第19話 お涼と坂本 〜寺田屋事件〜

ドタドタドタドタッ!


「さ、ハァ、坂本さま、ハァ、そ、外に大勢の捕方が、ハァ、き、来ております!」


「なに…?」


ピッ。


「……ふむ。今のは良かったんじゃないでしょうか。どうです?先生」


「いや、実によろしいかと。ここに来て臨場感が増しましたね。しかしね、坂本君。『外に』が『表に』であれば尚良かったとは思いますね。いや、実におしい」


「なるほど。ではお涼さん、次は『表に』ですよ?さ、もう一度」


「いや何回やらせるのさ!ハァ、ちょっと先生さん!いい加減にして下さい!ハァ、あなたもちょっと凝りすぎじゃないですか?!」


「いや、しかし…」


「おい涼!先生がこんなにも熱心に指導してくれてるのに失礼じゃないか!」


「だいたい!ハァ、おりょうさんは舞妓じゃないですよね?!女中さんで、裸同然の姿だったと、ハァ、先生言ったじゃないですか!そこまで妥協するなら、ハァ、少し言葉が違うくらい、ハァ、いいじゃない!もう6回も階段駆け上がってるボクの身にもなってよー!」


「いや、だからこそ、だからこそなんですお涼さん!たしかにおりょうは女中だった!しかし、もし舞妓だったら?たとえ姿が舞妓でも、きっと同じように竜馬に危機を伝えたはずです!故に、故に!」


「分かります先生!ですよね!大切なのはおりょうの心!竜馬を心配するおりょうの心!これですよね!」


「そうなんです!その心が竜馬の危機を救ったんです!それが!あの歴史を紡いだ、大事なファクターなんです!」


「もうっ!意味分かんない!じゃー言葉だって何でもいーじゃない!」


「いや、しかし…」


「涼……」



もうっ!卑怯だよ!

なんなのよその懇願するような眼差し!

そんなの、断れる訳ないじゃない!



「はいはい!もー分かりましたよ!響っ!これが最後だからね!分かった?」


「そうか!ありがとう!愛してるぞっ!お涼!」


「も、もう………ばか♡」



最高な不意打ちをくらってもう嬉しいやら恥ずかしいやらで、俄然やる気が出ちゃったボクがトタトタと階段を降りていると、ボクの背後から


「先生今の撮ったか?」

「ええ、バッチリ」

「可愛かったな」

「ええ、歴史的に」


そんなやり取りが聞こえてきて、余計に嬉し恥ずかしやる気パワーが上がった。


そのおかげで世界一頑張れる女になったボクは、舞妓版おりょうを全力で演じ切り、ボク達を見守ってくれていた他の観光客の皆さんからも盛大な拍手を貰うことができ、テイク 7 にも及んだボク達のミニドラマ『お涼と坂本 〜寺田屋事件〜』はこうして無事クランクアップを迎えたのだった。


でも最後に先生が「まぁやはり舞妓と女中は違いますけどね。ふふ」と元も子もないことを言い出したのでぶっ飛ばそうかと思った。


あんたビジュアル関係ないんじゃねーのかよクソおやじー!





……えっと、冒頭からいきなり何? 一体何が始まったの?!と思った皆様ごめんなさい。

実はボク達は今、舞妓と若旦那の衣装を来て京都観光をしているんです。

その経緯は後ほど説明しますが、とりあえずボク達はさっきまで寺田屋に来ていました。


響は坂本竜馬と『坂本』繋がり。

ボクはその妻の おりょう と『りょう』繋がり。


ボク達はそこまで竜馬ファンという訳ではないのですが、なんか縁を感じたボクのリクエストでここに来たんです。

はい、夫婦ってところが決め手です。


そこで出会ったのが自称歴史学者の榎本さん。

先程ボク達が先生と呼んでいた人物です。

この人は趣味で京都の史跡ガイド(無料)をしているそうで、今日は寺田屋に居座って、竜馬について語り合える人が来ないかなーって待っていたそうです。

暇ですね、本当に歴史学者なのでしょうか。



『せっかくだから竜馬・おりょうごっこをしよう!』



寺田屋に来ていたボク達は、和服ということもあり、幸い人も少なかったので、寺田屋事件で有名なあのシーン、お風呂に入っていた おりょう が、竜馬の危機を知らせに階段を駆け上がるっていうやつをやってみたんです。


「りょーまさーん!ヤバいよー?」

「マジか!ヤバいのか!」


って感じで。

そしたら、我慢出来なかったんでしょうね、近くにいた榎本さんがあれこれ口を出して来たんです。


正直ボクはどーでも良かったのですが、困った事に響が興味持っちゃいましてね、そこからボクの地獄の階段昇降が始まり、先程やっと終わった、という事でした。


「声に必死さが足りない」

「スピードが遅い」

「坂本君が見えたら笑顔になるな」

「イントネーションが違う」

「顔がこわい」


ったく、怒らせてんのはアンタでしょーが!!

……コホンッ

自称先生がこんな感じのダメ出しを繰り返すせいでテイク 7 までやり直した訳です。

しかも、ボクじゃなく響に言ってくるのがまた腹立たしいんですよね。はぁ。


ほんと、めちゃくちゃ大変でしたが、最終的には「愛してる」も「可愛かった」も貰えたので頑張ったかいがあったというものです。

まぁ、なので榎本さんにも一応感謝はしておきますか。

動画も撮ってくれたし、一応ね。


では、次回ですが、『響が女将(70)と禁断の恋に?!そしたら涼ちゃん舞妓に大変身!の巻』をお送り致します!どうぞお楽しみにー♬

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