第二章 変わる関係性
第10話 発車のベルは口喧嘩
「お前ふざけんなよな!」
早朝、住宅街にそんな響の怒声がこだまする。
ウェーブロングのエクステをつけ、胸を強調したピッタリとしたサマーニットにデニムのミニスカート、そんな、いかにもであざとい格好をしたボクへの第一声が、これだ。
ある程度予想はしていたけれど、昨日行った美容室、服屋、両親からも絶賛され、自分でもかなり自信があったためにこの仕打ちにはかなり凹んだ。
だって今のボクは正真正銘ただの乙女なんだからさ。
しかし、先程受けたダメージを処理できずに固まっていたボクに向けて、響は無常にも追撃を加える。
「せっかく京JDにしっぽりはんなりプレイで失恋の痛みを慰めてもらおうと思ってたのに!お前がそんなんじゃ誰も声掛けてくんねーじゃねーかバーカ!今すぐ髪切れ!服着替えろ!」
はぁ?!
何言ってんだコイツ!さすがにプッチンきた!
だいたい、JDとワンナイト目論むなら何なんだよその格好は!
黒地にでっかく白い字で『日本人』と書かれたダサいTシャツにハーフパンツ、そしてビーサン。
おまけにバックも持たずにビニール袋だけ持ってきてやがる。
旅行どころかフツーにコンビニ帰りの高校性じゃんか!
ビニールから透けてんだよ星柄のボクサーパンツがさぁ!
普段はおしゃれなのに今日に限って何なの?!つーかその格好でJDとかマジでどの口が言ってんだ?!
これはあれか?旅行中に変な虫が付かないようエリマリのモテない大作戦か?
それならグッジョブと言わざるを得ないが、こんだけ気合を入れた自分との温度差に愕然とするし、こっちの努力も知らずに言いたい放題の響には一言言ってやりたい!
「うるさーい!そんなだっさい格好した響になんて何も言われたくないよ!だいたい、どー見たってボクかわいいでしょ?!こんなにかわいい子連れて京都歩けるんだから光栄に思いなさいよ!」
「あん?格好はそんなんでも相変わらずの僕っ子ですか?口調も女っぽくしたなら徹底しろよなトーシロが!つーか何が目的なんだよ!いじめか?新手のいじめなのか?!」
「僕っ子はボクのアイデンティティーなんですー!個性なんですー!」
「何が個性だよ!お前今はまだ若くてかわいいからいいけど、30とか40になった時を想像してみ?キッツいんだよ!そこまで言うならババアになっても続けろよな!」
「ふーん、今は若くてかわいいんだ?それにババアねー。そっか響はボクを女の子だって認めるんだね!」
「……え?いや、別に認めるけどさ……マジで今日のお前どした?ってうわっ!腕組むな!おっぱいくっつけんなよおいぃ~」
「ふふふっ♡さ、いこ?ダーリン♡京都着いたらまず服買おうね♡」
「お、おぉ……(なんなんだこれ…いったいどういう遊びなの……?)」
こうして、『かわいい』と『女認定』をもらったボクは上機嫌で響と歩き出す。
口喧嘩から始まった京都旅行ではあったけど、結果的には上々なスタートを切ることが出来た!
あとはいっぱい響に甘えて、響の心と体から今までの『僕』を追い出し、新たに女のボクで埋め尽くすだけだ。
よーし、頑張るぞっ!おー♡
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