【幕間】 涼のGood Morning
「ぽかぽかぁ~♪」
とレースのカーテン越しに柔らかな朝日が部屋を照らす。
「チュン♪チュン♪」
と鳥がさえずり、ボクはその鳴き声で先に目覚める。
「そ〜よそよ~♪」
と網戸からさわやかな風がそよぎ、ボクの素肌を優しく撫でていった。
「あぁ〜しあわせぇ〜♡」
と思わず口をついて出るような、何とも気持ちの良い初秋の朝であった。
はい。
そんな訳で、本当に良い朝です。
昨夜何度も果ててしまったこの躰にはまだ気だるさを残していますが、これがまたいい塩梅に二人の朝って感じがして良きですね。
二人で眠るには少し狭いと感じるこのシングルベッドも、乱雑に落ちている二人の抜け殻も、ごみ箱から外れた数個の丸まったティッシュも、そして隣でスヤスヤしている裸の響も、何と言いましょうか、まるでボクの理想図をそのまま描いた絵画のようだなーって、ボクは思います。
絵のタイトルは…そうですね『気だるいGood Morning』ですかね。
まぁ別に今日に限らず、四人で迎える朝も普通に気だるいんですけどね。
ってそんな気だるさの話はひとまず置いといて、今日はボク達の夫婦デーなんですよ!って事を言いたかった訳です。
はい、夫婦デーです。
すなわち、昨晩から今朝にかけては、ボクが響を独り占め出来るボーナスタイムってことなのです。
一人の男を三人でシェアしている以上、どうしても『響と二人きりになれない』問題が生じてきます。
そのため、その解決法として週に何度かこうして夫婦デーを設けている訳です。
学校から程近い場所にある響の所有する一軒家、そこを『夫婦の家(仮)』として利用しています。
といっても、響が側にいれば何人いようとあまり関係ない、といったスタンスの二人は特に夫婦デーを設けていないので、今のところ実施しているのはボクだけですけどね。
あの二人は最初こそボクに響を取られまい!と敵対の姿勢を見せていましたけれど、どうやら二人にとっては『響の恋人』という立ち位置が重要だったみたいで、あまり独占欲みたいなものがないみたいです。
でも、独占欲が薄いだけで、響と離れるのは嫌な二人。
だから「三人一緒でよくない?」的なことはよく言われるし、ボクが夫婦デーだからと響を連れ去ろうとすると「置いて行かないでぇぇぇ」って毎回泣くんですよね。
なのでボクは心を鬼にして…って言うか、まぁ普通に笑顔で連れ去っていくんですけど。
あっ鬼。
せっかく気持ちのいい朝なのに、鬼という単語で思い出しちゃったのだけど、ボクは、どうやら世間からは悪女だと思われているようです。
というのも、先日『しなきゃいいのに…』でお馴染のエゴサーチをしてしまった結果
『Ryoとか顔だけじゃん』
『泥棒猫』
『元サヤ希望』
『Rinちゃんが可哀相』
『早く別れればいいのに』
『Ryoは悪女、これぜったい』
悲しいことに、響に関する掲示板にはこんなコメントが溢れ返っていたのです。
学校では鈴音のやらかしが知れ渡っているからこんな風には思われていないはずだし、ボク個人のSNSや、街中での反応は応援してくれる方ばかりなのですが、世間の一部からはボクが鈴音から響を奪った悪い女…ってことになっています。
たしかに、響の弱っているところを狙った…って意味では悪女ムーブなのかもしれないけれど、ボクとしては、落ち込む響を立ち直らせる一助になれたと自負しているし、今後も支える立場として胸を張って恋人をしていく所存です。
なので、外野からの声なんか気にしないぜ!ってスタンスで行こうとは思っていますが、やっぱりちょっと気になっちゃって…。
それならば!と思ってこれみよがしに響とのラブラブ2ショットをSNSに上げたりしてみたものの、『必死かよ』とか『腹黒い』とか言われる始末。
その度に落ち込んでしまうボクだけど、響は知らなくていいことだし、エリマリはそもそも外野を気にするタイプではないので「悩む意味が分からない」で済まされてしまうし、ある意味普通な感覚の自分が悩ましい今日この頃です。
でもね、やっぱり外野は外野。
いくら今ボクを悪女扱いしようとも、時間が経ち、実績としてボクがちゃんと彼女を出来ていれば、いずれはその声も小さくなっていくんじゃないか?と期待しています。
…だけどね……実はこのところ学校でも少し変化があって…
「やっぱり鈴音ちゃんといる時の坂本君が一番推せるよね」
