第三章 頑張リンネ / 響と明日

第29話 吹っ切リンネ

それがいつか?


なんて聞かれても、答えようが無いほどに昔から私は響ちゃんが好きだ。



それは異性として? 


家族として? 


幼馴染として? 



そんな質問、彼と私の間ではきっとナンセンス。


だって、全ての意味合いで 『好き』 なんだから。



これが愛だというのなら、きっとそうなんだと思う。


だけど、恋人…なんてものを意識する年齢になった頃、私は否応なしに彼と不釣合いな自分とも向き合うことになった。


容姿を初めとした、あらゆるスペックが、私は彼に遠く及ばないから。


成長するにつれ、そんな事実が私の前にどんどんと高く積み上がり、彼と恋人になるビジョンは、さっそく見えなくなった。


不思議だよね、いつまでも仲良くしている姿は容易に浮かぶのに、恋人や妻として彼の隣にいるのは、私であって、私じゃない。


どうしても、そんな風に思ってしまうのだ。


でも、意外と私はその事に悩む事はあまりなかった。



だって、彼は側にいたから。



たとえ、私達が思春期を迎える年齢となっても、彼は昔となんら変わらない距離感で、私の側にいてくれたから。



確かに、彼との恋愛や結婚といった未来は一向に見えてこない。



でも


たとえ、私に彼氏ができようと。


たとえ、彼に彼女ができようと。


この先もきっと、私達は変わらない。



そんな謎の確信。


そんな謎の安心感。



そんな不確かなものに甘えた私は、現状に胡坐あぐらをかき、特に何もせず、何も考えず、ひたすらに今だけを享受して、過ごしてきた。


今思えば、具体的な将来を想像するのが怖くて、無意識のうちに、逃げていたんだ。


要するに、今までの私は、現実と向き合うことはせず、ずっと夢の世界で生きていたようなものだったのだ。



つい先日、私の愚行でその夢はあっけなく覚めた。


独りよがりな夢は終わり、無常な現実が全力で攻めてきた。


夢から覚めたら、そこは地獄だった。



でもね──




「――リン、俺はさ、2年後には結婚して …――… 未来のパートナーがさ、リン、お前だと信じてた」




あの日、あの決別の日、夢から覚めたあの日、私は聞いた。


夢とうつつの狭間で、確かに聞いた。



この言葉は、夢の世界から唯一、私が持ち帰れたものだ。


これは、パスポートだ。


私は確かに持っていたのだ、響ちゃんと歩む、未来へのパスポートを。



何も心配しなくても


何も恐れなくても


何も諦めなくても



響ちゃんの中には普通に、あたりまえに、ずっと変わらずに、あったのだ。



未来が。


私との、明確な、未来が。



まぁ、今となってはもう、期限切れのパスポートになってしまったけれど。


いくら大事にしていても、もう、ただの記念品にすぎないけれど。




…はぁ。


ほんと、現実ってやつはクソだ。



男だった涼が


妹だったエリマリが



今じゃ響ちゃんの、恋人だなんて。



…はぁ。


やだやだ。


だってこれじゃまるで、こっちの方が、夢みたいな話じゃない。




……ならさ



夢ならさ



いいよね



私も夢見たって



いいよね?



だって



関係ないんでしょ?



男だろうが



姉妹だろうが



そんな過去



関係ないんでしょ?



一人だろうが



三人だろうが



関係ないんでしょ?



ならさ



裏切ったとか



決別したとか



特別だったとか



一等賞だったとか



ぜんぶ



関係ないはずでしょ?



ならさ



私はさ



夢を見るよ



全力で



夢を見るよ



このクソみたいな現実はさ



私がさ



ぜんぶ





ぶっ壊してやんよ







と、意気込んでいた私は、告白をした。


昨日、響ちゃんが京都から戻り、お土産を持ってきてくれた時に。





告白をね、したんですよ。

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