第136話 常識を超える異文化
とはいえ。
いつまでも魔封具を着けていては不便であることに変わりない。エルドレッド達の居そうな大きな街に入る時以外は、無理をして着けなくても良い。
きっともう、あのふたりはレドアン大陸から出ているだろうし。
「そろそろ砂漠を抜けそうね。緑が近くに見えてきた。あれが山地ね」
「はい。大砂漠を南に越えると南レドアンです。通称ドワーフの聖地。山地のドワーフに鉱山のドワーフ、洞窟のドワーフ。主にこの3民族が暮らしています。勿論ニンゲンの国や、その他少数の種族の集落や里もありますけど」
暑い。
レドアン大陸だけ太陽が近いのではないかと思うほど、オルスやキャスタリアよりうんと暑い。強い陽射し。高い気温。
『止まれ』
「!」
砂漠を抜けて。山の麓までやってきた、その瞬間だった。
魔法の会話。いや、拡声器の魔法に近い。方向は南。山の上からだ。
「エルル」
「ええ。ドワーフね。もう、探知されているということ」
入山を拒むのだろうか。ファーストコンタクト。魔力反応と音でのコミュニケーションだ。エルフということはバレていると思う。けれど、私達の肌の色までは分からない筈。
『この山は商人と王国の遣い以外は立ち入りを禁じている。そなたらは何者だ』
男性の声だ。見張り役なのだろう。姿は見えないけれど、強い魔力は複数感じる。
『私達はエデンの冒険者。森のエルフと草原のエルフよ』
『………………この山に何用か』
話が通じた。どうやらエルフというだけでは排除しないらしい。けど、敵意は感じる。
『ドワーフという種族について勉強したいと思っているの』
『何故だ』
『……私達の敵の内に、ドワーフが居るから』
『話にならん。同胞を殺させる為に同胞を売る者はおらん』
『彼は亜人狩りなのよ』
『…………なんだと』
最初から正直に全て言う。当たり前だ。それが私のスタンス。嘘を吐いて入山しても、私の中に凝りが残る。それに、バレた時にはもう、信頼は取り戻せない。
『その亜人狩りのドワーフの名は』
『ワフィと名乗ったわ』
『………………』
恐らく、見張りのドワーフ達で何か相談しているみたいだ。まさかワフィがこの地に縁があるとは思えないけれど。
『条件がある』
『ええ』
ここのドワーフ達と、友好関係を築けるだろうか。ニンゲンとエルフが治める土地以外との外交は、これが初めてだ。私達の常識とは全く違う文化がある筈。本来なら商人と、友好国の使者以外受け入れていない排他的な山のドワーフ。その条件は。
『何人産めるか?』
『?』
しばらく。
固まった。
私はルフと目を合せて。交互に山を見て。
お互いに首を傾げて。
「あっ」
いち早く察したのは、やはりルフの方だった。
「エルル。やめておきましょう。舐められています」
「えっ?」
「私達がふたりともメスであることは魔力感知で知られています。私達が彼らへ用意できる報酬が、無いのです」
「………………だから、国家繁栄に基づいて、ドワーフの子を産めるのかと訊いているのね」
「はい。断りましょう。1年も2年もここに滞在する訳にはいきませんし、夫を予約している私達にとって、知識との引き換えに子宮を貸してやる訳にはいきません。何よりエルルは――」
「…………」
凄い。
これが、異種族文化。
私達の常識や倫理を軽々と超えてくる。想像もしてなかった条件だ。そして、言い分として筋は通っている。私達はただ知識を欲しているだけで、彼らに見返りを何も与えられない。国の為にと考えれば、確かに子を産むことは彼らの為になる。物凄い理論だ。
オルスのエルフが聞いたら発狂するかもしれない。
『それ以外での貢献を、あなた達に示せば入れてくれるかしら』
『子宝より有意義な見返りを持っているのか? それ次第だ』
私達をきちんとメスとして認めてくれている。だからこその条件なのだと思う。これも、性差別とは言わない。
何故なら私とルフは、事実メスだからだ。デリカシーは無いけれど、差別発言ではない。確かに子供は、国にとって最上位の宝と言える。これはどこも同じか。
寧ろ、現状オスより有利なのか。私達がふたりともオスなら、ただ断られて終わっていた。交渉の余地があるのは、私達がメスだったからこそ。
ああ。間違いなく、これが異文化だ。
面白い。
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