第30話 バッサリンネ
ふんすふんす
そう鼻息を荒くして、私は響ちゃんを待っていた。
そして
ぐすんぐすん
そう心で涙を流しながら、私は響ちゃん達と対峙していた。
告白するぞ!
未来を手に入れるぞ!
ずっとそう意気込んでいたはずなのに、薄く化粧をした髪の長い涼を玄関で見て、揃いのネックレスをする三人の姿を見て、私はさっそく怖じ気づいた。
そしてそのまま、リビングでお土産を貰って、土産話を聞いた。
楽しかったと思う。
嬉しかったと思う。
だって、皆とこうしておしゃべり出来るのはあの日以来で、久しぶりだったから。
でも私は、あまり笑えていなかったと思う。
別に、これみよがしにイチャつかれた訳じゃない。
みんなから蚊帳の外にされた訳でも、響ちゃんから冷たくされた訳でもない。
涼だけは私をあまり見てくれなかったけど、喧嘩した後はいつもこんな感じだし、あまり気にならなかった。
だってエリマリはいつものように絡んでくれるし、響ちゃんも怪我を心配してくれて、優しく笑顔も向けてくれていたし。
ただね、そこに涼が座っていたんだ。
いつも私がいた場所に、涼が座っていた。
響ちゃんがそれを、あたり前のように受け入れていた。
私はまた、ぶん殴られてしまったんだ。
私はまた、ぶっ壊されてしまったんだ。
クソみたいな、この現実ってやつに。
ふぅー……。
はいはい、ワロスワロス。
もう知ってんだよ、こんな痛み。
こちとらさ、一度骨まで折ってんだよ。
ナメてもらっちゃ、困るってんだよ。
今さら傷が増えたところで、別に構わねっつーの。
だからね、とりあえず、コクる事にしました。
勇気を振りしぼって。
消えかけた炎に、慌てて油をぶっかけて。
響ちゃんが部屋で荷物をまとめている時を狙う。
みんなに警戒されないように、トイレに行くって嘘をつく。
気付かれて逃げられないように慎重に。
抜き足、差し足、忍び足ってやつで部屋に近づいていく。
カッツン
カッツン
まぁ私、松葉杖でしたが。
「なんだリン。今忙しいから邪魔すんなよ?」
まぁすぐに、バレましたが。
つーか、うるせ。
言っとくけど私、邪魔しかしねーから。
私、今後は遠慮とか、しねーんで。
だから、そんな言葉、無視するんで。
そして私は、誠心誠意、謝りました。
響ちゃんを裏切ったこと。
裏切っていることすら、気づけなかったこと。
二人で築くはずだった未来を、一方的に捨ててしまったこと。
何より、響ちゃんを酷く酷く、傷つけてしまったこと。
そして次に、現状報告をしました。
会長との関係を終わらせたこと。
響ちゃんのいない未来に絶望したこと。
私にとって、響ちゃんがこの世の全てなのだと、思い知ったこと。
失って初めて、それに気づけたこと。
そして最後に、想いを伝え、お願いをしました。
あなたが好きです。
私は、世界で一番、あなたが好きなんです。
誰よりも、何よりも、あなたが好きなんです。
特別でも、一等賞でもなくていいから、側にいさせて下さい。
従姉妹でも、兄妹でも、幼馴染でもなくて、私はあなたの恋人になりたいんです。
恋人にして下さい。
恋人にして下さい。
お願いします。
お願いします。
こうして、泣いて、みっともなく縋りつきながらとはなりましたが、私の告白は、一応完遂したのです。
そんな私に、響ちゃんは複雑そうな顔をして、そして悲しそうに眉を下げながら、こう言いました。
「気持ちは伝わったけど……俺はもう、リンをそういう対象には…見れないよ」
バッサリでした。
まぁ……分かってはいました。
この死ぬほどにキツい痛みだって、覚悟はしていました。
何度でもトライするぞって。
今後は邪魔しかしないぞって。
もう遠慮なんかしないぞって。
そう強がってはいても……やっぱり辛くて。
私は結局、
涙が全然、止まらなくって…
「……で、でもさ、もし、もしだよ?俺とリンがさ、もし…ほら、無人島に流れ着くような事になった時はさ? 俺は手のひら返してさ、めっちゃくちゃお前に依存すっからさ、そん時はほら……沢山子供を作ってさ、一緒に坂本王国ってやつをさ、作ってくれな? お、お願いしますね?」
はぁ…。
なによそれ……。
まったく……それで慰めてるつもりですか?
慌てちゃって、かわいいんだから。
あーあ、そんなの……めっちゃ遭難してーし。
もう…今すぐ船に乗りたいよ、響ちゃん……。
はは……なんだかな…何かさっきより、辛くないや。
なんだよ……普通に慰められちゃったんだ、私……ふふっ。
「ねぇ響ちゃん……」
「…ん?」
「お守りありがとね」
「あぁ……それ、怪我に強い神社のやつだから、効くぞ」
「え、わざわざ探してくれたの?」
「うん…まぁ」
「嬉しい…。ありがとう」
「実は…また怪我した時用にさ、10個あるから、ストック」
「いや多っ。…てかさ、怪我しない用のお守りはなかったの?」
「…………なかった」
「ウソだ、間があったもん。調べなかったんでしょ」
「……うるせ。怪我すんなお前、うるせ」
「ふふっ そだね」
「うん…」
「……やっぱり…出ていっちゃうの?」
「…うん……あいつらと…住むから」
「……そぅ………は、はいこれ、あげる」
「え、スマホじゃん…マジか」
「うん、私と同じやつ。私の番号入ってるよ、掛けてみて」
「…………もしもーし、響だが」
「はいっ!リンだよ!」
「おぉ…うん。リンだな」
「うん!君の事が大大だぁーい好きな、リンだよー!!」
「………えっと…あ、これさ、メールは?」
「えぇ?いや……あの…。あ、えっとこれ。ラインね?こっちも登録してある」
「りょ」
「あ、も、もう行くの?」
「行く。じゃー……またな、リン」
「う、うん……また」
そう言って、彼は部屋から出て行きました。
一度も振り返らずに、出て行ってしまいました。
パタンッ と扉が閉まっても、私の目は、見えなくなった彼の背を、もう見えないと知りながら、ずっとずっと、見続けていました。
行かないで!! そう叫び散らす心とは裏腹に、ツゥー っと何故か静かな涙でした。
しばらくして、彼らを見送ったママが慰めにきてくれました。
だけど、私はママに何かを言うことも、この場を動くことも、出来ませんでした。
その時 ピョコン♪ とスマホが鳴りました。
私は世界最速の動きで、画面を覗き込みました。
視界の端っこに、ママがビックリしている姿が映りました。
『家族で、幼馴染で、
泣くなよバカ。そんなに悔しかったらな、惚れさせてみろよ。挑戦はいつでも、何度でも、何年経ってでも、受け付けるから。分かったか?
お前の永遠のライバル 響より』
どうしようもなく、熱い涙が溢れます。
だって、ライバルって……
響ちゃんは私に、新たなポジションを用意してくれたんです。
私の居場所を、わざわざ作ってくれたんです。
いつものように、自然に、優しく。
こんな低スペックで、バカで、どうしようもない私なのに。
『うん。分かった。覚悟、しといてね』
お礼は言いませんでした。
だって私の目標は
「惚れさせてくれてありがとう。参った」
と、ライバルの彼に言わせることに、決めたから。
……やってやる。
そんな、彼にとっての全てに、私はなってやるんだ。
ぜったいぜったい、なってやるんだから。
もう決めた。
だってきっと、今日が私の、転機なんだから。
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