第135話 準備万端で危険なふたり旅
丸2年。
ここで修行した。
18歳になった。
砂漠の魔法を完全にマスターした私は、そのまま大砂漠を一周して。
無傷で生還した。
以前は魔物の群れに襲われてどうしようもなかったけれど。
今はもう。この砂漠で死ぬ気はしない。何十年だって生きていける自信がある。
「あー。だぶっ!」
「おー? はは。エルルの白い肌が珍しいってよ」
「ふふ。可愛いわね。やっぱり赤ん坊は本当に可愛い。キノを思い出すわ」
旅立ちの日。
とても可愛い女の子を産んだルヴィと、里の皆が見送ってくれた。エドフィンにフィールに。皆。
「ルヴィはあとどれくらい滞在するの?」
「んー。実は思ってたより孕むの遅くてな。ちょっと手紙で、レンに遅れるって報告してる所だ。やっぱしばらくはオレが面倒見たいしな。一応乳離れまでは」
「良いなあ、お母さん。ここなら皆手伝ってくれるみたいだし。安心ね」
「おう。まあヒトの群れとしちゃそれが普通だと思うけどな。オレも今後何度か帰って産むし、50年後くらいにはレンも死ぬ。それから商会辞めて帰ってしばらくは産んだり育てたりするぜ。オレも砂漠のエルフだからな」
「…………商会、辞めるのね」
「そんな顔すんなよ。オレはレンに誘われたからやってるだけだからな。……別にお前との縁が切れる訳じゃねえだろ。ここに来りゃオレは居るんだからよ」
「……そうね。また会いましょうね」
「おう。遅くとも再来年にゃまた船に乗ってるよ。アーテルフェイス商会をご贔屓に。ヒメサマ?」
「あははっ」
ルヴィとはしばらくお別れだ。彼女からも沢山学ばせて貰った。良い教師だった。
「それとルフ」
「はい」
「ルフェルのことは任せろ。な?」
「…………」
ルフは少し目を見開いてから、諦めたように笑った。
「……先に言われてしまいました。私、意外と顔に出やすいのですかね」
「オレが暗いのに敏感なだけだ。オレはどっちかってーとルフェルよりルフの方が心配だぜ」
「そこは大丈夫よ。私が居るもの」
「エルル」
「ははっ。おう。フォローし合うのは良いことだぜ。女ふたりの旅だ。男一人旅より危険だぜ」
ルフは冷静であるがゆえに、時々凄くネガティブになることがある。ルフェルと働いているルヴィには、ルフを見て何か感じるものがあるらしい。
「それじゃあ」
「おう」
「お世話になりました」
里の結界から出ると同時に。私達は魔封具を装着した。
お揃いの、鼠色の魔封具を。
「さ。行きましょうか」
「はい。……それで、どこへ向かいますか?」
訊かれて私は、顎を撫でた。
「…………結局、誰も教えてくれなかったけれど。この砂漠のエルフの里が戦争のやり方に詳しかったのって、どこかと争っていたからよね」
当然考えていた。次の目的地。
「……山地のドワーフですね。口伝ではありますが、山をドワーフ達に追われたから、レドアンのエルフは砂漠に出るしかなかったと。数千年前の伝説ですよ。けれどそれからずっと、小競り合いは続いているようです。ここ100年程は落ち着いているみたいですが」
ここから、更に南。
遠近感が麻痺してきそうな地平線の先に、緑色の山が薄っすらと見える。……筈だ。真っ直ぐ進めば。
「行くのですか? 敵地ですよ」
「私はオルスの森林エルフだし、エデンの冒険者よ。……ドワーフのことも知らなきゃいけないじゃない。ワフィの探知魔法をどうにか掻い潜らないと、折角訓練した魔法が使えないわ」
「探知対策は魔封具と魔力ステルスで良いのでは?」
「……魔封具を着けた私達はただのメスじゃない。初回に意表は突けるけれど、それで殺せるほど甘くない筈よ。やっぱり魔法戦になる。できることはしておきたいの」
「…………分かりました。私はエルルに付いていきますよ。どこでも」
「ありがとう」
「それに、なんだかんだと理由を並べても、結局はドワーフの里に行ってみたいという探求心では?」
「……ふふ。ルフにはお見通しね」
「まったく……」
久々にルフのジト目を貰って。準備万端。
私達は旅を再開した。
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