第26話 ぷにゅん
妾は今、街外れの廃洋館あらため、マイホームにいる。
洋館自体はリフォーム中なのだが、殆ど傷んでおらず手直しなしに使えそうな部屋があったため、今はここで寝泊まりしているのだ。
トイレやお風呂、キッチンは妾が神力で直したし、生活するのに不自由はない。
自分で直せることに気づいた妾は、内装を自らの手で修繕することにし、節約のために外観だけリフォームをお願いした。
本当は全て自分で修繕できるのだが、リフォーム業者にも生活があるらしいので、外観だけはお願いすることにしたのだ。
その日の作業を終えて、新たに購入したソファーという椅子に座る。
ホワホワとして何とも気持ちよく、そのままウトウトしてしまう。
「あらあら、リリーナ様はお眠ですか?今日もいっぱい頑張りましたものね」
ミアナが妾の隣に座り、優しく頭を撫でてくる。
「リリーナ様はいますか?」
『ミシェルか?』
《現実:みちぇる?》
妾は眠い目を抉りながら、部屋に入ってきたミシェルを見る。
屋敷内のキッチンが使えるようになったため、ミシェルはシェアハウスではなく、ここで一緒に生活をしている。
ミシェルは、透明な小さな器に入った何やら肌色に近い食べ物を持っていた。
「リリーナ様。ついに完成しました。プリンです」
『プリン!!』
《現実:ぷにゅん》
妾はミシェルが差し出してくれたプリンが入った器を両手で受け取った。
小さな妾の手では、片手でプリンを持つことができない。
これでは食べれないではないか。
「はい、リリーナ様。あ〜ん」
妾の悩みが分かったのか、ミシェルがスプーンでプリンを掬うと、口元まで運んでくれた。
《現実:あ〜ん》
妾の口にプリンが入った瞬間、上品な甘味が口いっぱい広がった。
これだ
妾が求めていたのはこれなのだ
『うまい、うまいのー』
《現実:うま、うま》
あまりの美味しさに、妾は休む間も無く一気にプリンを食べ終えた。
妾の後には、ミアナとコルネもプリンを食べ、蕩けそうな顔をしている。
にゃ〜
すると、ペットとなったジャイアント•キャットが妾に擦り寄ってくる。
ジャイアント•キャットは3メートル近い大きさをしているが、幸い部屋が広いため、室内飼いにした。
『ネコ、お前も欲しいのか?』
《現実:ねこ、ほちい?》
そうそう
ジャイアント•キャットの名前はネコにしたのだ。
「普通の猫ならダメですが、ジャイアント•キャットは何でも食べますからプリンも大丈夫だと思いますよ」
コルネがそう言うと、ミシェルはもう1つプリンを用意してくれた。
妾ではうまくあげることができないため、ミシェルにお願いして、ネコの大きな口にプリンを流し込んでもらった。
ミャー
ミャー
プリンを食べたネコは、床の上で体を回転させ、体中で喜びを表現していた。
〈フーーーーーー〉
皆でプリンを食べて和んでいると、妖精の反応を感じた。
『ダリア、妖精が来たようだの?』
『はい、です。人間2人を連れています』
『ほう』
しばらくすると、屋敷の外扉がノックされ、コルネが対応しに部屋から出て行った。
「リタリー様、マルティナ様!!」
コルネの慌てた声が部屋の中まで聞こえてきた。
それを聞いたミアナは、妾をミシェルに託し、外扉に向かって走って行った。
5分程してから、コルネとミアナは2人の見知らぬ女を連れて部屋に戻ってきた。
妾は2人の女の横を構うことなく通り抜けると、一緒に入ってきた妖精に念話で話しかける。
『妖精達よ、ご苦労であったな』
『はい。わ〜、本物の悪神様だー、水』
『これはすごいことだぜ、火』
『持ち場を離れてよかったのか?』
『はい、悪神様はこちらのスーペリア王国にいますし、トワイライト王国はもういいのです、緑』
『そうか。魔物はどうしてるのじゃ?』
『ちゃんと、精霊を祀ってくれてる村には近寄らないように言ってきたのです、風』
『今は精霊を蔑ろにしていた王都近郊に魔物が集まっています、土』
『そうであったか。お前達もこの国でゆっくり過ごすがいいぞ。それと、この国の妖精とは仲良くするようにな』
『『はい、緑水火風土!!』』
妖精達の意志でその国を見放したのなら、妾から何も言うことはない。
精霊を信じ、しっかりと祀りあげてこそ、その加護がえられるのだから。
妖精達と話していると、妾のことを2人の女性がじっと見つめてくるのに気づいた。
その中でも、薄い緑色の髪をした女は、涙を流しながら妾を見ている。
「リタリー様•••」
「いいのです、コルネ。当然の報いです」
何やらコルネと話しているが、まあ、妾には関係ないことだろう。
それから2人は別の部屋に移動し、1時間程コルネとミアナと話してからまたこの部屋に戻ってきた。
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