第40話 委員長は、なりたい
「ボスあのね、たんぽぽってね、英語だとダンデライオンっていうんだよ」
「へー。まぁまぁゴツいね。ふわふわだからちょっと意外」
「ねっ!でね、たんぽぽってね、ボスみたいなんだよ」
「あー。ライオンだから?」
「そう!それとね、掴みどころがなくてね、すぐどっかに飛んでいっちゃいそうなとことか」
「えー。そんな風に見えてる?」
「見えてる。だから放っておけないの。小枝みたいな人見知りがね、必死にアプローチしちゃうくらいにね♡」
「ふーん。それなら長所と思ってもいいかもね」
「もっちろん♪ あっ!それとね、繁殖力がちょー強いところもね、たんぽぽそっくり」
「おいおい、人を種馬みたく言うな。俺はな、ライオンキングだぞ?誇り高き………種ライオンだ」
「あはは!種付いたね!」
「うん。あながち間違ってないかなーって。えへへ」
「ねっ♪ しかも、たんぽぽの語源ってね、『ちんぽぽ 』らしいよ!ぎゃはは!」
「嘘だろ?!」
「ほんとだよ!だからね? ボスは、ライオンで、放っておけなくて、えっちで、別名はね、ちんぽぽ君 なの!あっはは!」
「いや別名なんとかして!」
「だめー♡そんでね、そんでね、花言葉は『幸せ』なんだよ」
「えーっ。幸せに出来るかー?だってちんぽぽ君だぞ」
「できるよ!だって小枝ね、すっごーく幸せですから♡」
「へー。ペットでも?」
「にゃっ♡」
今朝からこんなイチャイチャが隣の席から聞こえてくるようになった。
昨日までは一切誰とも話すことがなかった秋葉さん。
どういう訳か、坂本君にだけは普通に話すようになった。
それどころか、ご覧のようにめちゃくちゃ明るくて、可愛らしくて、よく笑うようになった。
私が挨拶をしても、ちらりと視線をくれるだけで、会釈さえしてくれないのに。
彼女は入学してからの約半年間、誰とも話さないし、誰とも関わろうとしなかったのに。
なのに、今じゃ休み時間の度に彼女は坂本君の膝に乗りにきて、子供のように彼にじゃれついている。
坂本君は坂本君で、まるで子猫でもあやすかのようにして彼女を撫でるし、人目もはばからず抱っこしながら存分に甘やかしている。
一体二人に何があったのか。
昨日の5時間目、教室を出た坂本君を追うようにして出て行った彼女。
きっとその後に何かがあったのだろう。
私はその後に来た坂本君からのお礼ラインに夢中で、他には何も考える余裕が無かったことが悔やまれる。
詳しく話を聞きたいけれど、坂本君はまだしも、彼女が人を寄せ付けない存在のために話しかけることも出来ない。
『おはようございます。坂本です。突然ですが、秋葉小枝はしばらくの間、俺のペットになります。時間をかけて、皆さんとも交流を持てるように
と、今朝早くにクラスラインに坂本君からメッセージが入った。
『私は別に話したくありません』
と、続けて彼女からのメッセージ。
『お返事!』
『にゃっ!』
と、二人の謎いやり取りがあったあと、クラスメイト達から『どういうこと?!』とか『応援します!』とか『つーかお礼まだか?』とか『アタシもペットにして!』とか好き勝手な反応があったけれど、彼からの返信はなく、私をはじめ動揺したまま皆登校し、動揺したままにお昼休み時間まできてしまった。
ちなみに私が求めたお礼については、西園寺さん達から後日面接を受けることになっている。
それはそれでめっちゃ頑張るけれど、今は普通にペットとか羨ましい。
だから秋葉さんから秘訣を聞き出したいのに、話しかけられず、朝からずーっと羨ましい光景を見せつけられている。
「響ちゃん!お昼だね!今日のお弁当は おはぎ だよ!あ、小枝ハウス!」
「やった!おはぎ だ!」
昼食に おはぎ で喜ぶ人ってあまりいなそう。
という感想がまず浮かぶけれど、良い意味?でいつも空気をぶち壊す私の憧れ、鈴音ちゃんの登場だ。
鈴音ちゃんと坂本君が別れるまでの数日間は疎遠状態だった彼ら。
坂本君が西園寺さん達と恋人関係になってからは、彼らの関係性は変わったものの、以前のように仲良くするようになってくれた。
前のように一緒にお昼を食べたり、下校が一緒だったりと、そのことについては私もファンとしてとても嬉しく思っている。
ただ、西園寺君……じゃなかった西園寺さんと鈴音ちゃんは少しギクシャクしているし、私も以前とは違う感情を彼らに向けている部分もあって、嬉しく思う反面割と複雑な心境でもあるんだけどね。
『抱いて欲しい』
とかも言っちゃってるしね、私。
そんなところに、いきなりあのぼっちで有名な秋葉さんのペット化、ときたもんだから、私は一人でだいぶ疲れちゃってる。
はぁ。
しっかりしなきゃね、委員長なんだし。
ところで、鈴音ちゃんの『ハウス!』で大人しく坂本君から離れた秋葉さん。
そしていそいそと人数分の机を運んで昼食用の席を作り、それどころか人数分のお茶まで用意して、それが終わったら自分のスペースにちょこんと座った。
今までの彼女なら考えられない行動だけど、これも坂本君の
そして西園寺さん達がやってきて、今はみんなでゲラゲラ笑いながら仲良くオハギを食べている。
秋葉さんも常にニコニコで、本当に楽しそうにしている。
坂本君と二人だけの時とは違い、ほとんど話さなくなってしまったけれど、健気に咲く一輪の花のような存在感がある彼女は、あの中にあってけして異物感は無く、溶け込めていた。
エリナさんから無理やり餌付けされる姿はとても微笑ましくて、ずっと見ていたいと思うほどだ。
ふと思う。
私があの中に入った時、あんな風に溶け込むことが出来るのだろうか、と。
きっと終始萎縮して、固い笑顔を浮かべて、ぎこちなさMAXで、結果彼らに気を遣わせてしまうことになるに違いない。
私には特別な個性もないし、面白くもないし、可愛くもない。
今感じている彼への想いだって、不確かで、曖昧で、現実味もない。
彼と関係を持てば何かが掴めるんじゃないか、変われるんじゃないか、確かめられるんじゃないか、そんな期待感があるだけだ。
中途半端。
私にはそんな言葉がよく似合う。
だから、彼に抱かれる資格なんて、本当はないんだ、私にはね。
でも、もう見てるだけってのは、やっぱり嫌で。
視聴者じゃなくて、彼らと同じ目線で、彼らと一緒に笑い合える自分に、なりたいんだ。
だから──
運命の面接まで、あと6日。
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