第27話 リタリーの決心





▷▷▷▷リタリー◁◁◁◁





リタリー•プリズム•トワイライト。

トワイライト王国の第三王妃で、リリーナの母親。




9ヶ月振りに最愛の娘に会える。

緊張と期待、不安が入り混じった複雑な心境の中、コルネとミアナに部屋に案内してもらう。


事前にリリーナが話せること、部屋の中でジャイアント•キャットを飼っていることを聞いた。



どちらも信じられないことだったけれど、今の私は、リリーナに会えれば他のことはどうでもいい。



部屋の中に入ると、9ヶ月前、最後に見た姿より遥かに成長しているリリーナがいた。


私と同じ薄い緑色の髪、青い瞳、紛れもなく最愛のリリーナ•••。


自然と涙が流れた。




私が感慨に慕っていると、リリーナが走り寄って来てくれた。

僅か1歳なのに、走ることができるなんて、この子はどれだけの努力をしたのだろうか。




私はこちらに来るリリーナに手を伸ばす。





すっ





リリーナは私を見ることなく通り過ぎた。




私の目からは、先程とは違う、悲しみの涙が溢れ出た。




当然だわ。

生後3ヶ月で離れ離れになった母親のことなんて、憶えてるはずないじゃない。



私の後ろで精霊達と話しているリリーナに悟られないよう、声を出さずに泣いた。




「リタリー様•••」

「いいのです、コルネ。当然の報いです」




私はコルネとミアナ、マルティナと一緒に別室に移動した。



そこで聞いた話は、驚愕のものだった。




リリーナは多くの魔物や、指名手配の盗賊を1人で倒し、民を守っていること。

この大きな屋敷も、リリーナが自らの手で手に入れたものであること。



1歳という年齢を置いておけば、弱きを助け、自立をしている娘が誇らしい。

ただ、母親がいなくてもこんなに素晴らしい子に育っていることに、多少の悲しみを感じた。




私はコルネ達と話し、あることを決意した。





「私は、自らリリーナの母親と名乗る資格はありせん。ですが、リリーナの傍から離れることは二度としたくないのです」



コルネとミアナ、マルティナは静かに私の話を聞いてくれている。



「ですから、リリーナ•••、いいえ。今、私はただの平民ですから、リリーナ様にこの屋敷に置いていただけるようお願いしてみます」

「リタリー様•••」



3人は何かを言いかけ、ぐっと飲み込んでくれているようだった。




話を終えた私達は、リリーナのいる部屋に戻った。










▷▷▷▷眩耀神(リリーナ)◁◁◁◁






部屋に戻ってきた女2人は、先ほどよりもどこか暗い表情をしている。

ミアナとコルネも同じように、気まずそうにしていた。




恐らく

プリンじゃな



プリンが欲しいのじゃろう





すると女2人が妾の前に歩み寄り、両膝を床に着け、ソファーに座っている妾と目線を合わせてきた。



「リリーナ様。私は、リタリーと申します。訳あってトワイライト王国からこの地にやって来ました。どうか、私をこの家に置いてはいただけないでしょうか?」

「こちらにいるリタリー様は、身分も何もかも捨て、リリーナ様に会いにきたのです」



兵士のような格好をした女が、リタリーの後に続けて言った。



『ダリア、身分を捨てた•••、ということは庶民か?』

『そう、です。ダリアもびっくり、です』


《よく分かりませんが、自ら母親と名乗らないので、ダリアも黙っとく、です》




妾はソファーから降りると、リタリーに近づき、手に触れた。



『庶民なら、妾と同じじゃ。ここに住むがいい』

《現実:ちょみん、いっちょ。いっちょにしゅむ》



リタリーは妾を抱き締めると、声を上げて泣き始めた。


泣きながら、なぜか「ごめんね」と繰り返し言っている。



妾以外のみんなも泣いていた。




しばらくしてリタリーが落ち着いてくると、妾はミシェルに話しかけた。



『ミシェル、プリンを持ってきてくれ』

《現実:みちぇる、ぷにゅん》


「はい、リリーナ様。リタリー様に食べていただきたいのですね」



ミシェルはハンカチで涙を拭いながらそう言うと、キッチンからプリンを2つ持ってきた。



「このプリンは、リリーナ様が考案された物なんですよ」


ミシェルはリタリーと兵士にプリンを渡す。



『腹が空いているのだろう。プリンを食べるがいい』

《現実:おなかちゅいてりゅ。ぷにゅん、たべりゅ》


「あ、ありがとう•••」



リタリーは泣きながらプリンを受け取ると、スプーンで掬い、口に運んだ。




「これを、リリーナが•••。美味しい•••、本当に美味しい•••」




余程プリンが美味しかったのか、リタリーの目から再び涙が溢れ出したのだった。





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