第11話 ありのままで

東京駅までの移動中、はんなりJDとのアバンチュールを夢見ていた響はブツクサと文句を垂れていたが、その度に物理的に(胸を顔に押し付ける)黙らせていた。


どーも途中から味を占めて、ただボクのおっぱいを楽しむ為の口実のような気がしたけれど、こちらとしても悪い気はしないので存分にパフパフさせてあげていた。


道中、そんなムッツリ響と戯れていたらあっという間に東京駅に着き、一緒にお弁当を選んでから新幹線へと乗り込んだ。


しかし、不思議なもので、響はボクをちゃんと女性として扱ってくれている。


まぁ言葉は相変わらず荒めで基本親友扱いなんだけど、ボクの荷物を持ったり、エスカレーターではボクの下に乗ったり、駅員さんに何かを尋ねるのも自分からだし、座席をトイレに行き易い通路側がいいかと聞いてくれたり、何よりボクを見る目と声がいつもよりも優しい気がする……こんなの、昨日までの『僕』だったボクには無い配慮と雰囲気だ。


そりゃ嬉しいし、おかげでずっとキュンキュンしっぱなしなのだけど、いくら見た目が変わったからと言って、普通だったらもっと微妙な距離感っていうか、「どう接していいか分からないよぉ~」的な戸惑いがあってもいい筈なのにな、なんて思う。


そもそも詳しく理由も聞いてこないし、まるでずっとこんな関係だったと勘違いしちゃうくらいにすんなりと受け入れてくれている。

なんだろ、道中のパフパフが功を奏したのだろうか。


どちらかと言うと、女の子扱いに慣れていないボクの方がなんか照れちゃってるし、女らしい接し方がイマイチ分からず悪戦苦闘しているくらいだ。

困ったらとりあえず体使っとこ、てなもんだ。

それがちょっと悔しい気もするけれど、やっぱり嬉しいが勝ってずっとポワポワしちゃってる。



「ねぇ、どうして響はそんなに自然なの?ボクとはずっと男として接してきたのに」



お弁当の味付け玉子をツンツンし、今食べるか、最後に食べるかで悩んでいる響に何気なく聞いてみる。



「ん?自然って言われても、そんなの知らね。けど、あれじゃね、意識して箸って使ってないじゃん?気付いたら使えてるじゃん?そんな感じ」



箸って……今丁度手に持ってるからって適当に答えたよね絶対。

しかもさっぱり意味分かんないし。


でも、まぁ、考えてみれば響ってそうなんだよな。

先入観とか、評判とかで人を判断しないし、自分を大きく見せたり、強く見せたりもしない。

ありのままの自分で、ありのままの他人と接しようとするんだ。


……そっか、今朝、朝一でボクが女だと主張したから、その思惑も、経緯も、全部とっぱらって、ありのままの、今のボクを見てくれているし、今のボクを大切にしてくれているってことか。


あぁ………凄いな……


『女としての自分を見て欲しい、そして受け入れて欲しい』


そんなボクの願いは、とっくに叶っていたんだ。


(響はこんなボクをどう思うかな……受け入れてくれるかな…怖いな……)


なんて、昨日からボクはずっとビビってたっていうのにね。


はぁ。ほんと、敵わないなぁ……



「えいっ!」


「うわっ!えっ?!うそだろ!やめて!返してぇ〜!あぁぁぁぁぁ」



へへっ♡

なんか悔しいから味玉奪ってやった。

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