第145話 全身全霊の代償

 フーナは、普段から射撃シュート魔術を使用している筈だ。ならば私の火の玉飛ばしファイアーボールブロウは速度が足らず当たらないと思われる。


火の玉ファイアボール……10連」


 なのに、彼女は私の火の玉を土の結界で防ぐつもりのようだ。つまり、回避には自信が無いのか。


「!? なんですの!? 小石射撃ストーンシュート!」


 私が風に乗って突っ込んでくることにも驚いている。そうか。彼女の基本戦法として、土の結界で防御を固めてから射撃魔術で弾幕を展開するのだ。ああ確かに、強い。


 私は全力で、全身に魔力強化を施す。さらに速度が上がる。最高速。風とひとつになる。石の弾丸は私に擦り傷を作るだけで、当たらない。


 フーナは動けない筈だ。土の結界から出れば火の玉が襲い掛かるから。


「きゃあっ!」


 ドカン。


 最硬度。魔力強化した私の左手が、土の壁を穿った。

 そのままフーナの服を掴み、土の結界を内側から破壊しながら、強引に引き摺り出す。


 ボコン。


「え? えっ!? きゃ!」

「――――飛ばしブロウ


 胸ぐらを掴んだまま。私は空中に漂わせておいた10個の火の玉を、順番に飛ばしていく。


「魔力強化で防御しなさい」

「!?」


 ドカン。


「がぁっ!? げほっ! ごほっ!」

「ぐ……。ごふっ!」


 1発。凄まじい熱と衝撃。頭が揺れる。命が、揺れる。だけど負けたくない。


「次、行くわよ」

「なっ!?」


 ドカン。

 当然、私も巻き込まれる。火の玉はその性質通り、弾ける時にとにかく周囲を巻き込む。


「がはぁっ!」

「ぐぅっ!」


 口から煙が出る。ああ。良いな。


 心地良い。


 身体が焦げ始めている。喉が熱い。声を出すのも苦痛だ。


 これは一撃でもニンゲンを殺害できる威力なのに。お互い、我慢強い。よく耐えるな。

 それでこそ。


「3発目――」


 ゆらり。握力が限界だ。ああ。


「げほっ! げほっ! ちょ、こっ! ここ、降参ですわぁ〜っ!! げほ!」

「!」


 ピタリ。


 その叫びで、私の火の玉は止まって消えた。


「…………私の勝ちね」

「と、とんでもない……。けほっ! けほっ! ……あなた、頭オカシイんじゃありませんの……?」

「…………ふふ」


 手を離すと。

 その瞬間、私は前のめりに倒れて意識を手放した。






◆◆◆






 次に目を覚ましたのは、どうやら2日後だったらしい。


「目が覚めましたわね」

「…………」

「あっ。動いてはいけませんわ。右腕の損傷が激しいので。全治1ヶ月ですわよ」

「………………ぅ」


 フーナは、その2日で完全回復しているようだった。自慢の髭は少し短くなっていたけれど。ピンピンしていた。


「エルル!」

「あらぁルフさん。そんなに慌てなくても」

「違います。これはエルルの症状です。私が今から伝えることを信じ、そして必要な物を用意していただけますか?」

「……げっ、けい?」


 ああそうだ。

 来ている。


 重い。しんどい。ああ。経血が出ている。

 フーナはきょとんとしている。知らないのだ。亜人には無縁だから。いくらニンゲンの王国と繋がりがあっても、そんなことまで共有しない。アラボレアへ来る使者もきっと、皆男性だろうし。


「……魔力、侵蝕……が」

「はい。分かっています。無茶しすぎです。起きなくて良いです。もう数日寝ていてください。ルフェルに貰った香を焚きますから」


 侵蝕が重い。駄目だ。胃の奥が、ぐるぐるしている。


「がぷ……」

「きゃあっ! 血を」

「魔力侵蝕です。過度に驚く必要はありません。いつものことですから」

「そっ。そうなんですの……?」

「エルル。タオルです。もうお任せ下さい」

「…………ええ」


 今回は少し変則的だ。ああ、こんなに魔法を使ったのも久し振りだからだろう。上から下から、血液が流れ出る。


 私が正面から全力で戦うと、その勝敗に関わらず


 これでは勝ったとは言えないわね。

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