第3話 スイッチを取り戻す旅

「コウッ! そっちに行ったよ!」

「ったく! 逃がすなよ!」

「ソイツすばしっこいんだから仕方がないじゃん!」


 ここに来てどれ位の月日が経っただろうか……。当初はよそよそしかった俺たちだが、今はお互い言いたいことが言える程の関係になってしまった。それに、可憐な制服姿だったユカリも、ここに来て随分とたくましくなった。


 とりあえず現状を報告すると、俺たちはこれまで多くの戦いを勝ち抜き、まもなく魔王に到達するところまで来ている。だが、ここにきて今まさに絶賛ケンカ中だ。

 原因はほんの些細な事。俺が前回の戦いでケガをした際、手当てしてくれた美人ヒーラーに鼻の下を伸ばしたのがいけなかったらしい。


 旅の最初、魔術師のおばぁが予言したことは本当で、二人で一緒に戦っている時は最強なのだが、いったん喧嘩してしまうとスライム1体すら倒せないほど弱くなってしまう。本当に厄介な縛りだ。


 俺は敵の攻撃をかわしながら、ユカリに向かって叫ぶ。


「ユカリ、ごめんな!」

「もう他の女の人見ない?」

「うん! 約束する! これから先はユカリしか見ない!」

「仕方がないなぁ! じゃあ、許してあげる!」


 なんか悔しいが、今目の前にあるピンチを乗り越えるためには仲直りするしか手がない。ユカリと仲直りした途端、身体中に力がみなぎって来る。俺は剣を一振りし、苦戦を強いられていたバカでかいモンスターを一発で倒した。


「コウ! やったね!」


 ユカリが満面の笑みで駆け寄って来る。もうご機嫌は戻ったらしい。俺はユカリの頭をポンポンと叩いた。


 学校一の美少女にこんなことができるようになるなんて……。俺も随分と成長したものだな。


「よしっ、次はいよいよスイッチを持っていったあの黒い怪鳥だな!」


 俺たちは今の勝利で勢いをつけ、そのままスイッチを取り戻しに向かった。


 鋭く尖った山の頂上に近いところに、禍々しく不気味な城が建っている。

 俺たちは正面突破、走り抜けながら門番のモブモンスターたちを次々と倒していく。城の奥に行くにつれ、モンスターのレベルもあがってくる。でも俺たちは勢いそのままに戦い続ける。

 そして、ついにあの黒い怪鳥が姿を現した。その鉤爪にはスイッチが引っ掛けられている。


「コウ! スイッチあった!」

「確認できてる! ユカリ、行くぞ!」

「うん! 右側は私に任せて!」


 そう言うと、ユカリは敵の右サイドに回り攻撃を仕掛けた。同時に俺は左サイドから攻め込む。『仕留めた』と思った瞬間、怪鳥は翼をはためかせ、さらに城の奥へと飛んでいってしまった。

 俺たちは急いでその後を追う。行き着いた先に大きな扉があった。戦いながら走り続け、さすがに二人とも肩で息をし始めている。


 重々しい音を立てて扉が開く。俺たちは用心しながら部屋に足を踏み入れた。

 部屋にはたくさんの蝋燭ろうそくが浮かんでいた。その一番奥、玉座の背もたれに怪鳥が留まっていた。


「ユカリ、嫌な予感がする。慎重にいこう」

「わかった」


 これまでとは全く次元の違う敵が来ると、身体中の細胞が感じ取っていた。

 剣を構えたまま様子を伺っていると、黒いローブに身を包んだ魔王が現れた。二人で同時に攻撃を仕掛けるが、全く刃が立たない。その間にも怪鳥が口から火を吹いてきて攻撃する隙がない。


「キャャャー!」


 別々の場所で攻撃のチャンスを伺っていると、突如ユカリの叫び声が聞こえた。急いで声の方を振り向くと、ユカリが血を流しながら力無く倒れるのが見えた。


「ユ、ユカリ!」


 駆け寄って無事確認したいが、敵の攻撃が凄まじくその場から動くことができない。

 俺は雄叫びを上げ、一人で魔王と怪鳥に立ち向かった。まだ力が残っているということは、ユカリがまだ生きていることだと信じて……。


 俺は体力の限界を超えても戦い続け、ついに魔王を倒し、スイッチをこの手に取り戻した。そして半分転がりながらユカリのそばに向かう。


「ユ、ユカリ……。スイッチ取り戻したぞ。これで戦いも終わりだ。一緒に現実世界に帰ろう……」


 俺は最後の力を振り絞ってユカリの手を掴むと、一緒にスイッチを押した。二人の身体が金色の光に包まれる。俺はここで気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る