普通の石

尾八原ジュージ

普通の石

 むかし、弟から石をね、もらったんですよ。旅の土産だって。

 見たらめちゃくちゃ普通の石なんですよ。これのどこが土産なんじゃいって文句つけたら、あの×××岬で拾ったっていう。

 つまり有名な自殺の名所にあった石なわけです。何人もの自殺者が死の直前に踏んだやつかもしれん――なんて言って。

 もうね、アホかと。バカかと。そんなことで喜ぶなと。

 で、持って帰れやボケェって、その石ぶつけてアパートから追い出したんですよ。原付出してく音がしたから、「あぁちゃんと帰った、せいせいした」と思ってたんですが、弟のやつ、その後原付でコケて死んでね。

 まー、それでポケットの中に入ってた石が遺品になっちゃったんですよね。ていうか、そもそもおれが何も言わなきゃあのとき弟は家に帰らなくって、そしたら事故にも遭わなかったかもなんて、なんかそんなことばっか考えてしまってね。捨てられなくなっちゃったんですよ。石。

 いや、石の祟りで死んだとかはさすがにないと思いますけど。さすがにファンタジーが過ぎるでしょ。

 でね、その石はずっと持ってて、結婚して引っ越すときも一緒に持ってったりして、わりと大事にしてたんですよ。

 でも嫁がねぇー、嫌がるんですよ。なんか、石からぼそぼそ人の話すような声がするから捨ててくれって。

 でも捨てられないでしょ。弟の遺品だもの。

 そしたら嫁のやつ、勝手に捨てたんですよ。その石。

 もーう、大喧嘩ですよ。どっかの川辺に投げてきたなんて言うから、ほんと腹立って。ふざけんなお前弟の形見だぞ、とっとと拾ってこいやって、家から追い出したんです。

 それでも何時間か経ったら頭が冷えてね、嫁さんまだ帰ってこないな、さっきはおれもやり過ぎだったなって反省してね。そろそろ探しに行くかなぁなんて思ってた頃、嫁はトラックに轢かれて死んでたんです。

 嫁のポケットの中に石があってね。これがちゃんと例の石なんですよね。ああ、この石拾いに行ってくれたのかって、結局それが嫁の形見にもなってしまって。

 あっ、そう。今バッグに入ってる。持ち歩いてるんですよ。なんでわかりました? はぁ、バッグから人の話し声がする? いやいや、担がないでくださいよ。さすがにないわぁ。ははは。

 あ、見ます? 別に普通の石ですけど。これのせいで人が死んでるとかじゃない、全然普通の石ですけど。

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