8話 フォレストウルフと小盾の殴打

 武装欄にセットすると、その瞬間左腕に小盾、腰に片手剣が出現した。

 何気なにげに、武器も魔物も実物を見るのは初めてだ。なお、遠すぎてフォレストウルフは鑑定出来なかった。


 伐採斧でそのまま戦うらしく、七匹のフォレストウルフを分断するように動いていた。

 三人が奥にいた四匹を押さえ込み、二人が残った三匹を更に分断して各個撃破していた。

 全員が両手斧という異質な光景だが、彼らは五人で七匹の群れをどんどん削っていく。


「……もしかして、役割で持ち方変えたりしてます?」

「お、よく気がついたね。ざっくり言うとタンク役は斧を盾に出来るように短く、アタッカー役は大振り出来るように長く持つ感じだね」


 同じ装備でも使い手によって大きくけるのさ、と。

 確かに、五人全員が同じ武器を持っているはずなのだが、それぞれの動きは大きく違っていた。特に三人組は顕著で、挑発スキルを使ったであろうタンク役は斧の側面で受け止めたりいなしたりしていた。

 残りの二人は少し短めに持って連撃する牽制役と、隙を見て大振りを叩き込む攻撃役に分かれている。

 あっという間に七匹全てが狩られた。能力差もあるだろうが、彼らは対フォレストウルフにおける両手斧のスペシャリストのように映った。


「おぉ〜早い。かなり戦い慣れてるんですね……管理区域を持っている工房の職人は皆さんこんな感じなんですか?」

「まあ、護衛を雇うところもあるけど勿体もったいないしねぇ……さすがに、伐採斧でそのまま戦う連中はうちだけだろうけどさ」

「まぁ……そうでしょうね」


 少なくとも他のゲームでは両手斧パーティーとか聞いた事が無い。


「皆さん両手斧が一番得意なんですか?」

「いや? さっきタンクしてた奴は大盾とメイスだし、あの中には短剣が得意なやつもいる。ちなみにあたしは篭手だ」


 全員が伐採斧で戦っているのは、いちいち装備を変えるのが面倒だからだそうだ。別に強制してる訳でもないらしい。


「遠出して買い付けに行くこともあるが、そん時は全員自前の武器を使ってるよ」


 そうして再び作業に戻る。俺が五本目の木を切り倒した所で間伐が終わり、帰ることとなった。


「お、ちょうど良いね。レイちゃん、戦ってみるかい?」


 あと少しで街に出ると言ったところで、アイリはそう言った。彼女が指さした方を見ると、はぐれのフォレストウルフがこちらを向いてうなり声を上げていた。


「……やってみます!」


 こちらは大勢いるが、何もしていない状態なら前に出て気を引くだけでヘイトが取れると教えてもらった。オススメは剣で盾を叩く、だそうだ。


 カンカンカンカン……


 謎の金属の音はよく響き、それを聞いたフォレストウルフは真っ直ぐこちらを見据えた。


[フォレストウルフ]

 森に生息する狼型の魔物の一種。同格の狼型魔物の中では連携が特に優れており、群れで行動する際は樹木を障害物として巧みに利用する。


 近づいたことで鑑定が出来た。じっくり読むひまは無かったが、群れがあっさり倒されていたのは職人さん達の分断が上手だったという事だろうと納得。

 鑑定が育てばHPとか見れたりするのだろうか。


「バウ」


 真っ直ぐこちらに向かって走ってくるフォレストウルフ。盾で受けないと防御力が反映されないので、腰を落として左手を構え、向きをしっかりと合わせるのだが……


「ガゥ」

「あいたっ!」


 フェイントに騙されず真正面から盾で受け止めたのだが、ステータスが足りなくて軽く吹っ飛ばされる。体勢を崩されるも、転ぶ前に後ろにジャンプをして事なきを得た。


「あっぶね……」

「正面から受けるんじゃなくて盾で受け流しな!」


 もう一度盾を構えてフォレストウルフと向かい合うと、アイリさんからアドバイスが飛んできた。

 受け流す。受けると同時に横、あるいは斜めに力を加えれば良いのだろうか。そう思って少し右寄りに盾を構えてみた。


「アォーン!」

「あ、やべ」


 さっきのは様子見だったとばかりに更にスピードを上げたウルフに追いつけず、盾の左から噛みつかれそうになる。その結果、


 ゴンッ、ザシュッ!


