第30話 ▪️▪️▪️▪️






▷▷▷▷マルティナ◁◁◁◁






私はトワイライト王国騎士団長のマルティナ。


正確には、元、騎士団長だ。



リリーナ様と再会することを希望したリタリー様の護衛を行うため、トワイライト王国を離れる際に辞表を置いて出てきた。


魔物が押し寄せている王都から離れるのは心苦しかったが、リタリー様を守ることが騎士団長の頃からの私の任務だった。


だから、後悔はしていない。



それに、リリーナ様には教わることが多く、日々成長できていることを感じている。





「マルティナ、今日はなんだか元気がないわね?」


私の横を歩くリタリー様が、顔を覗き込んでいる。



「いえ、そんなことは•••」

「もしや、ヴィクトル様との話し合いでお疲れですか?」


今度は、私達の後ろを歩いていたコルネが声を掛けてきた。



つい先程まで、私達は魔物の被害に遭い、住む場所を失ったトワイライト民の受け入れに関して、スーペリア王国のヴィクトル王と話をしていた。


今はその帰りだ。




「違いますよね、マルティナ?リリーナと一緒に狩に行けなかったからよね?」

「あ、いえ、その•••」

「ふふふ。マルティナは本当にリリーナが好きなのね」

「はい」



私は歩きながら、少々恥ずかしくなり下を向く。

リリーナ様の屋敷は、首都スーペリアから歩いて10分程の丘の上にある。



リリーナ様は戻っているだろうか?



自分でもどうして僅か1歳の赤子であるリリーナ様にここまで心を奪われているのか不思議だ。



圧倒的な強さ、王族でありながら自らを庶民と言い、一切の差別をしない心の美しさ。



もちろん、リリーナ様の良いところを挙げればキリがないのだが、何か、もっと大きな、私何かが本来話すことができない高貴な人物なのではないかと感じている。




ふ、ふふ

まさかね




「あら、急にニヤニヤして、もう少しでリリーナに会えるのが嬉しいの?」

「いや、これは•••」




な、何だ!!



その時、私の視界の先、数百メートルほどの位置に砂埃を巻き上げながらこちらに向かってくる軍勢を目にした。




「まずい!!リタリー様、コルネ、早く屋敷へ」



私は2人にそう言うと、リタリー様の手を引いて走り出した。


幸い屋敷の近くまで来ていたこともあり、直ぐに辿り着くことができた。


屋敷の中へ入ると、ミアナとミッシェルに声をかけ、リタリー様とコルネと一緒に地下室へ避難させる。



「マルティナ、あなたも早く」

「いいえ、私はリリーナ様が戻られるまで食い止めます」

「そんな、相手は得体が知れないんですよ」

「大丈夫です。一目見て、相手は分かりましたから」



私はそこまで話すと、地下室の扉を強引に閉め、上から絨毯を敷き、棚を乗せた。



これで簡単には見つからない。




ふぅー




私は大きく息を吐くと、家の外に出た。



家の外には、約200近い兵士と、中央にはリカルドの姿があった。



リカルド•••

トワイライト王国の宰相の1人




そう

200人近い兵士は、トワイライト王国の騎士、私の元部下達だ。




「これはこれは、マルティナ元騎士団長。お元気そうで何よりです」

「リカルド•••。何用でここに来た!?」

「な〜に、悪者を退治に来ただけですよ」

「何だと!!」



リカルドは醜い笑顔を浮かべると、騎士達を見渡した。



「やれやれ、1,000いた兵もここに来るまでに大分減りましたね」



私は鞘に収まっている剣に手をかける。



「それでも、これだけいれば十分でしょう。まずはそいつを殺りなさい」



先頭にいた騎士10人が剣を抜き、私との距離を縮める。


元私の部下であるが、ここにいるのは全て私を快く思っていないものばかりだ。



「女なくせに団長だなんて、気に入らなかったんだよ」

「これでやっとあんたを殺せる」



騎士達は一斉に私に向かって来た。

ただ、私の背後には屋敷があり、攻撃を仕掛けられるのは180度。

人数にすれば同時攻撃は3〜4人だ。



私は剣を抜くと、鎧で覆われていない首部分を素早く切り付け、最初の4人を始末し、次に襲いかかって来た6人も難なく倒した。




「くっ、騎士団長とは、こんなにも強いのか!?」



リカルドは先程までの笑みを消し、そう呟いた。




いや

どの国の騎士団長だって、こんなには強くない


少し前の私も、盗賊相手に3人がやっとだった。



短期間でこんなに強く成長できたのは、師であり、友であるリリーナ様のお陰だ。



リリーナ様が戻られるまで、私は絶対にここを守り切る。







あれから私は騎士達との戦いを続け、200近くいた騎士は残り1人となっていた。



「おい、バッツ。後はお前だけだぞ、大丈夫なんだろうな!?」



リカルドの慌てふためく声に、バッツは応えることなく、私に向かって歩き出した。




「はぁ、はぁ、はぁ•••」

「流石に限界か?」



バッツは剣を抜きながら言った。



限界など、100人を超えたあたりでとうに迎えていた。

今は立っているのもやっとの状況だ。



それにしても、最後が副騎士団長であったバッツとは•••。




バッツは私の手元と足元を見る。

両手両足とも疲れから震えているのを確認すると、躊躇うことなく私に剣を振るって来た。



キンッ



間一髪で防ぐも、バッツは手を緩めることなく剣を振るい続けてくる。



キンッ

キンッ

キンッ



ドガッ




私は一瞬の隙をつかれ、バッツの蹴りを腹部にもらい、屋敷の扉に吹き飛ばされた。



「これまでだ」

「ぐっ」


「安心しろ。直ぐにリタリーとリリーナも殺してあの世で会わせてやる」




その言葉に激しい怒りを覚えた私は、最後の力を振り絞り、右足で地面を強く蹴ると一気にバッツの前に入り込んだ。



「ば、バカな!!まだそんな力が•••」





私はバッツの首元に剣を刺した。



バッツは声を出すことなく、その場に倒れた。






そして




私も同時に倒れ込んだ•••





疲れからではない•••





倒れた私の腹部からは、大量の血が流れている





鎧を着ていなかった私は、バッツの最後の一撃を腹部に受けていた•••







あと1人•••

リカルドが•••






力の足りない弟子で、申し訳、あ、りま、せん•••






り、リリーナ様•••










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



本作に登場する人物を主人公にした新作を9月7日にアップ予定です。

これぞ異世界作品という内容になっていますので、楽しみにしていて下さい。



【作品名】

掛け持ちしていた2つの勇者パーティーを追放された太っちょ勇者


〜脂肪蓄積•脂肪分解スキルで敵を倒していたのに誰も見ていなかった。追放は今後お互いに関わらないと契約書を交わしてもらったからいいんだけど、異世界はそれどころじゃない問題が発生していた〜

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