第20話 夢の時間…

時は少し遡り、ボク達の演奏会後のお話。


京都駅での連弾と響による圧巻の演奏、そしてボクの感極まった上での初キッス。

これにてボク達の演奏会in京都ステーションは大盛況のもと無事終演となりました。

ではさっそく荷物を置いて観光へしゅっぱーつ!と、いきたい所でしたが、思いのほか会場が盛り上がり過ぎてしまった結果、興奮した観衆から握手や写真をめちゃくちゃ求められて困ってしまいました。

ですが、響が「俺達も観光に来てるからごめんなさーい!」と大声で断ってくれたおかげで、混乱もなくスムーズに退散することが出来ました。

こういうところって頼もしいですよね♡


その後はやっとロッカーを見つけたので荷物を置き、いよいよもってボク達は観光へと赴くことが出来ました。


ちなみに、キスについては周りの熱気が凄すぎて、全然余韻に浸れなかったのが残念ですが、響の顔が少し赤くなっていたのを見れたのでボクは十分です。

次はちゃんと告白した後に…ね♪♪

まぁそれも告白がうまくいけば、ですけど……


さてさて、ボク達の次の目的地は料亭です。

新幹線の中でしきりに『芸者遊びがしたい』と言っていた響の希望に沿い、まずは祇園まで行きました。

実際に祇園の町に来てみると、ボク達のようなガキには場違い感が半端なかったのですが、演奏でテンション爆上がりのボク達は怖いもの知らず。

とりあえず目に止まった料亭に行き、勢いに任せてお座敷遊びをしてみたい、と希望を伝えてみたところ、そこの女将さんから「一見さんはお断りさせてもろてます」とはんなりと断わられてしまいました。

ですが、そこですんなりと引かないのが坂本響という男なんです。


「なら店はいい。それよりも俺はあなたと友達になりたい。今、そんな衝動に駆られているんだ。何故かは分からない。だけど、この気持ちだけは、断らないでほしい」


と、女将さんを真っ直ぐに見つめ、至極真剣な面持ちでいきなり口説き始めてしまいました。

齢70を超えていそうな女将さんに、です。


きっと、友達になってしまえば一見さんじゃなくなるのでは?そう思った故の行動なのでしょう。

もう、むちゃくちゃですね。

でも、もしそうなれば面白いですよね。

だけど、ボクからすればドキドキしてしまうような言葉や表情であっても、百戦錬磨の女将さん相手には通用しないかもしれない、そう思っていました。

しかし、相手は孫みたいな年齢の男の子、それが女将さんには可愛らしく映ったのでしょうか。



「ふふふっ。いややわぁ、こないなおばちゃんつかまえてけったいなこと言う子やねぇ。そやけどなぁうちかて女どすよって。そないな男の顔して口説かれたら断われしまへんよ?そうやなぁ、そしたらそちらのかいらしいお嬢さんに協力してもらいましょか。うちからお店紹介するよって、一筆したためるさかい少し待っとっておくれやす。あ、そうやった、ウチは吉乃言いますよって。よろしゅうに」



さっきまではどこか冷たい印象だった女将さんが、今はやわらかく微笑みながら手を差し伸べてくれました。



「俺はひびくって書いて響だ。この子は涼。すずしいのね?よろしゅう、吉乃さん」


「涼です。よ、よろしゅう…」



女将さんはボクにも手を差し伸べてくれたので、慌ててボクも握手をし、ぎこちない挨拶をしました。



「響はんに、涼はんね、ほんまにええ子らやね。ほならちょっと待っとってや?」



そう言って店内に入っていく女将さん。



「うん。何言ってっか全然分かんなかったな。あはははは!今どーゆう流れなんだよマジ。あはははっ!」


「ボクも分かんなかった!これから何が始まるの?でも友達にはなれた、のかな?響が急に口説いて、吉乃さん嬉しそうで、よろしゅうって言ってたから…でも、どうなんだろね?あはは!」



これからどんなことがボク達を待っているのか、全然流れが分からなかったけれど、ボク達はワクワクしながら待っていました。

すると、間もなく吉乃さんが戻ってきて、お友達がやっている舞妓体験専門店を紹介してくれました。

そして吉乃さんが言うには、ボク達はそこで無料で変身でき、さらに写真まで無料で撮って貰えるようでした。

なるほど、まだ子供のボク達にお座敷遊びは早いので、それならばボクを舞妓にさせてしまおうってことなんですね。

素敵な配慮だな、さすが吉乃さん。



「じゃーお礼にご飯おごるから一緒に行こう!」



と、響が吉乃さんの手を引いて誘いました。

仕事中なのでは?と思いましたが、丁度お昼休みだったのか、意外にも吉乃さんは嬉しそうにしており、まるで孫に連れられる祖母、といった感じで一緒に歩いてくれたのです。


こうして、ボク達は料亭の女将さんと並んでラーメンを食べる、という貴重な体験ができました。

しかし響、よりによってどうしてラーメン選ぶかねぇ……

吉乃さんの上等な着物が汚れてしまいそうでボクはずっとハラハラしていましたが、吉乃さんは終始嬉しそうで、楽しそうでした。

ボクも凄く楽しかったし、ラーメンもおいしかったので、響の昼食選択ミスも良しとしてあげましょう。


はい。こういった経緯があり、ボク達はガチで吉乃さんと友達になることができました。

ラインも交換し、既にボク達は よしのん と りょうちゃん と呼び合っています。

そして結局 よしのん は舞妓体験のお店まで一緒に来てくれて、ボク達の変身も手伝ってくれました。


そして無事に舞妓&若旦那へと変身したボク達。

よしのん も手を叩いて絶賛してくれましたが、それよりも店主さんが思いのほかボク達のヴィジュアルを気に入ってくれて、HPやパンフのモデルを頼まれ、一時間程の撮影でなんと20万円もの謝礼を頂きました。

舞妓体験が無料になったどころか、今日の宿代までも稼いでしまったのです。


はぁ。響がいるだけで勝手に広がる輪とクエスト、本当に毎度驚かされます。

でもいつもと違うのは、今日は鈴音がいた立ち位置にボクがいる、ということ。

それが嬉しくて、幸せで、まるでの夢のような時間で、京都に来てから今まで、ずっと涙が出てしまいそうな思いでいました。


撮影後、店主さんのご厚意でその格好のまま観光を楽しめる事になったボク達は、先の寺田屋や祇園の町を見て回り、宿に向かうための着替えをしにまたお店に戻って来ました。


時刻は15時30分、次は例の旅館に向かいます。

ふふふ♡

夜には響としっぽりはんなり出来たらいいなー♡

そんなよこしまな期待を胸に、ボクが店員さんに手伝って貰いながら化粧を落としていると


「おにーちゃん!!」

「兄さん!!」


そんな、夢の終わりを告げるような声が聞こえてきてしまったのでした……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る