第32話 クララが立ったってばね

一体どういうことだってばよ!!


俺の中のナルトが思わずそう叫ぶように、マジで意味が分からない。


普通に考えれば、お礼として俺との行為を望まれている訳だけど、ひょっとしてネットスラング的なやつで何か違う意味があるのか? とか、打ち間違いか? とか、送り先を間違えてんじゃねーか? とか、色々考えちゃって今俺の頭の中はグルグルと渦が巻いている。


いっそのこと、「これはやっぱりそういう意味ですか?」と聞いてみたくもなるけれど、それは何となく紳士の行いでは無い気もする。

ジェントル坂本としてはそれは避けたいので、苦肉の末に 「要相談」 とだけ返事をしといた。



『だめなの?』



するとすぐにそんな返信。

いや、君さ、話聞いてる?今すぐ返事が出来ないから、ちょっと話し合う機会をくれって言ってんだよ?

ちょっと考えたりする時間もほしーしさ、急かさないでくれ、空気読んでくれ。


しかしこの反応、間違いない。

やはりこの子は俺とのえっちをご所望のようだ。

いやしかし、相手が相手なだけに動揺が凄い。

だってこんなセリフ、よほど遊び慣れた人とか、昔関係を持ったことがあるとか、何らかの要因がなきゃ言わなくない?

なのに、何故君が?

いやホントに、何で君が?



『返事まだ?』



しゃーんなろー!!

うっせーな!何なんだよこのウスラトンカチがよー!!

君が思うほど俺は軽くねーし、何より、君のキャラが普段とかけ離れすぎてて戸惑ってんだよこっちはよー!! なんて憤っていると



『どうてい?』



コイツ……

いやマジで何なんだよ!!

もーいい!もぉーーがまん出来ない!!



「童貞ちゃうわっ!!むしろ中級者や!!つか小枝ちゃん!話そうぜ!隣にいるんだからさ!」



そう、俺と彼女は今隣り合って座っていた。

俺が5時間目の授業をサボって中庭のベンチで趣味の日向ぼっこに興じていたところ、このところ仲のいい小枝ちゃんがやってきて一緒にのんびりしていたのだ。

俺はネットサーフィン、彼女はスマホで読書って感じで各々好きな事をしていたのだけど、ふと「そうだお礼!」と思い立った俺が先程クラスラインに送信。

当然同じクラスの彼女もそれを受け取り、送信してからものの数秒で来た返信があの『えっちとか可?』ってやつだ。


この頭のおかしな子の名は 秋葉あきば 小枝こえだ

クラス一の不思議少女、と言えば聞こえはいいが、つまるところただのコミュ障だ。

しかも変に気合の入ったコミュ障で、本人曰く『話したら負け』だそうだ。

入学当初のオリエンテーションでは話したくないから。と、自己紹介をプロジェクターを用いた映像だけで済ます徹底ぶり。

俺も声を聞いたのはくだんの「よかったら見に来て(第一話参照)」とチケットを貰った時のみだ。

最近半ば無理やりに連絡先を交換されてさ、それからはラインでよく話すから仲良くなったんだけど、ラインだとウザいくらいに絡んでくるからね小枝ちゃん。

つかこの子、小動物系の可愛らしい容姿、でも超無口、でもデスメタルのボーカル、なのに実家は華道の家元でお嬢様っていう…もうね、なんか設定盛り過ぎてて疲れるよね。

ははっ。



『だってマイクないし』



しかもこれだもん。

俺は話してるのに、返事はラインなんだもん。


…よし決めた。

いい機会だから絶対に声で会話する!

小枝ちゃんとのおしゃべりクエスト決行だ!



「いやなんで?だって小枝ちゃん笑う時は声出るじゃん!さっき俺が屁こいた時は笑ったじゃん!」


「あははっ♪」



あ、思い出して笑った!

そう、笑う時は普通に笑うんだよ。

何なのマジで。



「それぇー!!今声出たよね?!なんで会話ダメなの? ちなみにさっきのおならは虫除けだからな!」


「あっははは!」


「虫除けスプゥ♪レーつってね、非売品」


「ぶっふぅーっ!」


「あれ?今口からおならしなかった?」


「ダァーハッハッハ!」


「器用だね。もう1回して?」


「ひぃー!ひぃー!」


「あ、ねぇねぇ小枝ちゃん、ピザって10万回言って?」


「いや多すぎぃー!あははは!」


「「あっ」」


「……君、今喋りましたね?」


「……はい」


「負けましたね?」


「はい……」



うおぉぉ!勝った!勝った!喋った!クエスト達成!なんだこれ!!クララが立った!的な感動だってばよ!!


いやーさすがの君もツッコミは我慢出来なかったようだね、くくく。


笑わせて緊張をほぐしたのが効果てきめんだったね。

我ながらよくやったと思うよ。うん。


あーでもなー録画しときゃ良かったな…。

赤ちゃんが初めて喋った時、みたいな瞬間を撮り損ねた。

はぁ。なんてこったちくしょう…


と落ち込んでいた時だった。



「で、えっちしてくれるの?」



普通に聞かれた。

黙れよクララって思った、逆に。

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