ別の場所を探しに行きませんか? 彼もいきなり距離を詰められて疲れているようです」

朝人の混乱を崩さないまま、お嬢様にアタックを仕掛けた。おかげで口調がかなり気持ち悪い。きっと夜寝る前思い出して死にたくなるが、今はパワーで行くしかないんだ。


「ええ、啓さんがそう言うなら、ではそちらのあなたもお元気でですわ!」

独特の挨拶をお嬢様がして、僕を抱えながら再び走り出す。この際行き先はどこだっていい。

パワーでごり押したことによって友人を完封で来たんだから。


少し走って校舎裏に来たところで凉坂さんが足を止める。

僕を校舎の壁際の地面にゆっくりとおろし始めた。久々の地面だ。


「バン」と僕の隣から激しい音がする。

それは鉄砲のような音だったが、横にあったのは弾丸ではなく凉坂さんの手だった。

「啓さんが悪いんですからね」

夕日のせいか少し下から見上げた凉坂さんは、やたらと赤くて綺麗に映った。


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