9話 訓練開始。初日はお預け
昨日はアイリさんを殴って蹴って掴んで引っ張って
……これは人聞きが悪い。工房に帰って報酬を貰い、その後に今の実力を見るからと言われて組み手で色々させられたのだ。余裕でいなされた。むしろめっちゃ手加減されてるのにこちらがダメージを受けた。VIT15だしな……
その関係で安全に訓練するための装備を用意するらしく、訓練する気満々だった俺はいきなりお預けを食っていた。
薬草採取に出掛けても良かったが、前回の戦闘で今のままだとフォレストウルフに連続で遭遇したら死にそうだと実感したので、街の散策を兼ねて古本屋を目指していた。
場所は昨日、アイリさんから聞いてある。
場所はアトラの南東側の外壁寄り、閑静な住宅街といった場所にあった。外観はかなり古ぼけている。最近修理したのであろう箇所とそれ以外との木材の色の差がやけに目立っていた。
営業中の札を確認して中に入ると、実に大量の本があった。本棚に入り切らない分は横に床積みされている。……古本とは言え売り物なのに、こんな扱いで良いのだろうか? 縛られているのも多いし。
そんな事を考えていると、ここの店主が現れた。腰の曲がったお爺さんである。
「そこにあるのはここ数年売れなかった本なんじゃよ」
聞けばここで縛られている本は、売れなければ遠からず廃棄処分になってしまうそうだ。買われても基本的には燃やして灰にされる事が多いらしい。石鹸でも作るのだろうか。
アトラでは古本の大半が図書館か孤児院に寄贈されるらしく、被ったりしてお役御免になった物がここへ集まるらしい。なので図書館に行けば読めるものがほとんどで、わざわざここで買う人は滅多に居ないとのこと。
なお、魔術的な価値があるものは図書館ではなく研究機関へ送られるらしい。
そのためこの古本屋は商売で利益を上げている訳ではなく、街から古本の処分を依頼される形で入るお金で成り立っているらしい。手段は指定されていないので、処理する前に店に並べているとのこと。
「既に縛ってしまったが、気になったものがあるなら言ってくれれば売るぞい。どうせ捨ててしまうのだから、ひとつ10Gでかまわん」
本として読んでくれるのなら、その値段で構わないとのこと。
図書館に行けば同じものがあるのかもしれないが、10Gの出費程度なら買っても構わないだろう。という事で鑑定を併用しながら本の束を見て回っていたのだが……
[アトラの賢者(上)(偽装)]
分類 本
アトラを作った賢者に
(……なんだこれ)
じっと鑑定結果を眺めていると、[看破に失敗しました。]と追加で表示された。偽装であることは見抜けたがそれが何かまでは分からなかった、という事だろうか。
このアトラの賢者(?)は上下巻の二冊があり、どちらの鑑定結果も同様だった。
「アトラの賢者……?」
「アトラを作った賢者様の絵本じゃな。この街の者なら子供でも知っておる」
……魔術的なものは回収されるんじゃなかったか? いや、「本」で「偽装」だから魔導書の様な物を連想しただけで、実際は違うのか?
何だかさっぱりだが、わざわざ偽装が掛けられてる本なので買ってみることにした。
「ちなみに、魔術的な価値のある書物の判別ってどうやってるかご存知ですか?」
「詳しいことは分からんが、魔法や魔術の本を全て集めてから研究者達が選別するらしいのう。子供向けの魔法の教本程度なら、その辺りにも紛れてるぞい」
(見た目が子供向けの絵本だから最初の段階で見逃された……? そんな間抜けな話あるのか?)
そう思いつつ指さされた辺りを鑑定しながら漁っていると「我が子に教える最初の魔法」という教本、あるいは育児書を見つけた。どうせ10Gなのでこれも買うことにした。
その後は調合関連の分厚い、ひとつ500Gの本を二冊追加し、合計で1030G払った。
10Gの本ばかり買うのは何となく気が
せっかく買ったので宿に戻って、とりあえず500Gで買った「0から始める調合の世界」という本を取り出した。0からというのは比喩ではなく熟練度0、つまりスキル未習得者向けの本らしい。
という事で調合スキルを習得するべく読み進めて見たのだが、よく考えたら薬草があっても調合のための器具がない。
何をしてるんだかと思いつつも、第一章「調合スキルの活かし方」が普通に読み物として面白かったので取り敢えず読んでいた。作者はかなりアグレッシブな人物のようで、強敵を仲間が抑えている間に後ろでその魔物に特に効く麻痺毒を調合したお
そうした話ーー調合スキルの魅力語りを経て、第一章の最後に調合スキルを扱う上での常識のような物が
ただの水も宿屋の脇にある井戸まで
取り敢えず、喉が渇いたので井戸に行こう。ますます魔法を覚えたくなった。
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