第9章:太古から連なる愛情
第201話 自分を貫く女たち
私は生きている。
何故?
母が私を産んだからだ。
どうやって?
父と交尾をしたからだ。
性的行為は、愛情表現でもある。
では、父と母の間には。
◇◇◇
私はエルル・アーテルフェイス。
種族はニンゲンとエルフのハーフ。エルゲンという差別用語でも呼ばれることがある。何故ならエルフを始めとする亜人と呼ばれる種族は、ここニンゲン界ではニンゲンから劣等種族だと差別されてきた歴史があるからだ。
私のエルフとしての民族は森林エルフ。
年齢は20歳。
オルス大陸オルス国にあるエルフの生息地、巨大森――正式名称、オルス国指定特定文化的亜人保護区で生まれ、11歳までそこで姫として育った。
そこはエルフの女王である母エルフィナ・エーデルワイスを中心として現代フェミニスト達が作った国で、存在しない男性を憎んで女同士で足を引っ張り合うような歪な場所だった。
外の世界に興味を持った私は、ヒューイというニンゲンの冒険者との出会いによって旅立ちを決意。巨大森を飛び出した。
それから辛いこともあったけれど、旅を続けて、冒険者となり、仲間を作り、魔法を磨いて、世界中を旅している。
今は、和解した母の依頼で魔界との交渉へ、魔界にあるレナリア大陸のプレギエーラという国を目指している。
その為に、冒険者として魔界へ入る資格を取らなくてはならない。それがA級資格。A級冒険者に昇格する為には、試験に合格しなければならない。
実技試験は、ドラゴン退治。ニンゲン界北端、キャスタリア大陸エルックリン山脈にて、魔界から侵入したドラゴンを退治するのだ。
だから、まずエルックリンへ向かうのだけれど。その前に、パーティメンバーであり、ヒューイの息子でもあるジンが魔導術の修行をきちんと終わらせたいと言う。そこは私も了承して、エルックリンまでの道中にあるキャスタリア中部の国、ジンの師匠が居るというアルニアへ向かっている途中だ。
私がリーダーをしているB級パーティ『ニンフ』のパーティメンバーであるニンゲンのジンと、私の
前回までのあらすじとしては、こんなところだろうか。
◇◇◇
「エルフの癖に道塞いでんじゃねえ。どけカス」
会話のできない相手というのは、悲しいかな存在する。今すれ違った彼に、『ではニンゲンであれば道を塞いでも良いのか?』『カスの定義は?』『私がそれに当てはまる根拠は?』と訊ねても、絶対に答えは帰って来ない。
ああ勿論、実践して経験済みだ。
「エル姉ちゃん! 離れるなってば!」
「どうして?」
「……いやほら。今みたいに因縁付けられるじゃん。俺と居れば、変な奴は来ないから」
「………………」
私達がエデンから辿り着いたのは、懐かしきイレンツ国ラス港だ。冬前だというのに、町には活気があり、人通りも多い。
「……そんな不満そうな顔されても」
「論理は分かるわ。私は亜人で女。弱者だから。ニンゲンで男で、さらに体格の良いあなたの近くに居れば、本来女ひとりで町を歩く際に当たる可能性のあるトラブルはいくつか防げて安全になる」
キャスタリア大陸は、最も多様かつ多数の亜人が暮らしている。けれど、差別はなくならない。ニンゲンを至上の存在と位置付け、亜人を不正にニンゲンを真似た魔物と定義している宗教が、広く伝わっている歴史があるからだ。この問題は根深い。大陸でも、国でも、個人でも。それぞれ、立場や意見が異なっている。
色んな種族の入ったバスケット。それがキャスタリア大陸。
「それでも。私は私の行きたい所へ行くわ」
「…………エル姉ちゃん、こんな人だったっけ」
「ああ、ジンは知りませんでしたか。これがエルルの基本的な性格です。全てに対して引きません。逃げません。曲げません。脚を斬り落とされても怯まず男に立ち向かいます。正面から。……愚直と言うのです」
「ルフからのその評価、私は褒め言葉と受け取っているわ」
「えぇー……」
ルフは、ニンゲン社会でのエルフの立場と立ち回りを理解している。だから、町に着いてからはジンにべったりだ。カップルらしく。
「さあほら。こっちよ」
そんなふたりを先導して、向かう先は火花の岬。シャラーラの屋敷だ。
デーモンである彼女からの依頼は、彼女の仲間のデーモンを探すこと。
それについての進捗は無いけれど、私の冒険の話も聞きたいそうだから、たまには寄ろうと思ったのだ。実に、約8年半振りに。
「デーモンか。どんな人?」
「会えば分かるわ。意外と幼い見た目で、服を――」
あっ。
「魔力を感じたぞ。エルル! よう来たの!」
観光地にもなっている岬。その崖際に建てられた洋館から、シャラーラが飛び出してきた。
「待って! ちょ、ジン! 目を瞑って!」
「え? は? お?」
全裸で。
「わっはっは! エルフのメスと、ニンゲンのオスだな!? それが
「服を着てシャラーラ!」
「ぬん?」
慌ててジンの目を塞ぐ。シャラーラは以前と変わらず、幼い少女の見た目だった。以前の私と同じくらいだったのに、私だけ成長したらしい。
褐色でつるつるの肌。薄く光りながら揺らめく長い薄紅色の髪。全身に入った、縄のような炎のような黒い刺青。
何故だか。その、裸の姿をジンに見せてはならないと思ってしまった。
「……わはは。やつがれは家では裸族というやつだの。やつがれにとって、この
腰に手を当てて。胸を張って。
ふんぞり返っている全裸の少女。
彼女が1万年を生きる伝説の種族だなど、ふたりに紹介したくない、かも。
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