第5話

**戦闘終了:勝利


「まさか、ギアが壊れてまで向かってくるなんて」

 ルノイが、倒れた彼女の頬をペちペちと叩く。

「ツグナさんが優しい人でよかったね」


『ルノイ、やめてあげて』

「はあい」


『…彼女には悪いけど、この部屋の修理代持ってもらおう』

 俺は二人分の荷物をまとめ始める。そろそろ騒ぎになる頃だろう。


「逃げる?」

『うん。跳ぶよ』


 ルノイはニッと笑って俺の手を掴む。モード風をセットする。サイレンが近付く前に、俺たちは静かな町に飛び込んだ。



『地球だったら、屋外に墓地があったから、そこで野宿できたんだけど』

 今日の宿代をなくした俺たちは、深夜の公園のベンチにいた。


「僕はこっちの方がいいけどな」

『墓地の方が襲われにくいんだよ。ヒトは死んだヒトを大事にするし、怖がるから』


「生きてる異星人は殺すくせにね」

『そうだよね…俺もそう思う』


「…でもツグナさんは違う」

『…』


 ガサッ。


『ヒト?』

「いや、グロテスクだ。人型だからお金持ってるかも。倒してどこかに泊まろう!」

『ねぇ、何度もきくけどグロテスクを殺すのは…』

「いいの。どうせ僕以外まともな意思なんて持ってないし。ツグナさんもヒトを倒してる」


**接敵:公園

──??(グロテスク 人型)

**戦闘終了:勝利



 朝。


『おはよう、ルノイ』

「ふぁ。おはよう。何してるの」

『…ジルシンと通信』


【おう、小さいの! 元気か】

「何」

【元気そうでなによりだ。えっとだな…昨日二人が倒した、タシアって居ただろ。あいつからの情報なんだが】


 ルノイが顔を顰めた。そういえば昨夜、彼女に罵られたことについて文句を言っていた。

「そんな名前なの」

【ああ。…あいつ、自分なりに協力しようとしてるらしいぞ。今朝早く、お前らを探して来たジャスティスを三人、不意打ちで気絶させて部署まで連れ帰ってきた。自分が助けたフリしてな】


 ジルシンは声を上げて笑う。こうしていると、まるで昔みたいだ。

【とりあえず、今のところ心配はないよ。…あとはお前たちの偽装身分証だな】

「偽装…」


【宇宙船を借りたとしても、身分証がないと確認ゲートを通れないんだ。その管理にはジャスティスも関わってる。そこで本物の身分証を出せば】

「ツグナさんは捕まる」

【そうだ】

 ジルシンは学校の先生のように解説をしてくれた。


【実はそろそろ、その準備が終わるんだ】

【あ! 連絡来ましたよ! 出来たって!】

 遠くの方からカルエナの声がする。


【あー、えっと…この間は何も言えずすみません。わたしたちもなにか協力したくて。わたしのツテで、そういうの得意なヒトが居るんです。今彼女の家の住所送ります】


 ピコン、と通知が鳴った。確認する。

『ありがとう。本当に助かるよ』


【いえ。わたしたち、仲間ですから】

『…! うん。仲間だ』


【泣くなよ。いつだって俺たちは二人を応援してる】

 ジルシンとカルエナの屈託のない笑顔がぼやけていく。ああ、そうか、今、俺は。


「だってさ、ツグナさん」

『うん。ありがとう…』


 溢れ出した涙が、頬を濡らした。

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