第2話 委員長レポート ─ Kyo-Rinちゃんねる─

Kyo-Rinちゃんねるのきょう君と鈴音りんねちゃんといえば、今日本で一番知名度のある幼馴染カップルだ。


彼らの中学1年生から約3年間、Utubeで週1回くらいの頻度で配信された動画は、毎回すぐに100万回再生を突破するくらいの人気ぶりだった。

中学卒業を期に更新がストップされたため現在は配信されていないが、半年経った今でも再生数は凄い勢いで伸び続けているオバケちゃんねるである。


主に視聴者は同年代の中高生で、ちゃんねる内の二人と共に成長しながらその関係を見守ってきた。

勿論私も二人の大ファンで、ファンサイトの管理人をするくらいに初期の頃から見守ってきた一人でもある。

なので、そんな二人が同じ高校に進学したと知った時はどれだけ嬉しかったことか。

しかも、あのKyo君が同じクラスにいるなんていう奇跡が起きた時は、ガチで鼻血が出てしまったくらいに興奮したものだ。

別にそれは私に限ったことではなくて、あのキョーリンと同じ学校に在学している、その事実だけで学校中が大興奮状態だった。

この、静かにって所がかなり重要なポイントで、実は、当の本人達がKyo-Rinちゃんねるの存在を知らないため、表立って騒ぐことが出来ないのだ。

それは、動画を投稿しているRinママが、画面の上部に『二人はこの動画のことを知りません。どこかで二人を見かけても静かに見守ってね♪』という固定テロップを貼っていたり、動画の最初と最後には必ず『この動画は愛する娘と甥っ子の可愛さを皆と共有する為のもので、人の目を意識しない自然体の二人を楽しむ為のものです。二人にはもう少し大人になってから打ち明けようと思っていますので、この動画を視聴してくれた皆様もどうか静かに、そして温かく二人を見守って下さい。』と注意書きがされているからだ。

一部には悪意からそれを無視してしまう人もいるだろうけれど、配信が無くなって半年経った今でもまだ二人はその事実を知らない。

これは、きっとRinママの想像以上に視聴者が二人を愛している証左だろう。


ちなみに、二人ともスマホやタブレットの類を所持していないことは、視聴者からの質問に昔Rinママがそう答えていた。

この情報化社会において、未だにスマホ類を持っていない事を直接坂本君に尋ねてみた所、昔知り合ったおじさんから『不自由だからこそいいんだ』と言われたことにひどく感銘を受けたとのことで、本人はそれを実践している最中だと言っていた。

そして鈴音ちゃんについては、「あいつが持ってたら必ず俺にも持つように言ってくるし、くっだらない事で何百通もメール送ってきそうだから持たせない」と、とても苦々しい顔をしながら言っていた。

たしかにRinちゃんならそうだよね、なんて納得してしまうのはキョーリンファンなら当然の反応だろう。


ちょっとワガママで甘えん坊のRinちゃんと、変わり者で優しいイケメンのKyo君。


入学式の日、登校したら女装姿のKyo君が教室にいたことや、そのまま新入生代表として体育館で挨拶をしていたことは、彼がもし知らない人だったならば間違いなくドン引きしていたとは思うけれど、なまじKyo君の性格を知っているが故に、何か騙された上での行動だとは容易に想像できたし、動揺しつつも挨拶はしっかりとやり切った彼や、笑うのを我慢しきれていないRinちゃんが愛しくて仕方が無かった。

周りの反応を見ても、皆同じような印象で二人を見ていたのだと伺えた。


そんな、誰からも愛され、誰からも大事にされていた二人の関係を壊したのは、他ならぬKyo-Rinちゃんねる主役の一人、鈴音ちゃんだった。


先日のお昼時、坂本君はイツメンの西園寺君、エリナさん、真理さんの四人で机を囲んでお昼ご飯を食べていた。

超絶イケメンながら親しみ易い坂本君だけならいざ知らず、同じ人間とは思えないほど整った容姿の四人が集まってしまえばもはやそこは別世界で彼らだけの空間。

私達みたいなパンピーは遠巻きに、そして遠慮がちに眺めている事しかできない。

時々Kyo-Rinちゃんねるに出ていた彼らもまた絶大な人気を誇っているため、芸能人が近くにいるような緊張感もあって余計に近寄り難い雰囲気がある。

その空気を、いつもいい意味でぶち壊してくれるのが庶民的で元気一杯の鈴音ちゃんなのだが、この日は珍しくずいぶんと遅れてやってきた。そして――



「ちょっと聞いて!なんと!私さっき彼氏ができちゃった!ってことで、もうあんたらに構ってる暇無いから! あ、響ちゃんもはやく彼女でも作ったら?あはは!悔しかろう悔しかろう!あははっ!じゃーねー♪」



そう言い残し、彼女は嵐のように去っていったのである。


誰もが去った彼女の方向に唖然とした視線を向けていた時、突然 「ゴッ」 とした音で振り返ってみると、そこには意識を失い、お弁当箱に見事なダイブを決め込んだ坂本君の姿があった。


日本一有名な幼馴染カップルの破局は、こうして私の目の前で起こったのだった。

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