第202話 悠久の時を超える数奇な縁
シャラーラには、長い長い髪がある。魔力が通っているその髪は、地面に着く長さなのに、ゆらゆらと揺れながら浮いている。
「レンは何も言わなかったがの」
「とにかく。男性の前でその、はしたない格好はやめて」
「汝も以前は」
「今は男性が居るじゃない」
彼女の、服を着たくないという強い信念を覆すことは、今の私には不可能だ。折衷案として、その髪で胸と股間を隠してもらうことになった。やれやれ。
いや、種族文化多様性を否定しない私が変なことを言っているのは分かっているのだけど。
「――懐かしい匂いがするの」
「えっ?」
談話室に案内される。ソファに並んで座った途端、ガラステーブルに私達3人分のカップが出現した。既にお茶が注がれている。
「ま、後で良い。自己紹介からであるの。
「ええ。今回はその報告でもあるの。シャラーラは、私の人生の目的に、ひとつの手段と方向性を与えてくれたのよ」
不敵な笑み。その笑顔の奥に、悠久の時を越えてきた魔人としての知性が見える。私からしても、まだまだ分からないことだらけの友人だ。
「私はルフ・アーテルフェイスと申します。エルルのパーティメンバーで元護衛です。ラス港にデーモンが居るという話は妹からも聞いていました。生ける伝説に会えて光栄です。シャラーラ殿」
「ほう。妹?」
「ルフェルという、レンやピュイアと同じ船の商会員です」
「ああ! あの自然信仰の草原エルフか。一度会うたがやつがれには興味が無いようだったの。汝は自然信仰ではないのか」
「はい。私は割りと普通のエルフです」
シャラーラに続いてルフが自己紹介をした。
「……で。汝か。ニンゲンのようであるが、魔力を感じるの」
「えっ?」
次に、シャラーラはジンを見てそう言った。私は驚いて声を出してしまった。
ジンからは、魔力など感じないからだ。
「ジンから魔力? 視えないけれど」
「ふむ。エーデルワイスの魔力視か」
「……ええ。そうよ」
私は魔力を視ることができる。これは母と同じで生まれ付きの才能だ。森のエルフであるエーデルワイスに受け継がれる能力。それを以て、断言できる。ジンに魔力は無い。というか、ニンゲンだから当然なのだけど。
「あー……。これかな? 魔法関係と言えば」
ジンは、きょとんとした顔で剣と手袋をテーブルに置いた。
魔導術の武器だ。魔を導く道具。魔素に干渉して、命令を書き換える。でもこれ自体に魔力は通っていない。不思議な素材で作られたと聞いたけれど、やはり魔力は感じない。
「であるの。手に取っても良いかの」
「うん」
シャラーラはまず黒い手袋を持ち上げた。まじまじと、色んな角度から見たり、ふにふにと触ったり。それから剣。長く大きな剣をひょいと持ち上げ、同じようにジロジロと観察した。
「…………こんな所まで、来たのか」
「?」
そして。
懐かしそうに、笑った。
「ふむ。説明するかの。汝、名は?」
「あっ。ジン……です?」
「家名は?」
「無いよ。親も孤児の冒険者だから」
「そうか。この剣はどこで?」
「ええっと。キャスタリアのアルニア。魔導の師匠に借りてるんだ」
「その師の名は?」
「え? カナカナって人。確かフルネームは、カナカナ・ヴァルキリー」
「…………ヴァルキリー……か」
「え、知ってるの?」
「そやつは魔界のニンゲンだの?」
「……うん。そう言ってた、けど」
シャラーラはその人の名前も聞き覚えがあるみたいだった。もしかして、魔界で会ったことがあるとか? 他のデーモンの手掛かりだったりして。
「ふむ……。数奇な縁だの。分かった。3人共、裏へ出よ。この剣と手袋の素材とも関係のある、古い魔法を見せよう。汝らの旅の、今後の為になる筈である」
「……?」
説明らしい説明が無いまま。私達は顔を見合わせてから、シャラーラに付いて部屋を出た。
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