第137話 髭を揺らす高貴なる者
『待て。森のエルフと草原のエルフだと? 大陸が違う。メスふたりがどうやってこんなレドアンの奥地まで来た』
『普通に。ウラクトから歩いて来たわ。魔法があれば旅自体に不便はないもの』
『…………夜まで待てるか。話を付けてみる』
『ありがとう』
大前提として。
彼は紳士だ。
何故なら、今現在私達が強姦されていないから。
子宝が欲しいならそうすれば良いからだ。探知魔法のある彼らはいくらでも私達へ不意打ちができる。無理やり捕まえて犯すことは容易に可能なのだ。
排他的だけど、文明的だ。
「……亜人狩りに狙われて命が危ない。その緊急性が伝わったのかもしれません」
「つまり、急にやってきた異種族に対してある程度情状を鑑みれるほどの余裕が、今の彼らにはある訳ね」
「商人と王国使者ですか。……恐らくは山を越えた先のガルバン王国でしょう。ニンゲン界最南端の先進国です。なるほどドワーフとの独占交易の結果、先進国になるまで発展したのかもしれません」
「レドアン大陸のこんな事情までは、オルスに居たままじゃ絶対に知らなかったわ」
夜までは時間がある。私達は風の結界を張り、少し休むことにした。
◆◆◆
「もし、断られたらどうしますか?」
「そうね。ではその、ガルバン王国へ寄ってみようかしら。それと、ここ以外にもドワーフの国があるのならそちらにも。この山を迂回して旅を続けるわ」
私は、高度な土の魔法をまだ使えない。だから、雨風を凌げる基地は作れない。こうやって、風の結界で代用するしかない。建てたらそのままにしておいて良い壁や屋根の魔法よりも、維持と調整に都度魔力が必要な風の結界は私の身体には負担と言える。そう長い間は保たない。ルフと交代で行うにしても、彼女の魔力も多くない。一晩程度が限界だ。
「ここからガルバン王国は、隣国とは言え遠いですよ。大砂漠ほどではないですが、もうひとつ砂漠を越えなければなりません」
「そうなの? なんだか距離感が狂うわね。そうか。まだ南レドアンに入ったばかりなのね」
「嬉しそうですね」
「そう見える? ふふ。世界は広いわね」
風の結界の利点は、土の壁や天井と違って空が見えることだ。
本日は快晴。
段々と、陽が沈んでいく。雲が染まっていくこのオレンジ。自然の神秘の色。好きだ。
「しかし、彼らに与えられる利益、ありますか?」
「うーん……。例えば他の大陸や外国の知識とかかしら。いやでも、要らないわよね。となると彼らの仕事を無償で手伝うとか、冒険者らしく民の困りごとを解決するとかになるかしら。これも具体性は無いけれど」
しばらくそうして話をしていると。ようやく、空の色も藍色に変わっていって。
「来たわね」
「はい。結界は?」
「維持よ。まだ『交渉』段階だもの」
私の探知魔法と、ルフの知覚が同時に反応した。山から降りてきたのだ。一団。
10人ほどのオスのドワーフを引き連れて。先頭には――
「あらぁ。本当に白い肌。海外のエルフですわねぇ」
少女。
いや、外見では年齢は判断できない。少女の姿をした、小さなドワーフが居た。後ろのオスドワーフ共々、清潔で豪華そうな服装だ。革と鉄を組み合わせたような民族衣装。赤や黄、橙が基調だ。
「初めまして。私はエルル・アーテルフェイス。彼女はルフ・アーテルフェイス。エデンの冒険者よ」
身長は130ほどだろうか。小さい。後ろのオスドワーフ達も、150ほどしかない。
赤茶色の髪。地面に付くほど伸ばして、縦にカールさせている。
肌は黄色。山地のドワーフの特徴だ。
長い睫毛。赤い瞳。
整えられた身なり。品のある所作。地位のある者なのだろう。自信が垣間見える口元。
極めつけに、ドワーフ最大の特徴。
長く胸まで蓄えられた、髭。
金色の装飾品が目立つその髭を揺らしながら、彼女はにこりと笑って手を胸に当てた。
「わたくしはぁ、フーナ・アラボレア。アラボレア山ドワーフ国、現国王ドワイス・アラボレアが三女。つまりはドワーフの姫でございますわ。以後、お見知りおきを。冒険者様」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます