第6話 S級クエスト
「終わったんだな」
帰途のさなか、立ち寄った公園のベンチに腰掛けて俺はそう呟く。
意外にも、あまり心は乱れてなかった。
………………
リンとの決着がついた後、俺は涼と帰路についていた。
そして学校の最寄り駅に着いた時「準備があるから!」と、なぜか意気揚々とどっかに行った親友。
浮かれやがって…今にもスキップしそうなその背中を生暖かい目で見送っていた時、俺に追いついてきた愛する娘達に「カラオケでも行く?」なんて誘われた。
気分転換に、といった配慮だろう。
けど俺は、どーせなら失恋の苦味を味わうのもまた一興だろう、そう思い、二人には悪いが断り、先に帰っているようにと伝えた。
こうして二人と別れた俺は家とは逆方向の電車に乗り、降りたことの無い駅で下車し、気の向くまま歩いていたらこの見知らぬ公園に辿り着いた。
途中、横断歩道を渡りきれなかった婆さんを助けたりしながら。
俺は基本的に善意でクエストを行ったことは無い。
善意で行うのであればそれはボランティア。
クエストはあくまでも仕事であり、見返りとして何らかの報酬を得ることが目的だった。
本来ならば、さっきの婆さんにだって飴玉の一つくらい要求していたところだ。
思えば、これが初めての善意による行動だったのかもしれない。
なるほど、これが大人になるってことか。
俺はこの失恋クエストから『成長』という報酬を貰ったのか。
いや、違うか、婆さんから報酬を貰わなかったのは単に気分の問題だわ。
だいたい、ちょっと婆さん助けたくらいでクエストだのボランティアだの善意だのと、何をごちゃごちゃと言っているだ俺は。
おまけに『成長』とかドヤ顔で言う始末。
我ながらキモいですねー。
しかし、見返りね。
ことクエストにおいて、俺はこれを行動の根幹に据えていた。
アニメに出てくるギルドと冒険者、その在りように憧れたのがきっかけだ。
小学3年生の時、クエストについて相談した担任の先生に連れられて俺はある児童養護施設に行った。
先生はそこの子供達に料理を教えるボランティアをしていて、その見学に連れて行ってくれたわけだ。
毎月1回、週末に先生と一緒に何度か施設に通ううち、そこで俺にも友達が出来た……訳ではなかった。
俺は施設の子供達から結構な勢いで嫌われていた。
上級生達からは割と可愛がられたけど、同級生からは「ボンボン」と言われ陰で蹴られたりしていた。
その時のイジメ軍団のリーダー的な存在、それがエリマリ姉妹だった。
昔のあいつらときたら天使の顔した悪魔そのもので、顔は殴らないけどボディーを執拗に攻めてくるくらいに
俺は施設に行く度、毎回あいつらの餌食にされた。
じゃあなんで俺が通ってたかって?そんなの、悔しいからに決まってんだろ!
冒険者に憧れているのに、2対1とはいえ、孤児院の女ボス程度にいいようにやられているのはプライドが許さなかった。
しかし、力では敵わない。
では、俺はどうしたかというと、買ったのだ。
奴らを奴隷として購入し、屈服させようと思ったのだ。
なかなかにクズな思考だとは幼いながら自分でも思った。
けど、奴らが馬鹿にしたボンボンの力、見せてやろうじゃないかと俺は思ったんだ。
俺の母親は海外で活躍する有名女優だ、お金はある。
だから俺はマミーに奴らを養子に迎えるように頼み込んだ。
するとマミーは「うん、養子を迎えるって慈善活動的で人気出るし、いいと思う」と言った。
勝った、と思った。
「だけど、響ちゃんがちゃんと面倒見るんだよ?とりあえず妹になるけど、大人になったら響ちゃんの子供にするぐらい本気じゃなきゃマミー認めないんだから」と、続けて言われた。
自立を重んじるアメリカ人らしいマミーの考えだった。
望むところだ。
どこに出しても恥ずかしくないレディに育ててみせる。
そう決意した俺は、さっそく自室でA4のコピー用紙にこう記した。
依頼内容:エリナと真理を大人になるまで育て、俺が父親だと認めさせること。
報酬:二人の結婚式でバージンロードを歩く権利。
これが、俺が、俺自身に発注したS級クエストであり、俺にとって始めての受注クエストとなった。
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