第17話 荒れて壊れて鈴音節

響ちゃん学校来なかった。

響ちゃんを見ること、それだけが今の私の生きがいなのに。

涼達もいない。

だからきっとみんなでどっか行ったんだ。

私を置いて。

まぁ当然だけど。

だって私ただのゴミだもん。

ゴミ連れて遊び行く人いないもん。


死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい。


けど死ねない。

迷惑かけるからじゃないよ?

今さら迷惑をかけるくらい別にいい。

いや、よくないけど。

でもそれぐらいなら響ちゃん怒るけどなんとかしちゃうもん。

それでもよくないけど。

そーじゃなくて。

悲しませるのがダメだってこと。

これが言いたかった。

死んだら響ちゃん悲しむもん。

いくら遊びに連れてってくれなくても、私が死んだら悲しむもん。

それぐらい分かるもん。

ならさ、いっそ迷惑かけようかな。

遠くから見てるプレイすらさせてくれないのなら、付き纏っちゃおうかな。

逆に。

逆にね。

いや、いやいや。

ダメだね、やっぱゴミだね私。

空を見る。

あ、同じ空の下にいるならいっか。

どこにいたってさ。

空繋がってる訳だし。

いやよくねーわ。

私は見たいの、せめて。

ストーキングしたいの。

話しかけて嫌な顔させるのは避けたいから。

うん。


ストーキングしたい!

ストーキングしたい!

ストーキングしたい!


マジで。

つか空って名前よくない?

私と響ちゃんの子、空。

鈴の音が、空まで、響く。

坂本 空。

デュフフ。

でももう無理だけど。

死にたい。

しかし、なんで彼氏作った?私。

意味分かんない。

なんなの?

マジで。

死ねよ私。

でもこれね、実は分かってんだ。

どっか認めたくなくて黙ってたけど。

分かってんの私。

これね、劣等感。

これ。

これに尽きるの。

響ちゃん→SS

エリナ→SS

真理→S

涼→神

私→C

これ、容姿ランクね?

最低がF。

真理も本来はSSだけど、すぐ怒るから減点しといた。

まぁ内面入れたら私ただのゴミだけど。

死にたい。

これさ、ありえなくない?

ビビるっしょ?

全国のBランク未満のみなさん。

混じれる?これに。

ムリっしょ。

頑張ったっしょ?私。

せめてこのハイクラス達に一矢報いたい。

だから皆より先に恋人作った。

マウント取りたかった。

たぶんそんな側面があった。

心の奥底の劣等感を薄めるために。

響ちゃんのことなんて昔から超愛してる。

でもムリっしょ。

片や血統書つき、片やその辺のノラだよ?

いや、ノラも可愛いけどあれ犬猫の話だから。

人間のノラとか可愛くねーから。

世間が認めねーから。

従兄弟だよ?うちら。

信じられる?

何なの?この差。

その差を少しでも埋めようと足掻いた。

陸上頑張ったりおしゃれ頑張ったり。

だからさ、コクられたら嬉しいっしょ?

こんな私が認められたんだから。

そりゃ嬉しいよ。

つか『そりゃ』って空に似てるよね。

死にたい。

頑張っても中の上の私。

みんなは上の特上と天上。

そりゃ卑屈になるさ、私なんかが…って思うさ。

つか『そりゃ』って(ry

死に(ry

でも…

響ちゃんはさ、そんな私と結婚するつもりだったと言ってくれたんだ。

響ちゃんはさ、私の容姿も、ダサいコンプレックスも、全部包み込んでくれてたんだ。

それが、響ちゃんなんだ。

それが、坂本 響という男なんだ。

そんな男をさ、捨てたんだ、私。

アハハハハハハハハッ!


死ねよ私死ねよ私死ねよ私死ねよ私。


マジで。

あのさ、響ちゃんのなりたいもの、知ってる?

犬だよ。

いや、これマジだよ。

昔さ、ゴミ屋敷におばーちゃん住んでたんだ。

おばーちゃんさ、凄く汚くて、臭かった。

でもマルチーズ飼ってた。

ナナちゃん。

マルチーズね。

ナナちゃんさ、そのおばーちゃん。

良枝さんね。

良枝さんのこと、よく舐めてた。

尻尾ブンブンして。

見た目、うわぁだよ。

ナナちゃん病気になっちゃうよって。

でもナナちゃん良枝さん大好きだった。

響ちゃんさ、それ見て「俺はナナみたくなりたい」って。

「ババアの良さ、俺全然分かんないのに、ナナは知ってる。なんか負けた気がするし、あいつ格好いい」って。

いや、エサくれるからじゃない?って思ったけど、きっと響ちゃんには何か違うものが見えてたんだ。

たぶん。

とにかく、それから響ちゃんは人のいいとこ探して、どんな人でも好きになろうとしてた。

そんな響ちゃんだから、みんなから好かれた。

否定しないし、バカにしないし、興味を持ってくれる。

そんな子いたら、やっぱ好かれるよね。

私も、大好きだもん。

それなのに。

それなのにね……



…………あーーうるさい!

