第28話 まーてぃな




リタリーとマルティナが来てから2週間が経過した。

今住んでいる洋館のリフォームも終わり、盗賊やビックウルフを討伐した金で寝具や家具を買い揃え、皆、それぞれに個室を用意した。



我ながら配下に優しい妾じゃな。




そんな最近の妾は、もっぱらマルティナと一緒に魔物の討伐、というよりは狩をしに行くことが多くなっている。


今日も2人でペットのネコに乗り、家から1時間程の場所にある荒野に来ているのだ。




目当ては、キラーピッグ(ランクA)。




神のシンにもらったレシピによると、キラーピッグの肉があれば、トンカツという料理が作れるらしい。


前にウォード家で開催された飲み会では、神のシンにもらったミルフィーユカツを妾がご馳走してやったのだが、妾は一口も食べていないのだ。



だからこそ、トンカツ、可能ならミルフィーユカツを食べるため、ここに来たのだ。




「リリーナ様。あそこにキラーピッグが6匹います」



マルティナが辺りを警戒し、腰を落としながら言ってきた。

その横ではネコが大きな欠伸をしている。



『ならば、さっそく肉をいただくかの』

『現実:おにぃく、いたりゃく』



妾はそう言うと、50メートル程先にいるキラーピッグに向けて、その場で左足を軸に、回し蹴りを放つ。


普通に考えればこんな離れた場所で回し蹴りをしても何の意味もないが、そこは妾じゃ。



回し蹴りと同時に三日月型の光が放たれ、5匹のキラーピッグの首を刎ね、残りの1匹は右肩部分を切り裂いた。




なになに

妾が失したと思っているのか?


そんなことはあり得ない。



こうして狩に来た際は、最後の1匹に致命傷を与え、マルティナの修行に充てているのだ。


人間とは脆く、ランクBの魔物を倒すのも一苦労するらしい。


マルティナは強い方らしいのだが、それでも致命傷を与えたランクAのキラーピッグに食らいつくのがやっとだった。



フゴッ

フゴッ



「受けてみよ、このマルティナの剣技を!!」



カキンッ


ドガッ



「くっ、なんと頑丈なやつだ。しかも、まだ反撃するほどの力があるとは•••」




そんなキラーピッグとマルティナの対決を妾はネコの上で横になりながら見ていた。



『マルティナ。腰をもっと落とす』

『現実:まーてぃな、こしおとしゅ』


「はい、リリーナ様!!」



アドバイスもしてやるのだが、マルティナは強くなるのに1番必要な要素を持っていた。


それはずばり、素直さなのだ。



妾の言うことを素直に受け止め、日に日に強くなっていくマルティナのことを、妾は気に入っていた。



「せいやーーー!!」



ザンッ



腰を深く落としたマルティナの重い一閃によって、キラーピッグの頭は切り落とされた。



『見事じゃ』

『現実:しゅごい』



妾は肩で息をしながらこちらに戻ってくるマルティナに言葉をかけると、亜空間から冷えたオレンジジュースを取り出し、手渡した。


因みに、このオレンジジュースも最近レシピを見て作ってもらったのだが、最高に美味いのじゃ。



「ありがとうございます、リリーナ様」



マルティナはその場に座り、オレンジジュースを一気に飲み干した。






それからキラーピッグを亜空間に回収し、我が家にと戻った。



「お帰りなさい、リリーナ様、マルティナ」



家に帰ると、リタリーが出迎えてくれた。



「リタリー様。ただいま戻りました」

「ふふふ。良い顔をしていますね、マルティナ」

「はい。リリーナ様には学ぶことが多く、いつも実りがあります!!」


『えっへん、なのじゃ』

『現実:えっへん、なの』


「さすが、リリーナ様です」



妾の顔を愛おしそうに見つめ、リタリーが頭を撫でてくる。




バンッ


バンッ




玄関先で3人で話していると、キッチンの方から何かを打ち付けているような大きな音が聞こえてきた。



3人で顔を見合わせてからキッチンに向かうと、そこには顔や衣服を真っ白にしたミシェル、ミアナ、コルネの姿があった。



『一体、何をしているのじゃ?』

『現実:なにちてる?』


「あっ、リリーナ様。お帰りなさいませ」

「リリーナ様ーーー」


コルネとミアナが妾に近寄ってくる。



「リリーナ様。今、いただいたレシピでパンを作っていますので、お待ち下さいね」


ミシェルはそう言うと、白く丸まった塊をテーブルに打ちつけた。



詳しく聞くと、トンカツを作るにはパン粉なるものが必要らしく、今まさにその元となるパンを作っているということだった。




まだまだ時間がかかりそうなので、キラーピッグの解体をマルティナに任せ、妾はリタリーにプリンを食べさせてもらいながら待つことにした。


妾にプリンを食べさせているリタリーの表情はとても穏やかで、終始笑みを浮かべている。



プリンを食べ終えると、そのままリタリーの腕の中で眠りについてしまった。






次に起きると、既にトンカツは完成しており、妾は飛びつくようにテーブルの前に座った。

リタリーは何やら赤ちゃんは油物を食べては、などと言っていたが、妾は関係なくトンカツを塩につけ、口に運んだ。



サクッ


ジュワー




『うまぁーーーーーい!!』



なんじゃこれは。

美味すぎて何も言えんのだ。




妾が一口食べた後、皆が一斉に食べたが全員が妾同様叫んだ。




「うままままぁーーーー!!」



特に反応が大きかったのは、意外にもマルティナであった。




うむうむ

自身で狩った獲物は格別じゃろ




「リリーナ様ー、美味しいです、美味しいですよーー」




マルティナがトンカツをお代わりしたのは言うまでもない。










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



本作に登場する人物を主人公にした新作を9月7日にアップ予定です。

これぞ異世界作品という内容になっていますので、楽しみにしていて下さい。



【作品名】

掛け持ちしていた2つの勇者パーティーを追放された太っちょ勇者


〜脂肪蓄積•脂肪分解スキルで敵を倒していたのに誰も見ていなかった。追放は今後お互いに関わらないと契約書を交わしてもらったからいいんだけど、異世界はそれどころじゃない問題が発生していた〜

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