第48話 信念による雌雄を決する時
ズドン。きっと彼は、私の首を飛ばそうとした。けれど、刃は皮膚の表面で止まった。
「…………!?」
ギリギリと、力を込め続けている。流石だと言うほか無い。反動で、短刀を手放さなかったのだから。
「…………私に対するギルドの扱いは、この支部ではユーマンに一任されているでしょう。であれば、今の私の、あなたの言うタダ飯には正当性があるわ」
「なん…………!」
席を立つ。短刀はようやく弾かれて、ニードと呼ばれた男性は一歩距離を取った。
何故刃が通らなかったのか、驚愕と焦りが表情に現れている。
「個人的に気に入らない……という気持ちは理解するわ。けれど、それが殺そうとするほどの憎しみだとは思えない。恐らくは、剣をちらつかせれば屈服させられると、そう思ったのでしょう」
「…………!」
しばらく驚いていた彼も、やがて短刀をきちんと構え直す。
「何故か。あなたが強い男性で、私が弱い女性に見えたから。……つまり武力に勝算があったから、理論の通っていない無茶な因縁を付けて良いと勘違いしたのね」
「…………てめえ!」
エルフはこの国にも居るだろうに。この支部にも、居るだろうに。
「ちょっ……エルルさん!? ニードさん!? なにを……」
「うるせえ邪魔だァ!」
「きゃあっ!」
ガシャン。料理を運んで持ってきたディレを片手で吹き飛ばした。後方へ飛ばされて倒れたディレ。何かソースの掛かっていた料理は地面に散乱し、皿は割れた。
「……魔力強化か。こんなメスガキエルフが使えるとは思ってなかっただけだ。次は刎ねる」
「ああ。対エルフの心得も一応あるのね。だから自信満々だったという訳」
「死ね」
影が揺らめいた。
風の速度で、ニードは迫ってきた。あの体格で、こんな足捌きができるなんて。修得にどれだけ訓練を要したのか。たゆまぬ努力が必要な筈。
「!」
ズドン。
確かにさっきより強力な一撃だった。私は勢いに敗けて吹き飛び、テーブルや椅子を巻き込みながら壁に激突した。
「…………」
立ち上がる。首と胴体はまだ繋がっている。
勘違いしていたのは私の方だった。何が治安維持に役立つ、だ。
このレベルの戦士がうようよ居るのなら、私が戦場へ行った所で、うようよの内のひとりに過ぎない。
「ここじゃ弁償代が積もっていくばかりだわ」
「!?」
丁度、彼は私と入口との間に立っていた。風で吹き飛ばす。私を宇宙空間までノンストップで運ぶ風の魔法だ。彼にはどうしようもないだろう。
ゴウ。と突風の魔法。
「うおおっ!?」
「ふぅ……」
窓がガタガタと揺れる。息を吐く。未だ立ち上がれずに居るディレを一瞥して、私もギルドを出る。
「あなたが、自分は男だからと、私を軽んじていることは分かったわ。……けれど、あなたの基準で言うと、強い方が男なのよね」
「……ああ!? このクソメス…………!?」
風は。
塵を含んで吹き上がり、私の周囲で旋回を始めた。辺りの石や木の枝が浮かび上がり、私を守るように滞空し始めた。
屋内では、満足に使えないから。
ニードは起き上がるが、立ち上がれずに居る。彼の周囲からも、風を徴収する。
「では、私が武力であなたに
「…………なっ。こ、これは……!」
ゾロゾロと、ギルドから観衆が出てくる。窓からも覗かれている。皆、興味があるのだ。
ニードの表情は憤怒から驚愕、そして恐怖へ塗り替えられていく。
触れば無数の擦り傷と切り傷を起こす旋風の中心に、私が居る。その風の威力は丁度、熊のような男性を吹き飛ばすほど。
近付ける訳が無い。
「………………!!」
「さあ立ちなさい。強い男性代表さん。雌雄を決しましょうか」
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