第31話 一週間が経って

あれから一週間が経過した。



『いつものとこ!』



3時間目と4時間目の間の休み時間。

あの日からあいつは決まってこの時間に俺を呼び出すようになった。

新館の、あまり人が来ない場所にある女子トイレに。



「おっ……ちょっと染みってんじゃん」


「へへっ。当たりだね、今日は」


「え。これ当たりなのか?」


「そだよ。後でもう1個貰えるよ」


「いらんわ」


「からの〜?」


「いやいらんわ」


「いろよ。つか早くテイスティングして?せっかくの当たりが乾いちゃう」


「ははっ。シミを当たりってゆーなし」


「はよ」


「おぅ…」



スンスンッ



「うわ、いつもより ツンッ が強い」


「え。ど、どお?嫌?」


「………別に」


「わぉ、響ちゃんもツンかい」


「つか鼻の奥に残るなこの当たり臭」


「へー。どお?女感じた?」


「………別に」


「またツンかい。どれどれ……あっ!カッチカチや!よっしゃ!」


「痛っ…松葉杖でそこツンツンすなバカ。折れたらどーする」


「責任とって結婚する」


「…………ふーん」


「いや、そこはデレてよ」


「あ、そろそろ戻らなきゃ!」


「あっ!逃げた!待ってぇ〜!そこの中腰の人ぉ〜!止まってぇ〜!」


カッツンカッツンカッツンカッツンカッツンカッツンカッツンカッツン!


「ってカッツンがはえーな!松葉杖のゾンビかお前!こえーよ!」


「ハァッ ハァ えっと、ウォーキングデッツン走法です」


「ねーよそんなの。てかまずパンツ履けよ」


「……一人じゃむりだもん」


「あー…もう。分かったよ。は、履かせてあげるだけなんだからね!」


「やっとデレた♡」



あの日の翌日、あいつは「惚れさせるにはまず私を女として意識してもらう」とか言い出し、毎日脱ぎたてパンツを俺に渡す、という儀式を始めた。

普通に何言ってんだこいつ、と思った。

だって、女らしさってやつの真逆行ってんだもん。

しかも毎回テイスティングとか言って必ず嗅がせるし。


まぁ、嫌いじゃないけどな。

うん。


そんで、ご覧の通り、リンとはなんだかんだ上手くやれている。

京都で完全復活を遂げたとはいえ、正直リンとは今後どんな関係になるのか不透明だったからね、俺としては嬉しい。


あの告白にはかなり揺れたけど、一番になりたいと言わないその根性が気に食わなくて振った。

お前は陸上部で一体何を学んだんだって話だよ。

だからライバルとか呼んで煽っといた。


と、まぁリンの事はひとまず置いといて、次は俺のパーティーメンバーについて。


涼は近所に住む知り合いのOGから制服を譲って貰ったらしく、今は普通に女子として学校に来ている。

その反響は凄まじく、俺と一緒に登校してくる時なんか、皆が立ち止まってマジマジと見るもんだから、毎日校門から校舎までの間、俺達はモーセが海を割るような感じで歩いてるもんね。

もはやちょっとした神だねアイツは。

つーか京都駅での演奏がSNSでバズったみたいで、俺達はいつの間にか学校のみならず世間からも公認カップルとなってた。

街中でも結構な頻度で写真や握手を求められるけど、あれってどうにか課金制に出来ないのだろうか。


そんでエリマリ。

こいつらはまぁ、特に変わらないな。

恋人にはなったけど、その事はあまり大っぴらにしない方向性らしい。

別に涼に遠慮してるからって訳でもなくて、恋人と同じくらいに義妹って立場を大事にしたいらしい。

あいつらに言わせれば、ひと粒で二度美味しい最強の状態なんだとか。

そんで階段の踊り場とか、列の最後尾とか、サッと物陰に隠れてとか、誰にも気づかれないようにキスするゲームにはまってるみたい。

まぁ時々バレてるけどな。

それも込みで楽しいみたいだ。

バレたいのかバレたくないのか、その辺の感覚は俺にはよく分からんが、きっと、とにかくやりたいようにやるって事なんだろう。

この二人は存在自体がもう自由なんだよな、さすが我が妹達だ、俺に似ている。


そして最後に俺のことなんだけど、最近やたらとモテるようになった。

これはひとえにスマホ効果だ。

男子にも女子にもよく連絡先を聞かれるようになって、今俺のスマホの中には友達がいっぱいいるんだ。

俺はそれが嬉しくて、おかげでまだスマホビギナーなのにやたらと文字入力が早くなった。

リンからスマホを受け取った時は「ついに俺も現代人の仲間入りか」と思う反面「とうとう俺も電子の奴隷か…」っていう葛藤があったけど、蓋を開けてみればただただ楽しい。

まるで未来に来たかのような感覚で過ごすことが出来ている。

今ではもう電子奴隷バンザイ!状態だ。


そこで、だ。

せっかくクラスラインってやつにも入れて貰えた事だし、リンとの一件でお世話になったクラスメイト達に


『先日お世話になったお礼がしたいので希望を言って下さい』


と送ってみることにした。

俺にあの二日間の記憶が無い以上、もしかしたらその間に自死を遂げていた可能性だってある。

それを思うと、彼らの一人一人が命の恩人だと言っても過言ではない。

だから俺は出来る限りの要望に応えるつもりでいる。


はてさて、皆の希望は一体どんなものなのかな……送信っと。

ヒュン♪


…ピョコン♪

って秒で返事きた!はっや!


『えっちとか可?』


画面上部に現れた通知にはそんな一言。


……え。

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