「キャイン?!」


 顔面を横から盾で殴打し、打点がズレたため体勢を崩しながらも今度は上から剣を叩きつけた。

 今度は姿勢を戻す余裕が無かったのだが、攻撃を受けてフォレストウルフが下がったため追撃は無かった。

 受け流すことにこだわらず、突き飛ばされない事を第一にする。直ぐに反撃するため、突き刺せるように剣は振り被らない。


「……よし」

「バウ」


 正面、左と来た次は……上だ。


 ゴスッ、ザクッ!


「ガッーー」


 盾の上から噛み付こうとしたフォレストウルフの下顎を盾でかち上げ、剣は腹部に突き刺した。気絶したのか抵抗しないフォレストウルフをそのまま地面に引き倒して盾で抑え込みつ、逆手に持った剣で何度か突き刺すとHPが0になった。

 ゲームなので血が吹き出す事もなく、フォレストウルフは砂のようにさらさらと消え去った。その場には牙と毛皮が落ちていた。


「初討伐、おめでとうさん」


 声をかけられたので、慌ててドロップ品をしまって駆け寄る。


「ありがとうございます……かなり不格好でしたけどね」

「いやぁ、初めてであれだけ出来れば十分さね。正直、元々は途中で割り込むつもりだったしね」


 見た目で判断して悪かったとのこと。まぁ、見た目は完全に、華奢で可憐な女の子だしな……


「剣の方は悪くはなかったね。ただ、はっきり言って盾はイマイチじゃないかい? 練習すれば使い物にはなるだろうけど、盾にこだわりが無いのなら他の武器も試した方が良いと思うんだが」


 アイリさんの講評によると、剣の方は鍛えれば切りも突きも上達しそうだが盾の方は最低限になりそうとのこと。鈍器を振り回した方が効果的だろう、と。

 タロを追いかけていた時のイメージと異なりかなりの武闘派だった他の職人さん達も、同じように感じたらしい。


「戦闘そのもののセンスは悪くないんだけどね。ちなみに、盾スキルは習得出来たかい?」

「片手剣スキルは習得出来たみたいですけど、盾スキルは無いですね」

「だろうねぇ……戦い方としては悪くなかったんだけど、盾の扱いそのものは振り回してただけだし」


 実際、盾としての運用は受けきれなかった最初の一回だけで、残りは避けながらの殴打だった。片手剣スキルのように、戦闘スキルはその武器を使えば簡単に身につくらしいのだが、盾スキルが習得出来なかったのもその証拠だとも言われた。

 ただ、それとは別に気になることがある。


「……あと、なんか格闘スキルが生えてます」


 そう。殴ったり蹴ったりはしていないのに、何故か格闘スキルを習得していた。それを聞いたアイリさんは目を丸くした後、盛大に笑った。


「あっははは! 盾で格闘スキルとか初めて聞いたよ。アーツはなんだった?」

「えっと、『フリップフィスト』ってあります」

「あー、弾き防御ね。言われてみると確かにさっきの動きはそれに近いが……小盾装備し付けてるのに盾スキルの『シールドバッシュ』じゃなくて『フリップフィスト』覚えたかぁ」


 大笑いから一転。何かを考えるような表情をしたアイリさんは、何か面白いことを思いついたような野性味のある笑顔でこちらを見た。


「面白いね。せっかくだし、レイちゃんさえ良ければあたしが格闘スキル鍛えてあげよっか?」

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