第27話 ついついヤってふと後悔し教訓と巣

「ついつい」 なんて言葉がある。


ついつい魔が差して〜、とか

ついつい買っちゃって〜、とか

ついつい食べ過ぎちゃって〜、とかだ。


こんな風に、日常の至るところに「ついつい」は転がっている。


だから、ついつい姉妹に促されるまま婚姻届にサインしちゃうこともあれば、ついつい露天風呂で「味比べじゃ〜い」なんつって六つの突起にむしゃぶりつくこともあるし、ついつい布団の上で「ピラミッド作れ」とか言って裸の女三人に組体操させることだってあるよね?


だいたい、俺の告白でキス魔と化した涼を受け入れているうちに、ついつい「世界を手に入れた〜」とか思っちゃうし、そんな満足感を抱いていればついつい「エステは嘘でずっと通話状態にして一部始終聞いてました〜」とか抜かす姉妹も許しちゃうし、ついつい「モテモテ冒険者ならあと二人女増えたって問題ないよね〜」とか言われて「確かに〜」なんて口走っちゃうし、ついつい「今夜ボク達を本物の女にしてねっ♡」なんて言われたら「やれやれだぜ」とか言いつつ バァーン! とジョジョ立ち決めちゃう訳で。


まぁ要するに、ここまでの行いを総括すると、まさしくさっきまでの俺は『ついつい調子に乗っちゃって〜』状態だった訳である。


これは、まぁしょうがない。

ヤッちゃったんだから、しょうがない。


だって「ついつい」は日常に潜む不可避の現象であり、後になってから「あ〜。またやっちゃった〜。でもやっちゃったもんは仕方ないよね~」とか思うまでがセットなんだから。


うん。


だけどね、そんな「ついつい」 と同様に 「ふと」 なんて言葉もあるんだ。


ふと気がつく、とか

ふと思い出す、とか

ふと考える、とかね。


今俺は、疲れ果てた末に スピ〜 スピ〜 と寝息を立てている3匹のメスゴブリンに代わり、一部血に染まったバスタオル達を洗い場でゴシゴシしているんけど、『ふと』我に返る瞬間ってやつを迎えちゃったんだよね。


あれ?俺何やってんだ?

つーかあいつら義姉妹じゃね?

つーか娘にするクエスト、あれどーなった?

なんてね。


ちなみにメスゴブリンってのは言わずもがなあの三人の事で、揃いも揃って「グギャー!!」とか「イギィー!!」とか「ギィェー!!」なんて叫ぶもんだからさ、どこが本物の女だよと、これは討伐クエストかよと、俺の聖剣tueeeかよと、感動もくそもなくただただ爆笑で終わった初体験の末に付けたあだ名なんだけど。


まぁそれは置いといて話を戻すけど、涼といい感じになって『ついつい』調子に乗っていた俺は、姉妹のアプローチをすんなりと受け入れたあげく、勤しんでゴブリン討伐をヒャッハーし、「ふっザコ共が」とか言って勝利の余韻に浸りながらバスタオルをゴシゴシし、その途中に『ふと』我に返り、「ヤっちまったぁー!!」と今猛烈に後悔している、そんな状況だ。


そしてその後悔のさなか、次に『ふと』怒りがこみ上げてきた。


あいつら俺のクエスト反故にしやがった!

俺が有頂天の真っ只中にいる所を狙って陥れやがった!

って。


…いや、実際のところ、結果としてはそれが嫌だった訳じゃないんだけどさ。

だって



『鈴音が離脱した今、涼を含めた四人で新たにハーレムパーティを組み、婚姻届をその結成の証としよう』



なんてさ、そんな楽しい提案をされちゃあ冒険者気取りの俺はウッキウキでサインだってしちゃうでしょ?

何故か涼もノリノリだったしさ。


だから、まぁ……いいんだけどさ。


だけどさ、涼に一等賞を捧げた時のあの熱さと比べて、姉妹には何か上手いこと手玉に乗せられた感が強いんだよな。

そりゃさ、あいつらをハーレム要員にするなんて普段の俺なら絶対にしないから、色々と作戦を練ってきたのは分かるけど…。

なんか腑に落ちない。

まったくさ、涼の頑張りに便乗して俺をハメやがって、コスいんだよやり方が。

ほんと、一体誰に似たんだろね?こいつら。


でもさ…あいつらってば「義理の妹のままなら子供産めるし、早く本当の意味でパパって呼びたいな♡」なんてさ、言うんだよね。


はぁ。

仕方ない、負けを認めよう。

俺は女を振り回す男になるつもりだけど、今回はまぁ…完敗だよな。



えっと……何の話してたっけ。


あ、そうそうクエストだよクエスト!

当時小3だった坂本君が辞書を引きながら一生懸命に考えたあのS級クエスト。

それをさっき自ら依頼用紙を破り捨てるような事態にしてしまった訳だけど、俺はこれ…まだ諦めたくない。


だって、あれがあったからこれまで頑張ってこれたし、もし達成出来ないのであれば、今までやってきたクエストが全部無駄になっちゃう。

いや、実際は経験値も報酬も大きいから別に無駄じゃないんだけど、なんか、小3の坂本君がガッカリしちゃう気がしてさ。

だから、俺は今からちょっと見直しをします。



【依頼内容】

エリナと真理を大人になるまで育て、俺が父親だと認めさせること。


ふむ。

二人共もう16歳だし、あと2年で成人だ。

俺は中学生になる頃には既に二人の衣・食・住のほぼ全てを賄ってきた訳で、金銭的な面では父親の役目を果たしていると言える。

なので、これまでと同様にあと2年支援すればめでたくクエスト達成!となる訳だ。

そこで問題となるのは、先程二人を俺のハーレムメンバーに加えてしまったこと。

義理の妹 → 義理の娘 になることで完成するはずだったこのクエストが、義理の妹 → 俺の女 → 義理の娘?? となり、どう考えても義理の娘までは結びつかなくなってしまった。

故にこの部分を修正。

義理の妹 → 俺の女 → 孕ませ

はい、完了。

何の問題も無い、むしろグレードアップ感があるくらい。


次。


【報酬】

二人の結婚式でバージンロードを歩く権利。


ふむ。

これね、父親じゃなくて新郎として、でいけば万事OK。

脇役から一気に主役への抜擢、悪くない。


うん。



ふぅ、危なかった。

これでなんとかクエスト続行出来そうだ。


へへっ。どーよ、坂本君。

これが大人の修正力ってやつだよ?

人生にはさ、どうしても 『ついつい』 も 『ふと』 もついて回る。

でも、けして諦めちゃダメなんだ。

諦めなければ、きっと何かが見えてくるんだ。

OK?これはお兄さんからの教訓だからね?


あっ!あとね、女はみんなゴブリンなんだ。

だから、あんま期待しないようにな!


なんてな。


さて、バスタオルも綺麗になったし、戻るとしますか、巣穴に。

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