【幕間】 鈴音こころのポエム その⑥
いつかあなたが聞かせてくれた
なんでも凍らす冬の話
遠く遠くの寒い国
まっしろしろの雪の町
そこでは声も凍るから
春になるとうるさいらしい
雪が解けはじめると
一緒に声も解けるから
私はそれが可笑しくて
いつか行ってみたいと思っていた
そこで私は愛を唄うの
冬の間にたくさんたくさん
春にはあなたの誕生日
うるさいくらいの愛をあげるの
★鈴音こころのポエム その⑥
…いやいやいや、近所迷惑だろそれ……苦情くるからやめろよな。
うん。
だいたいな、その話は元々笑い話だぞ?
春になると、そこらじゅうで挨拶とか悪口とか誰かのくしゃみとかが聞こえてきて夜も五月蠅いから、春になる前に声溶かし業者が思いっきり息を吸って声を回収してるんだぜーっていう。
リンだって「それなら外でおなら出来ないね!業者さんそれ吸っちゃうもんね!」ってゲラゲラ笑ってただろ。
それをお前…なに感動風味に仕上げてんだよまったく。
でも…まぁなんか、ちょっと良いと思っちゃったけどな。
という訳で、時々こうしてリンから送られてくるこころのポエムシリーズ。
あいつは俺が家にいなくて暇だからって、夜はこんなことばっかり考えているらしい。
なんだかなぁ…
あいつ、なんか視野狭いよな。
恋に全力なのは分かったけど、俺がリンに求めてるのってこれじゃないんだよ。
まぁ俺自身もそれが何なのかちょっと分からないんだけどな。
ただ、はっきりと言えるのは、俺は今のリンを、リンだと認めていないってこと。
変な話だけど、今のリンとは割とはじめましてなんだよ実は。
あいつが彼氏を作った時、俺の中で作り上げていたリンは確実にいなくなった。
だから、記憶から姿形から全て以前のリンとは同じでも、もう俺の知っているリンではない…って思ってしまっている。
別に、リンの真似すんな!までは言わないけれど、拒絶反応に近いものが俺の中にあるんだ。
これに起因するのがトラウマってやつなのか、また失うのが怖くて単に逃げているだけなのか、その辺りは俺にもよく分からない。
まぁ逃げるのは嫌だから、一応向き合っているつもりではいるけど。
でもね、いくらアピールされてもさ、響いてこないんだ。
要はさ、こんなに想いを伝えてこなくったって、以前の俺はリンに夢中だった訳で、あいつが俺にアピって来る度、嬉しく思う反面、これじゃない感が強くなっていくんだ。
そればかりか、会長だろうが他の誰であろうが、もし、あいつが誰かとくっついたとしても、なんというか、全然大丈夫なんだよね。
いや、あいつに対して無関心になった訳じゃないし、嫌いになった訳でもなくて……かと言って別に祝福したいとも思わないから……うーん…なんなんだろね…。
……あっ…わかった。
なんか、安堵するんだ。
あいつに彼氏が出来たら、きっと、やっと俺から離れてくれたんだ…って安堵すると思う。
そして、むしろそれを望んでいる自分がいたりする。
正直怖いよ、そんな自分が。
だってさ、少し前まで、俺の全てみたいな存在だったリンなのに、なんで俺は……って。
でも、もし涼やエリマリが他の誰かと…って思うと、やっぱりめっちゃ荒ぶるんだよね。
そこでようやく、あぁ俺は正常だ…って思えてくる。
リンに関してだけは、俺は異常になってしまうんだと思う。
そんな自分は『壊れた』 と表現するのが一番分かりやすいし、自分を説得する上でもそう思うと楽だ。
だって、壊れちゃったんだから仕方ないよねって、自分に言い訳できるからね。
でもさ…可哀想なんだよな、今のリン。
なんたって、一生懸命だからさ。
確かに、今の俺はあいつに全然靡く気配がないけれど、あいつが強く望んでいるのなら、受け入れてあげたいって気持ちもある。
別に以前と違うリンだからって、愛せないわけではないと思うし、失った15年を、これからまた積み上げればいいだけなんだから。
けど、けども、そうであるならばこそ、やっぱり俺は望んでしまうんだ。
超えて欲しい、と。
過去を超えて、今のリンが俺は好きなんだ!と、言わせて欲しいんだ。
リンはきっと毎日泣いていて、辛くて、しんどくて、傷ついていると思う。
いつ終わるのかも分からないレースを、俺はあいつに強いている。
だから、いつ辞めてもいいし、逃げてもいい。
でも…
でもね…
このポエムシリーズさ、俺、結構楽しみにしているんだよね。
これがなくなるのは、少し…嫌かも。
なぁリン。
俺は凍っているだけなのか?
この冬が明けた時、俺はまた、お前に愛を向けることが出来るのか?
なぁ…教えてくれよ……リン…
『あっ!明日からパンツだけじゃなくてね、直でテイスティングしてもらうから!いやーなんで最初からそうしなかったんだろ私。おやすみ』
…って、台無しだよお前マジ。
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