「わかる。鈴音ちゃんなんだよ結局ね」
先日、トイレでこんな会話が聞こえてきたんです。
震えました。
しかも、最近これが結構な頻度で聞こえるようになっていて、ボクはすっかりトイレが嫌いになりました。
それもこれも、このところ響と鈴音が楽しげに戯れている姿が度々目撃されるようになったからです。
はぁ…鈴音ですよ、鈴音。
ほんと、なんなんですかね、鈴音って。
あんだけ響を苦しめた女なのに、どうして彼女は嫌われないのでしょうか。
学校の生徒も、世間も、みーんな鈴音が大好きなんです。
ボクなんて、すぐに悪女呼ばわりされるのに……はぁ…。
まぁとにかく、ボクは、たとえ皆が許し、響が許しても、ボクだけは、鈴音を許すつもりはありません。
正直に言います。
ボクは、鈴音が響に近づくことが、嫌です。
最近響のペットとなった小枝も、デートした子達も、響と寝たい子達も、響に近づこうとするクラスメイトの子達も、そりゃー嫌だけど、この子達については概ねエリマリと同意見で、響の魅力に当てられたらそりゃ仕方がないよねって思います。
だから響が望むのならば、嫌は嫌だけど、まぁそれはそれって思います。
だけど、鈴音はダメ。
ボクやエリマリはあえて言葉にしないけど、鈴音が響のパートナーだった時、誰一人としてそこに割って入ろうとする人はいなかった。
分かりますか?この時点で、ボク達三人は過去の鈴音に負けているんです。
鈴音たった一人に、負けているんです。
これについては本当に悔しくて悔しくて仕方がないけれど、この二人は誰がどう見ても特別で、唯一無二の関係性だった。
これが、事実なんです。
だからボクは鈴音を認めるわけにはいかない。
鈴音がもし響の彼女になってしまったら全部持っていかれる。
ボクの一等賞の称号は泡となって消え、また響が鈴音中心になってしまう。
それだけは、ダメ。
ただ、鈴音はエリマリにとっては大恩人でもあるし、実のところ二人は鈴音が大好きだから、鈴音のハーレム加入を望んでいる節があります。
なんだかんだ言っても、彼女達にとっては鈴音が響の側にいた方が、きっと自然な形なのだと思います。
響にしたって、鈴音に対して自分がどういう気持ちでいるのか、まるでそれから逃げるように、あえて目を逸らしているような感じがあります。
モヤります。
鈴音に関しては、ボクだけ味方のいない、四面楚歌って感じだからです。
でもこれも、彼らの過ごした年月を考えれば致し方のないこと。
スッパリと割り切れるような関係じゃないからこそ、響も、鈴音も地獄を見たんですから。
でも、ボクからすれば、鈴音は響に相応しくありません。
これだけはハッキリと言えます。
それは見た目とかの話じゃなくて、響に対する想いは、ボクやエリマリには到底追いつけないって事を鈴音は分かっていないからです。
それでも響が拒まない以上は、いくら鈴音が響にアプローチしたって構いません。
だけれど、ボクは一度、正妻の立場として鈴音にそのことをちゃんと伝えなければならないな、と思っています。
いや、ボクだって鈴音が嫌いな訳じゃありませんし、むしろ嫉妬も尊敬も友愛も感謝も憐憫も憎悪も全部あって、総じて言うともう、大好きです。
でも、負けるわけにはいかないんです。
だって、ボクは響の一等賞の女なのですから。
分かった?鈴音。
外野じゃない君になんて、ボクは絶対に容赦しないんだからね!
ふんすっ!
と、そんな決意を胸にしたボク。
やる気が満ち溢れています。
さて、そんなやる気MAXのボクの前には、相変わらずボクの理想図を絵に描いたような朝の風景が拡がっています。
その中で、さっきからずーっと視線の先にある大きくなっているそれ。
「これも、ボクのだからね!」
気合一発、パックんちょです。
「んーんんっ!んー---っ!」
(負けないぞ!おーっ!)
「ん? え? お? なんだ??」
「んーんっ!ん-んんっん!!」
(いーから!大人しくしてて!)
「えっ?痛っ!あたってる!歯があたってるって!おいっ!しゃべるかしゃぶるか…」
「んんんーんっ!」
(うるさーい!)
「イタタっ!ちょ、優しくして……ってあれ?でもこれ…あっ…逆にいいかも」
「んっんー♡」
(やったぁー♡)
あぁ♡
本当に、良い朝ですね♡
ちゅんちゅーん♡
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