第12話 ビッグウェーブ
「やっぱり最後に食べよう!って今決心したとこだったのに…」と、玉子を取られてしょんぼりとしている響に、代わりにボクの和牛ステーキをあげたけど、なんかイマイチな反応だったので、車内販売のアイスとコーヒーを買ってあげたらようやく味玉ショックから立ち直った。
「なぁ、そういえば今日の宿決まった?」
嬉しそうにアイスをパクつくかわいい響が、とても良い質問をボクに投げかけてきた。
場所は人気の京都だし、土日ってこともあって、実は昨日宿を探すのが超大変だった。
だけど、丁度キャンセルが入るという奇跡があって、なんと、候補の中でも一番行きたかった旅館が取れてしまったのだ。ラッキー!
値段は二泊すると二人で30万円くらいしちゃうのだけど、ボクには鈴音ママから振り込まれた動画の収入があるので全く問題がない価格だ。
貯金額で言えば、ボクは二千万弱、響に至ってはおそらく2億円を超えている。
動画の収入については、響の分は鈴音ママの口座に入っているので響はまだ知らないはずだけど、響の場合は、土地や株券等も含めると、たぶん軽く10億円を超える資産があって、そもそも動画の収益がなくてもフツーに億り人だったりする。
実は、響が昔から行っているクエスト、その依頼者の中には、身寄りのない資産を持った高齢者も沢山いて、彼らに気に入られた響は財産をバンバン譲られている。
最初はお菓子や遊園地のチケット程度の報酬だったのに、それがだんだんと貴金属やお金等に変わって行き、まるで人気ホストに競って貢ぐ女性達のように『他のやつらに負けてたまるか』といった心理が働いた結果、響は意図せず短期間の内に富豪になってしまった。
今エリマリ姉妹の住む家だって、そんな高齢者から響が譲り受けたものだし。
いや、響はなにも、寂しい高齢者を狙い撃ちしている訳ではないのだけれど、この高齢社会が追い風になり、オレオレ詐欺師もビックリな稼ぎ方をしちゃっているのだ。
小学生だった頃のボクは、あのクエストがこんな風に実を結ぶとは思いもしなかったけれど、たぶん響だからこそ成し得たことで、誰にでも出来ることでは無いと思う。
響君という少年に惹かれ、ボクは親友としてくっついて回っていたわけだけど、あの少年がいつの間にかこんなにもビッグな男になってしまうなんてさ、ボクの人を見る目もあながち捨てたもんじゃないよね!
なんてね♪
おっと、話がだいぶ逸れてしまった。
「宿ね、すごーくよさげな所が取れたよ。お部屋に大きな露天風呂もあってね、食事もおいしそうだった!そこに、二泊するからね?」
「あ、そーなん?すげーじゃん!さんきゅ。でも俺一泊のつもりだった。つーかさ、だったらエリナ達呼んでくんね?どーせはんなりJDとはお知り合いになれないし」
そう言って例のごとくチラチラとボクの胸を見てくる響だけど、今回はスルーしてやった。
せっかく二人だけの旅行なのに、他の女の名前を出してくるなんてさ?そんなの、ギルティなんだから。
「はんなりJDね、それ言うと思ったよ。でも女の名前出したからパフパフさせてあーげない。ぷんぷんっ」
「今時ぷんぷんって言う女いるとは思わなかったゼ?この昭和女め。てか女の名前って娘でもダメなの?いや、そんなに良い宿なら連れてってあげたいじゃん!ダメか?」
「ゼ?も中々に昭和だよね。あのさ、二人を呼ぶのはいーけどせめて明日にして?今日はどーしても二人がいいの。今日はね、二人で観光して、二人でご飯食べて、二人で温泉入るんだよ?」
「えっ?!部屋一緒なの?今の涼と部屋一緒とか、そんなの……子供出来ちゃうじゃん!」
「望むところだよ!!ねぇ、今何気に名前で呼んだね!くぅ〜♡使いドコロ分かってるよねー!よしっダーリンおいで♡ご褒美パフパフだよー♡」
「ルパンダーイブ!」とか言って遠慮なくボクの胸に突っ込んできた響の頭を撫でながら、ボクは今ニマニマと幸せを噛み締めていた。
ふふ♡
「お前」じゃなくて名前で呼ばれちったゼ♡
別に名前で呼ばれるのは珍しくないけど、女に戻ってからは初だからなんか嬉しかった。
他の女の名前を呼んでボクが怒ったことへの意趣返し的な感じかな?全く、たらしなんだから♡
つーかさ、もうボクって彼女なんじゃなかろうか。
いや、そう思ってしまうほど、どういう訳か、なんか順調なんだけど。
いや、ボクもね?なんか奇跡的に上手いこと流れを作っている節はあるんだけど、響もノリが良すぎてさ、冗談なのか何なのか分からないけれど、この調子だと本当に今日抱いてもらえそうでドキドキドキンちゃんな件。
……あれかな、ランナーズハイみたいに、失恋ハイみたいのってあるのかな。
それともただの旅行テンション?
ま、なんにせよ、響は昨日の決着で吹っ切れたみたいだし、やっぱり波、きちゃってる?
ならば、ボクも乗るしかないよね、このビッグウェーブに!!
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