第143話 試し合う魔の道の専門家

 フーナを追って到着したのは、平面の地面だった。周囲に崖も無い、広い空間。あれからさらに登ったので、標高は恐らく8000メートルくらいだと思う。


 陽が高くなってきた。気温が上がっていく。


魔法武闘場マジックリングですわ。魔法を使った武闘というのは、娯楽のひとつですの。ガルバン王国には大きな闘技場があって、そこからアイデアを戴きましたのよ」

「……ニンゲンの文化ね。上手く融合できているのね」

「ええ。棲み分けは大事ですけれど。今の所は、上手く」


 ふたりだけ。


 武闘場と呼ばれたこの広場は円形だ。縁には壁がそそり立っていて、その上から観客席が建てられている。今はルフとフーナの護衛が居るのみだけど。恐らくは数千人規模で収容できる観客席だ。


 向かい合って、立つ。


「ま、赤字経営ですけれど。わたくしほど魔法戦に興味のあるドワーフは少ないんですの。ニンゲンのお客様はここまで登って来れず。……綺麗でしょう? まだ魔物以外ではわたくししか、ここで暴れていませんのよ」


 一定間隔で、中心の点に沿って円が描かれている。狙いを付ける時に役立ちそうだ。それだけの、殺風景な地面。


「それで? 私とあなたが戦うのかしら」

「ええその通りですわ。ああ、殺し合いではなくて、ですわよ。魔力枯渇、気絶、降参。この3つが敗北条件ですわ」

「…………なるほど」

「エルル!」

「ルフ」


 観客席のルフを見る。眼で分かる。私がやりましょうかと物語っている。


「いいえ、ルフ。私がやりたいの」

「…………分かりました」


 彼女は私を心配してくれている。けれど、試したいのだ。私が今、魔法使いとしてのか。

 この、ドワーフの姫であり魔法愛好家マジック・マニアである、フーナを定規にして。


「では、参ります。なるべく沢山、魔法を使っていただけると嬉しいですわぁ!」

「!」


 地面が、揺れた。地震ではない。魔力の流れが。フーナを中心に。

 フーナの足元の地面が凹み、周辺の石や枝、砂が浮き始めた。

 物理に影響を与えるほどの、魔素が集まっている。魔力が放出されている。


「まずはですわっ! 水浸しアクアドロウン!」


 右手。フーナの翳した手の平の先数メートルから、水の塊が現れた。それは私を追跡するように、高速で飛んでくる。


「当たれば凍らせますわよ!」


 私は風を使って避ける。だけど、水の塊もフーナの支配下にある。追い掛けっこだ。円形武闘場の壁を走って避ける。


火の玉飛ばしファイアボールブロウ!」

「むん!」


 走りながら漂う塵を発火させ、フーナへ吹き飛ばす。水を操る集中力をそちらに向けたフーナは、土の魔法で壁を作って火の玉を防ぎ、同時に私を追っていた水の塊も支配を失ってべしゃりと地面へ落ちた。


「土魔法ね。確かに、ドワーフに勝つにはあれを突破しないと」


 私はこの試合を、ワフィやエルドレッドとの再戦に向けての予行演習のつもりで臨もうと思う。多彩な魔法。魔力量。仮想敵としてはこの上ないだろう。


「では、を」

「?」


 土壁を崩して、再度フーナが手をこちらへ向ける。いや、指だ。先端が向いている。


水玉アクアボール5連。……凍結フリーズ!」


 その、小さな手の周りに。水の塊が5つ、発生したかと思えば。形を変えて即座に凍って、先端の尖った氷柱つららとなった。


氷柱飛ばしアイシクルブロウ!」

「!」


 それらが、また襲ってくる。軌道が5つとも違う。速度が違う。あらゆる方法で、あらゆる方向から。私を串刺しにしようと飛んでくる。


 避けきるのは難しいだろう。


「…………!」


 いつもの風の結界を張る。『飛ばしブロウ』系魔法の射出力は使用者の風魔法頼みだ。フーナがいくら多彩でも、風という一点に於いては、出力は私の方が上の筈だ。何故なら、結界を見て最初、彼女はから。そんな使い方を思い付かない程度の威力である筈。


 目論見通り、5つの氷柱は風に破壊され、飛ばされ、私に当たる前に砕け散った。


「正式には竜巻トルネードと言うらしいですわねそれ。……良いですわねぇ。では、で行きますわよ」


 この結界は、6年前ですら、あの鉄風のニードが突破できなかったのだ。自信のある、自然界相手でも使える、私の得意魔法だ。


凍結フリーズ!」

「!」


 また。

 いや、今度はひとつだけ。氷柱を作ったフーナ。

 手を、銃の形にして。しっかりと、私を狙っている。


「…………やってみなさい。飛ばしブロウでは結界は抜けないわ」

「ええ。ですから、ですわ」

「?」


 ぞくり。

 変な、魔力を感じた。私の、魔力知覚が。危険を告げた。


氷柱アイシクル――射撃シュート!」

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