5話 おしゃれ着は仕事服より高い

 冒険者ギルドに向かいつつもあちこち見て回っていたため、十分経ってもまだ到着していなかった。


(この店は防具屋か。となりは服飾屋だな)


 店の奥には入らず、入口付近に置いてある鎧を見てみた。


[厚手の革鎧]

 分類 体防具

 耐久値 50 /50

 防御力 20

  VIT +15

 分厚い皮と一般的な蜜蝋みつろうを素材に作られた胴鎧。少し重いものの防御力は高く、金属鎧よりも機動性や静音性に優れている。


 価格は7000G。使う予定は無いが、所持金でも買える値段である。

 洒落っ気の欠けらも無い地味な色合いだが、分厚くてしっかりした生地は頼もしさを感じる。

 あまり冷やかしてもあれなので、本命の服飾屋の方を覗く。目標金額を定めるのが目的の為、こちらは色々と見比べてみる。


(お、可愛いなこれ)


[野花のワンピース(白)]

 分類 服飾(体)

 すそに小さな花があしらわれたシンプルな白地のワンピース。


 余裕が出来たら買いたいな、なんて思いつつ、値札を見て固まった。


 15000G。

 先程の革鎧よりよっぽど高価だった。

 ステータスに反映されない服はやはり娯楽の範疇で、お金に余裕があって初めて手を出せる物なのだろうか。

 他の服を見てみるも、一番安くて5000G。

 やばい。何が入り用になるか分からない以上、所持金の半分なんて出せない。


(とりあえず、貯金額で30000G目指すか。)


 おそらく必要な、ポーション費用などを差し引いた上で先程のワンピースの二倍の額を貯めてからどうするか考える事に決め、他の服を進めてきた店員に目標金額を決めに来ただけだと伝え、そそくさと撤退した。


 稼がないと。そんな思いから冒険者ギルドに直行した。

 冒険者ギルドの看板が掲げられた木造の建物には、割と大きな窓ガラスがめられていて外から中が見やすくなっていた。

 中に入ると割と人がいたのだが、左右に分かれていて中央が空いていた。食堂に使うような丸テーブルが左右に並んでおり、中央は列に並ぶための線が引かれている。


「よう嬢ちゃん、ギルドは初めてかい? 冒険者登録か?」


 不意に声を掛けてきたのは、背の高い筋骨隆々な坊主頭の大男。身長差もあって思わず身構えてしまいそうになる容姿だったが、人好きのする笑顔に力を抜いた。


「あ、はい。やっぱり最初は登録ですか?」

「そうだな。依頼を出すしろ受けるしろ、登録は必要になってくる」


 どの受付でも対応してくれるからと教えてくれた兄貴肌な男に礼を言い、空いていた左端の受付に向かう。


「こんにちは、どのようなご用件でしょうか」

「冒険者登録をお願いします」

「冒険者登録ですね。ではまず、こちらに手をかざしてください」


 カウンターの端に置かれていた、手のひらサイズの水晶玉のような物を差し出された。聞いてみたところ、今回は犯罪歴の有無の確認と個人識別に使うのだとか。道具自体の仕組みは受付嬢も知らなかった。

 現実にもあったら便利なのかな、なんて思いつつ手を伸ばすと、僅かに白く光った。


「ありがとうございます。では、こちらにお名前をお願いします」


 流れるような手つきで、一枚の紙と羽根ペンを差し出してきた。

 インクを付けた羽根ペンを近付けると、手が勝手に動いて名前が記された。システム的な補正なのかもしれない。

 インクにけるまでは何も無かったので、瓶を探してキョロキョロしてしまったが。


「ありがとうございます。では少々お待ちください」


 そういった彼女は先程の紙と水晶玉の土台から抜き出した白っぽいカードを手にカウンターの奥へと引っ込んで行ったのだが、直ぐに戻ってきた。手には紐の着いた木札と、小さな冊子を持っている。


「お疲れ様でした。こちらが冒険者証となります。お渡しの前に、こちらの冊子にも書かれておりますが冒険者ギルドの大まかな規則についてご説明致します」


 なるほど、冒険者証を受け渡す前にルールを説明してしまうのか。先に渡すと最後まで聞かない人がいるのかもしれない。


 冒険者ランクはGからSまであるとの事。ただしGランクはクエストを一度も達成したことが無い人だけで、何か依頼を達成すると試験や審査も無くそのままFランクになるらしい。

 クエストにはFからSまであり、自身のランクのひとつ上まで受けられる。先程の説明と合わせると、依頼を達成した事がない人はFランクのクエストしか受けられないということになる。

 また、通常依頼クエストの他に常設依頼というものがあり、主に薬草や特定の素材の納品がそれに当たるという。そのほとんどはFランクで昇格のための実績は溜まりにくいものの、毎回依頼を受けることを申請しなくとも納品数に応じて報酬が貰えるらしい。

 規則の方に取り立てて目立ったところはなく、外部での揉め事の仲裁をする事は無いが街中で問題を起こした場合は冒険者ランクを落とすなどの処分をされることがあるといったものだった。

 受付嬢は一通りの説明を終え、質問はあるかと聞いてきた。


「常設依頼の薬草の情報って依頼書に書いてあるんですか?」


 実はまだ「採取物発見」にセットできる対象が無いのだ 。まずは図鑑か何かで知識を得るか、自力で見つけないといけない。


「一応書かれておりますが、アトラ周辺に生息する魔物や薬草に関する情報は、こちらのパンフレットの方が詳しくまとめられています。常設依頼でしたら、街の東にある『ノルの森』で採取できる薬草が多いです」


 パンフレットは、気づいていなかっただけで最初からカウンターに置かれていた。ちょっと恥ずかしい。

 他に質問がない事を確認し、冒険者証と冊子を受け取りお礼を言って受付を後にした。


 入口から見て左側が常設依頼とF、Eランクの依頼掲示板。右側がDからBランクの掲示板となっている。それより上は数が少ないことと難易度の関係から、受付で直接確認する事になるらしい。


 左側の掲示板の前には人が多く、街中なのに装備している人がパーティメンバーの募集なんかをしていた。彼らはたまにこちらを見るのだが、直ぐに視線を外す。互いの装備を見せるのがパーティーを組むにあたってのマナーなのだろうか。それでもチラチラと視線は感じるが。

 まあ、美少女だし仕方がない。目の保養にしたくなるのは分かる。俺だってたまにメニューでアバターの全身姿を表示してるし。美少女になった特権だな。


 そんな感じでF~Dランク用掲示板の人混みを避け、常設依頼用の掲示板の前に立つ。

 依頼とパンフレットを見比べてみると、メヂヘル、メギクタケ、デイトキという薬草とキノコが三種類が近場で取れそうだった。

 どれもノルの森の浅い所で採取できるとのこと。それぞれHP回復、MP回復、解毒の効果があるポーションになるらしい。


 他にも魔物の素材が依頼の対象となっており、ノルの森で簡単なものだとフォレストラビットの肉と毛皮、そしてフォレストウルフの毛皮があった。

 パンフレットの危険度表記だと兎がいちばん低いのだが、警戒心が高いからか一匹あたりの報酬は狼よりも多かった。肉と毛皮が別々の依頼となっている事もある。

 狼の方は逆に襲ってくるらしいが街の近くに現れるのは群れを追い出された“はぐれ”の狼で、群れに比べると脅威度は低いとのこと。


 まだまだ時間に余裕があるので、一度試しに森へ入ってみる事にした。

 目標金額に比べたら小銭程度にしかならないだろうが、まずは自分の手で稼いでみることが大事だ。


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 ネーミングセンスがつらい。

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