第31話 人のこころ




ネコに乗った妾が家に戻ると、そこには鎧を着た男達の大量の死体と、緑の服を着た男が1人、何やら喚きながら立っていた。




妾はネコから降りると、一直線に歩み出す。



向かってる先には、男達の死体の隙間から見知った顔があったのだ。




けれど、いつもと違う•••




妾は見知った人物の元に辿り着くと、静かに話しかけた。




『マルティナ。師である妾が戻ったぞ』




けれど、反応はない•••






『何なのだ、この気持ちは•••』





目を覚さないマルティナの顔を見ていると、血で染まったマルティナの腹部を見ていると、怒りが込み上げてくる。



ただの怒りではない。



これまでに感じたことのない強い怒り、強い怨み、強い悲しみ、それらが止めどなく襲ってくる。




『たかが人間1人が死んだだけだと言うのに•••』




妾はマルティナの頬に触れる。



『よくやってくれた。後は、師に任せよ』



そう言った後、妾は1人立っている男を激しく睨んだ。



「き、貴様、リリーナだな。なんと悍ましい目なのだ」



『ダリア、リミット1を解除しろ』

『はい、です。完了、です』



リミット1を解除した妾の右目が赤色、左目が黄色のオッドアイに変化し、同時に体から黒いオーラが溢れ出す。



その圧倒的オーラにより、大地が揺れ、目の前の男が尻もちをつく。




「こ、これは•••」


男が言葉を発したと同時に、男の顔が破裂する。



『妾は発言を許していない』



男は眼力のみで、あっけなく破裂した。



妾はあらためマルティナを見つめる。



『マルティナよ。妾ならお前を生き返らせるのは容易い。だがな•••』





悪神は神を超える存在


人が生まれ、命尽きるまでの人生、レコードを操れる存在


そんな悪神からすれば、人1人を生き返らせることは容易い•••



ただ、容易くとも、安易であってはならない



人間は生死を繰り返し、レコードでの実績を積み、成長をしていくもの




『だが、死に目が1人というのは、あんまりだな』



妾は右手をマルティナの心臓に置くと、神気を流し込む。




すると、静かにマルティナが目を開いた。



「り、リリーナ様•••」

『遅くなってすまなかったの』

「リリーナ様、いつもの赤ちゃん言葉じゃないですね?」

『こっちが本物じゃ』



妾は横になったままのマルティナを優しく見つめる。



『マルティナ、お前に残された時間はあと5分程だ。ちゃんと生き返らせてやれず、すまんな』


マルティナは口角を上げ、目を優しく細めた。



「不思議と、リリーナ様•••。いいえ、悪神様?の言葉、聞こえてましたから。別れの時間をいただき、ありがとうございます」


『うむ。マルティナ、お前の次のレコード、こちらの言い方だと人生か、出来る限り望みを叶えてやるぞ』


「本当ですか?」



マルティナは子供のように無邪気な笑顔を作り、右手の人差し指と中指を立てた。


妾でも知っているぞ。

ピース、だな。



『本当だ。何でも言うがいい』


「なら、またリリーナ様の美味しいご飯が食べたいです」


『分かったぞ。他にはあるか?』


「食べ過ぎて太っても、痩せやすい体がいいです」


『うむ』




いつの間にかマルティナの目からは涙が溢れていた。

悲しそうな表情を浮かべ、そして無理矢理笑顔を作り、こう言った。



「次の人生は•••、男が、いいです」


『そうか。分かった』



マルティナは先程までの作り笑顔ではなく、本当の笑顔を見せてくれた。




『時間があまりない。そろそろ、リタリー達を呼ぶから別れを済ませるのだぞ』


「•••、はい」



妾はマルティナの返事を聞くと、リタリー達を瞬時に出現させた。



「ま、マルティナ!!」

「こ、これは•••」

「マルティナさん!!」

「な、なぜ•••」



リタリー、コルネ、ミアナ、ミシェルは突然転移させられたことを気にする間もなく、目の前で息を引き取ろうとしているマルティナを見てその場に崩れ落ち、泣き始めた。




今、4人はマルティナと別れの挨拶をしている。




すると、マルティナと話していたことで落ち着いていた怒りが再び湧き上がった。




『ダリア、ここで死んでるやつらは誰だ?』

『はい、です。トワイライト王国の騎士と宰相、です』


『こいつらがマルティナを殺めたのだな?』

『はい、です』


『そうか•••。ダリア、リミット2を解除しろ』

『は、は、はい、です』




リリーナの器を借りているとはいえ、眩耀神がリミット1を解除した段階で、この世界を滅ぼす力を有する。


その状況でリミット2を解除したのは、眩耀神の怒りが頂点に達していることを表している。



完膚なきまでに敵対した相手を、マルティナを殺めた相手を滅ぼすために•••。




リミット2を解除した瞬間、リリーナ(眩耀神様)の体から先程までとは比にならない黒いオーラが放出され、大気全体が揺れ出した。



「り、リリーナ様•••」




マルティナとの別れを終えた4人が妾に声をかけるが、それに答えることなく、妾は瞬時に転移した。









★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



本作に登場するマルティナを主人公にした新作をアップしました。

これぞ異世界作品という内容になっていますので、楽しみにしていて下さい。



【作品名】

2つの勇者パーティーを追放された太っちょ勇者


〜脂肪蓄積•脂肪分解スキルで敵を倒していたのに誰も見ていなかった。追放は契約書を交わしたから問題ないけど、異世界には大きな問題が発生していた〜

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