第33話 花ざかりの君たちへ

おしゃべりクエストが成功し、やっとまともに会話が出来そう、と安堵したのも束の間、「で、えっちしてくれるの?」なんて真顔で問いかけられ、呆れ返った俺は「えっちなんてする訳ないでしょーが!!頭の中もお花畑か!!」と言いかけたのだが……



「……まぁでも、それももう必要なくなっちゃったんだけどね」



続けて彼女はそう言ったのだ。

花のように可憐な微笑みで、そう言ったのだ。



「え……そう?」



心なしか残念そうにそう返す自分がいた。



「あははっ!キョーくん実はシたかったとか?」


「……うん。シないけど、シたかった…かな。…シないけど…ね」



チラチラと彼女に視線を向けつつそう言った。

もっとアプローチしてくれてもいいんだよ?と、まるで押すなよ?押すなよ?と言いながら押されることを期待する芸人のように。

そんな、浅ましくも性欲には抗えない男子高校生な自分。

恨めしくもあり、今まさに俺はアオハルしているのだと、どこか微笑ましくもあり。



「私さ、吃音症きつおんしょうってやつで昔いじめられててさ……」



そしてそのアオハルを華麗にスルーし、なにやら自分語りを始めた彼女に落胆をする。

どこかでえっちの話をぶり返そうと、聞いてる振りしてチャンスを伺う。



「馬鹿にされるのが嫌でさ、話すことやめた。そしたらそれはそれでいじめられるし…」



まだかな?

ってさすがに早いか。

焦るなっつーの、アオハルはすぐそこだっつーの。



「それがストレスでね、毎日家で物に当たって、喚き散らしてた。そしたら、中学生だった兄上がバンド組もうぜって。最初は変なメイクだし、怖いし…」



兄上?え、いま兄上って言った?!

ちょっとこれ良い!!

エリナはバカだから「兄者!」とか言いそうだけど真理なら萌える!!

よっしゃ後でさっそく頼んでみよっと。



「キョーくんは、花のような人だと思った。知ってる?植物ってどこか儚くて、優しいイメージが強いけど、根っこはワガママに伸ばしまくるし、我先に太陽光を浴びようと凄く自己中だし、貪欲なんだよ?私はそれを、キョーくんに見た。強いと思った。綺麗だと思った。憧れた…」



なるほど、強い男に抱かれたいと、そういうことですね?そーなんですね?

では、仕方ない…のかな?

いやだって、オイラS級冒険者だし。

あらやだオイラとか言っちゃって、どんなキャラだよって、そんなん一度も言ったことねーよって、テンション上がっちゃって。



「コミュニケーションを取りたいと思った。でも、話すのはどうしても怖いし…メッセージだけだと味気ないし…だから、せめて体で…ってずっと思ってた所にさっきのお礼ラインが来て…」



体、ね。

なるほどなるほど。その悩み、分かりますよ。

えぇ、だって高校生ですから僕達。

持て余してますからね、色々と。

そりょもう大変ですよね?

僕なんてしょっちゅう中腰になってますからね。

もしかしたら君のパンティーにも、当たりが出来ちゃってるんじゃないですか?

拡がっちゃってるんじゃないですか?

仕方ありませんね、でしたら、僕が、この僕が!本当のコミュニケーションってやつをね、教えてあげようじゃありませんか。

心配要りません、これは浮気じゃない。

立派な、コミュニケーションクエスト、なんですから。

では…参りましょうか、僕達のしゃべり場へ…



「でもさ、それもこうしてあっけなく叶っちゃって。キョーくんが私と話そうと、ちょっと本気だされただけで、私は怖くなくなっちゃって、楽しくなっちゃって、もうスマホじゃなくて、キョーくんの顔ばかり見てて、言葉が止まらなくて、ねぇキョーくん、わたし今、喋ってるんだよ?家族にだってこんなに話したこと無いのにさ、どうしよう、好きが止まらなくて、目頭が熱くて、体も火照っちゃって、嬉しくて、嬉しくて、もうね、キョーくん、わたし今、なんか、満開になった気分なの!」



ちょっ…えっ……

やばい今の俺のモードだとなぜか満開さえ下ネタに聞こえちゃう!

やばいやばい!

ダメッ!小枝ちゃん今純真モードだから!

すごくまっさらで、トラウマを乗り越えた的な?感動の場面だから!

えっと、えっと……



「……や、やったね!」


「はいっ!ねぇキョーくん!今の私、どーですか?!」



まぶしっ!まぶしーよ小枝ちゃん!



「えっと花ざかり…だね!まるで…その…太陽より大きな……ひまわりだ!」


「すっごーい!!こわーい!!あははははは!」


「だ、だろ?今の君は、怖いくらいに…美しーんだぜ!!」



キラキラしていた。

もうホントに、太陽みたいに輝いていた。

眩しくて、熱すぎて、俺の邪な心は嫌な匂いを残して焦げた。


その後もキラキラトークは続く。

俺は眩しすぎて、時々視線を外す。

視線の先にはスマホの画面。

画面いっぱいに溜まった通知の群れ。

それとなく、スライドする。



『逆に処女もらって?』

『この際なので率直に言います。抱いて欲しいです!!』



何か見えた気がする。


俺はもう、そっと目を閉じるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る