なんなの?今日!

私は泣いていたいのに!

うるせーんだよさっきからさぁ!

あっ。てかもう放課後か。

帰ろ。

帰っても響ちゃんいないけど。

死にたい。

動画みよ。

知ってる?Kyo‐Rinちゃんねるっていうの。

それ、出てんの私。

もう、出ないけど。

死にたい。



~♪~~♪♪~♪~♪~~♪♪~

おっ?響パネラ…じゃなかったラ・カンパネラじゃん。



今日はコメント欄を中心に見てみよっかな。

そんな事を考えながら廊下を歩いていると、私の大好きな曲、ラ・カンパネラの旋律が聞こえてきた。

聞いているのは見知らぬ男子、なんか夢中で聞いてる。

良い趣味してんね、あんた。

けどね、響パネラはこんなもんじゃないよ。

もっとこう…早くて凄いんだからね、ふふ。

なんてドヤ顔をカマしていた時、この旋律が至る所で響いていることに気がつく。

不思議に思いながらも視線を前に戻すと、クラスメイトの前田ちゃん達も数人で同じ動画を見ているようだった。

ちょっと気になったから近づいてみる。



「あっ!Rinちゃん?!」

「ちょっ!真由美!」



前田ちゃんの隣りにいた真由美ちゃん、とかいう子が、私を見て驚いた顔で「Rinちゃん」と言った。

私は真由美ちゃんを知らない。

そして前田ちゃんは真由美ちゃんの発言を聞いて慌てている。


ははーん。

これは視聴者さんですね?キラン。



「そだよ!Rinちゃんです!よろしくね!あっ前田ちゃん大丈夫だよ、動画のこと昨日知ったから」



ウインク交じりで前田ちゃんにそう言うと、彼女はホッとした表情を見せた。

そして



「そう…なんだね!えと…一之瀬さんごめん!私達…行くね?」



そそくさと逃げるように去っていく。

まぁこれはこのところ皆が私に見せるそっけない現象だ。

会長との件で嫌われた故のね。

でもさ、なんでそんなにスマホと私を交互に見てたの?

なんで演奏を慌てて消したの?

凄い違和感。



「ちょっと待ちなよ」



そそくさと過ぎ去ろうとする前田ちゃんの肩を片手で ガッ として引き止める。

万引き犯を見つけたGメンの気分。



「ちょっとその動画見せなよ」



引き続きのGメン。

そんなやり取りを廊下にいた生徒達が緊張の面持ちで凝視している。


なるほど、ね。



「それ、響ちゃん…なんだろ?」



Gメン。



「はい…。すいませんでした」



ゲロったね。

やると思ったんだ、あの子。

っていけね、万引き犯じゃなかった。



「あっごめんね?ちょっとそれ見てみたくて。あの、これで見れる?」



そう言って昨日ママから貰ったタブレットを見せる。

どうやらこのツブヤイッターってやつで見れるらしい。

もともとアプリ入ってたから、KyoとかKyo-Rinとかで検索すればすぐ出てくるらしい。

でも、見るのなら絶対に部屋で、一人の時にしてねって念を押された。

小さい声で「荒れるから」って聞こえた。

ものすっごく嫌な予感がする。

もう『今すぐ見たい!!』って気持ちで一杯だったけど、心配してくれる前田ちゃんの配慮を無駄にしないために家に帰ってから見た。


荒れた。

暴れたし、発狂したし、泣いたし、吐いた。

つーか現在進行形でゲロってる。

万引犯じゃないのに。

ほんと、忠告をしてくれた前田ちゃんには感謝しかない。


響ちゃん、つらいよ?

想い人を取られるってこんなにキツいんだね?

響ちゃんのつらさ、私も知ることが出来たよ?

本当にごめんなさい。


にしても


あぁぁぁぁぁぁ!!

涼っ!!

あんたっ!!

一体っ!!

何してくれてんだよぉぉぉぉぉ!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

もうっ!!

いっそっ!!

私をっ!!

殺してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

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