第199話 確かめ合う3人の告白
満月の下。
3人だけの世界。温い気温に、涼しい風。漂うのは果実酒の香り。
「……俺、エル姉ちゃんも、ルフ姉ちゃんのことも……。その。……だ、大事……に。思ってて」
「………………」
真剣に。
言い難く、しかし言わねばならない。そう決意した17歳の少年の顔。
私はルフと再度顔を合わせて、少しの安堵を共有した。
この、彼のセリフの文脈的に。
大丈夫だと。
「俺! どっちかひとりには決めらん……なくて。ごめん……」
「ジン。ジン」
「えっ」
いつの間にか顔を伏せてしまっていた彼に呼び掛ける。
ニンゲンは、一夫一妻が基本。
そんなことも、忘れていたのだ。いや、私だって最初はそうだった。その結論に至ったのは、ジンと別れてからだったのだ。
そして。これ以上ない彼の気持ちを受け取った。
最高だ。場所から、ムードから。何から。
「私達は、ふたりともあなたが好きなのよ」
「えっ……。うん」
さらりと、言えてしまった。酒気のせいだろうか。いや違う。
「ジン」
「……ルフ姉ちゃん」
ルフの番だ。ふたりが目を合わせる。ジンは頬を染めている。
かわいい。
「実を言うと、私はあなたの父親に惹かれていました」
「!」
そして、この告白。
ルフも本気なんだ。これで、ジンがどう思うか。このパーティがどうなるか。それすら懸けた告白。
どうなっても、私は魔界へ行く。ルフも付いてきてくれる。後の問題は、ジンの気持ちのみ。ここは彼の故郷だ。いつでも断れる。退路はある。
きっと、17歳の初恋の相手としては、私もルフも、重いのだと。自覚はあるから。
「けれど、私はトヒア殿のことも尊敬していたのです。そうして、あなたが生まれた。私の選択は正しく、この為にあったのだと思いました。あなたは最初から、今も。私を魅了してやまないのです。言ってしまえば、ヒューイとは比べ物にならないほど。あなたに出会う為に、ヒューイに一時惹かれただけなのだと」
「…………ルフ姉ちゃん」
ここで、ルフの感情も引き出す。それもしたい。この人は、自分を圧し殺すことがあるから。私に遠慮しないで欲しい。全て。今夜。ジンにも私にもぶつけて欲しい。
「私達は、ふたりで話し合いました。ジン。あなたに――ふたりとも、貰ってもらおうと」
「えっ!」
ジンは、素っ頓狂な声を挙げた。まるで予想だにしなかったことを告げられたような。
「……ふふ。そうね。けど、少し違うわ」
「はい?」
「私が。ルフもジンも貰いたいのだけど。良いかしら」
「えっ!?」
ジンがまた首を私に向けて吠えた。
面白い反応。
「…………なるほど。エルルのハーレムだと」
「逆に、ねえルフ。あなたは私が欲しくないの?」
「……………………なる、ほど。そういう……」
これは私の提案だ。3人で。
それぞれ、ふたりと結ばれること。3人共が主体で。
「乱婚、ではないわよね。これも重婚になるかしら。ねえジン。どう? 私とルフに、あなたの気持ちを教えて欲しいの」
「…………!」
ごくり。大きな音が聴こえた。ジンが、生唾を飲み込んだのだ。
「…………ルフ姉ちゃん」
「はい」
これは儀式だ。ニンゲンのでも、エルフのでもない。
私達だけの儀式。ふたりは真っ直ぐ向かい合う。
「物心付いた時から。ずっと好きだった。成長するにつれて、どんどん。……一時は話しかけ難かったほど。ルフ姉ちゃんのこと考えてた」
「ありがとうございます。私も、大きくなっても弟のようなあなたが、大好きですよ」
「……!」
ルフの魔力が、痛い程私に伝えてくる。
歓喜を。狂乱を。色気のある、満面の笑みを。
「エル姉ちゃん」
「……はい」
続いて。律儀に、こちらの正面を向いてくれて。
彼にそう呼ばれると、返事が不思議と敬語になった。
これは儀式だから。
「その……。一目惚れだった。ずっと、見ちゃってた。好きだ。俺、パーティに誘われて。……マジで嬉しかった。絶対に守る」
「……ありがとう。何度も言うわ。大好きよ。私、男性がまだ苦手なのだけど。あなただけは、不思議と大丈夫なの。一緒に、近くに居ると安心するの。その身体が。声が。とても魅力的なの。だから、あなたしか考えられないのよ」
「…………うん」
気持ちを確かめ合う。満月が証人だ。この儀式は、私達の新たな門出に必要だった。
今。
踊りだしたくなるくらい、とっても嬉しい。
「ふたりとも。『ニンフ』新参の俺をよろしくお願いします」
「ふふっ。ええ。ようこそ『ニンフ』へ」
「歓迎します。働いて貰いますよ」
「ああ!」
「勿論、あなたが疲れた時、辛い時は私達ふたりで、癒やしてあげるからね」
「…………っ!」
「おお。言いますねエルル。今確実に勃起しましたよこの男」
「えっ?」
「ちょ……っ」
最高の夜になった。
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