第146話 改めて交わす姫と姫
それから、記憶が飛び飛びだ。本当に無茶をしたんだと思う。それと右腕の負傷も相まって、私の高熱は何日も続いたように思う。
ルフは私の世話をしてくれつつ、フーナとも話す機会が多かったようだ。ふたりで何を話していたのかは、分からないけれど。
◆◆◆
そして。
「あらぁ。随分顔色が戻ってきましたわね」
「フーナ。ありがとう」
「わたくしは何もしていませんわよ」
上体を起こして、会話ができるようになった。右腕はまだ、木製のギプスで固定されている。
「全く難儀な身体ですわね。そんなに弱い身体で、わたくしに勝った女とは思えませんわ」
「……そうね。毎度、魔法戦は命懸けなのよ。そうしないと、死ぬから」
「…………まあ」
小屋に、フーナと護衛がふたり入ってくる。彼らが用意した木製の椅子に、フーナがふわりと座った。
「完敗ですわよ。わたくしよりあなたの方が辛く、死に近かったのに。わたくしの方が早く音を上げて降参してしまいましたわ。差は、覚悟の差。試し合いなど、あまりするものではないと思い知らされましたわ。次からはわたくしも、命懸けで戦いますわよ」
「……できればもうあなたとは戦いたくないわ」
「何故?」
「…………あなたとは争っていないからよ」
「まあ」
彼女は
私は冒険者。
往く道に障害が無いのなら、戦闘魔法なんて覚えるつもりは無い。魔法はただの手段に過ぎない。
「分かりましたわ。勝負はわたくしの負け。では、ドワーフの全てをお話しましょう。……元々、勝負自体が取引内容ですので勝っても負けてもするつもりでしたけれど」
「ええ。でも勝ち取ったという気持ちは良いわね」
「ふん。悔しいですわ」
山を登り、戦い。
ようやくだ。
◆◆◆
「その前に、まずはっきりさせておきたいことがございますわ」
「なにかしら?」
とても、王族には似つかわしくない小屋で。
私はベッド。
「エルルさん。いえルフさんも。あなた達は初めにアーテルフェイスと名乗りましたわね」
「!」
思い至る。ナメるなと、彼女が言ったことを。
分かっていたのだ。だから私達をここまで通したのだ。だから私達に、対等に接するのだ。
「ここを。南レドアンアラボレアを辺境とお思いかしら? それは、離れている距離が距離ですので、王族貴族くらいしか知らないでしょう。……エルフ王族の家名ですわ」
「!」
驚いて衣擦れをしたのは護衛の男性達だった。彼らは知らなかったのだ。
フーナが、赤い瞳でこちらを睨む。
「……ええ。確かに名乗ったわね。けれど、試したつもりでも、嘲る理由でも無いの。私達がエルフの姫であることは事実だし、私達は今冒険者として旅をしているから。アーテルフェイスは名乗るけれど、姫と自称はしないことにしているの」
「…………なんですのそれ。アーテルフェイスは絶滅説もあるほど数を減らしたとお聞きしておりますわ。そんな、貴重な姫が。護衛も付けずにたったふたりで。……冒険を?」
「そんなに不思議かしら」
「……当たり前ですわよ。しかもひとりはエルゲン? そんな、か弱い身体で。……馬鹿ではなくて?」
「ふふ」
不思議だろうか。ではやはり、私は愚者なのだろう。エデンのエルフだけでなく、アラボレアのドワーフもそう言うのだから。間違いない。
「……あなたが魔法に対して抱く探求心と同じよ。私は、世界を旅することを喜びとしているの」
「………………!」
そして。
きっと、フーナも愚者なのだ。私がそう言うと、途端に同族を見付けたように目を輝かせたのだから。
「なるほど。それなら分かりますわ。……いえ分かりませんわよ! わたくしは三女! 国と種族を考えなくても良い立場だから好き勝手させていただいていますのよ?」
「同じよ。というか、私は死ぬつもりも無いもの。必ず島に帰って、想い人と結婚するんだから」
「まっ!」
姫としての責任?
子を残すことだろうか。
私には無理だ。エルフの血は、私では紡げない。ジンとの子だって、授かるかどうか分からないのに。
自由にして良い。それが冒険者なのだ。
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