第4話

 シティホテルにて。


【…出来たら、ギアに差し込めばいい】

『わかりました』


「ツグナさん、また改造してるの?」

『そうだよ』

「ふぅん」

 ルノイは不思議そうな表情をする。


「…僕を逃がすとか、そういうの、すぐ飽きると思ってたけど」

『飽きない』

「正義嫌いになったの?」

『俺がこれを正義だと思ってるだけ』


 正しくは、正義の基準が社会から自分に変わったから、だ。


「ツグナさんは何であの時、僕と逃げたの」


 この質問ももう何度目だろう。俺はまた同じことを答える。

『移住計画に反対して自殺した初恋のひとに、似てるから』

 彼女に似たこのこどもを、俺は守らなきゃいけないと思った。


「この惑星の生命体を殺すのを嫌がったってこと?」

『そうだよ』

「へぇ。優しいんだ──」


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!


『何の音』

「窓から聞こえる」

 平和を乱したそれに苛立ちを覚えつつ、慎重に近付いてみる。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!


 時折、それに紛れてミシッと硝子が軋むような音がした。

 一応、ギアを装着した。ルノイも俺の側に立ち、いつでもギアに入れるようにしている。


 俺は覚悟を決めて、カーテンを引いた。


『…ヒト?』


 音が止んで、その代わりにとびきりの明るい声が窓を突きぬけて飛び込む。

「senpai〜! よかったぁ、気付いてくれた!」

 知り合いだった。


 ギアを片足に嵌めて、モード風を使い四階まで浮き上がっているらしい。通行人に大迷惑だ。

「安心して! 捕まえに来たわけじゃないから!」


「senpai? 先輩ってこと?」

『そうだと思う。彼女はたまに俺をそう呼ぶから』

「ちゃんとしたギアを持ってるってことはジャスティス?」

『うん』

 ルノイは、怪訝そうな顔をしながら質問してくる。


 ひとまず、入れてあげることにした。



「ツグナ先輩って、ジャスティスから内密に追われてるんですよね。わたし、匿ってあげたいんです!」

 彼女は嬉々として俺たちに語っていた。話し始めてからどれくらい経っただろう。

 彼女の話ぶりは、まるで、予め決まっている事を説明しているようで不気味だった。


「だから先輩も安心して──」

『大丈夫。必要ないよ』


 コロコロ変わっていた彼女の表情が固まった。

「…は?」

『俺たちは、この惑星を出るから』

「何言ってるんです? 出られるわけないでしょうふざけないでください馬鹿なんですか?」


「ツグナさん、やっぱりこのヒト頭おかしいんだよ」

『そういうこと言っちゃダメ』


「あぁあもう何やってるんだろうわたし。騙そうとなんてしないで、最初からこのガキ殺して無理やり連れ去ってればよかったんですよ」


**接敵:クロカワシティホテル

──タシア・アメミヤ(ジャスティス 階級:D)


 彼女はデコレーションと塗装の施されたギアを掴んで、腕にはめた。

「わたしはこんなにあなたを愛しているのに! わたしはこんなにあなたを愛しているのに!」


 桃色のギアが風を纏う。その拳が、ルノイの方に飛んできた。咄嗟にルノイの肩を抱いて避ける。


「こいつ、僕のこと殺す気だ!」

 ギアをしておいてよかった。液状化したルノイが滑り込む。


 俺のギアが雷を放った。

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