第25話 急ぐ妖精






▷▷▷▷リタリー◁◁◁◁





リタリー•プリズム•トワイライト。

トワイライト王国の第三王妃で、リリーナの母親。



私とマルティナは、事前の打ち合わせ通り、結婚披露宴が行われる前夜に城を抜け出した。


深夜であっても城内には見張りの兵士がいたが、騎士団長のマルティナが一緒だったため、難なく城を抜けた。


街の外へはマルティナが用意してくれていた抜け道を利用した。



私は王妃という立場であったため、城外へ出る事は公務意外ではなかった。

大きな城という籠の中に飼われている、そう何度も思っていましたが、こんなにも簡単に外への道は開かれていたのですね。




しかし、いくら街の外へ出られたとしても、今は王都近郊に魔物が大量に発生している。


悠長にしている時間はない。



私とマルティナは魔物に注意しながら進んだ。


目的地はもちろん、リリーナがいるスーペリア王国。

少し前にスーペリア王国に行くと親書が届き、それを簡単に許したオーエンのことを思い出してしまう。



ふう



無意識に溜息を吐くと、私の前で馬の手綱を引くマルティナが心配そうにこちらを向いた。



「大丈夫ですか?リタリー様」

「大丈夫です。少し嫌なことを思い出しましてね」

「嫌なことも、スーペリアに辿り着けばすべて忘れられますよ」

「そうね。その通りだわ」




それから夜明けまで休みなく馬を走らせた。

流石に馬の体力が限界を迎えたため、街道を外れた林の中で休憩をすることにした。



ここまでの道中、魔物の姿は何度も確認したが、気の所為か、私を見ると踵を返していった。



「王都では多くの兵士が魔物の犠牲になっていました。私も何度、命を失う危険を感じたことか分かりません•••。だからこそ、魔物と1度も戦わずにここまで来れたことが、不思議でならないのです」



休憩中に固いパンを強引に千切り、口に運びながらマルティナは言った。



「私も不思議に感じていました。魔物が皆、私から逃げていくような、そんな感覚を覚えました」

「神の加護を持たれたリリーナ様の奇跡でしょうか?」

「そうかもしれませんね」



私にとって、『神の加護』は伝承に尾鰭が付いたもので、それ程の加護ではないと思っていた。

この加護によって、リリーナが幸せになればそれでいい、それ位の気持ちでいた。



ただ、リリーナがスーペリア王国に旅立ってからトワイライト王国では、農作物が枯れ、水も濁り、魔物の氾濫が始まった。



これは偶然ではないと、私は感じていた。





ガサッ





その時、微かに草の上を歩く足跡が聞こえた。



「リリーナ様の奇跡は、魔物には効果があっても、人には効果がないようですね」



マルティナは剣を抜き、戦闘態勢に入る。




「ぐへへへ。こいつは上玉だぜ。しかも2人」

「高く売れそうだ。もちろん、遊んでからな」

「盗賊団が壊滅しちまって散々だったが、ようやく運が巡ってきたぜ」



盗賊と思われる男が3人、剣とナイフ、弓を構えて近づいてくる。


首都スーペリアまであと少しの所まで来ていたというのに•••。



焦る私とは違い、マルティナは冷静だった。

盗賊達が女2人と油断している隙に、弓を持った男に襲いかかった。



女性として、トワイライト王国の騎士団長まで実力で昇り詰めた彼女の動きは速く、そして洗練されていた。


無駄の一切ない太刀筋で男の首を刎ねると、残りの2人の男が怒気を含めた顔で剣とナイフを構えてマルティナに襲いかかる。



マルティナはそれを剣で弾きながら、攻撃を

防ぐが、前後から襲ってくる男達に押され始めた。


相手の男は2人共190センチ近い大柄の男で、マルティナでなければここまで戦えていない。



マルティナが前から攻めてくる男の首を刎ねたが、長身の男の首を無理な大勢で刎ねたことでバランスを崩したく。


後ろにいた男が醜い顔で舌舐めずりをすると、剣をマルティナの首目掛けて振り下ろした。




無力な自分が情けない•••




「マルティナ!!」




私がそう叫んだ瞬間、男の首が真上に吹き飛んだ。



私は視線を上空に向けると、そこにはフワフワと浮かぶ、可愛らしい色とりどりの、何かが浮かんでいた。









▷▷▷▷トワイライトの妖精◁◁◁◁






『この人間、微かに悪神様の匂いがする、緑』


『確かにする、間違いないぜ、火』


『この人間、一緒に来てもらう、水』


『それはいい、風』


『急ぐ、土』





トワイライトの妖精達は、悪神様の怒りを感じて、直ぐにスーペリア王国に来ていた。


ただ、会いにいくのが怖くて、どうしていいか分からず、この辺りを彷徨っていたのだ。




『この人間、怪我してる、緑』


『死なれたら困るぜ、火』


『早く治す、水』


『はいはい、風』



風の妖精が辺りに心地良い風を吹かせると、マルティナの周りを風が覆い、瞬時に怪我が治った。



『治った、早く行く、土』




妖精達はリタリーとマルティナ、近くにいた馬を浮かび上がらせると、悪神様の元へ移動を開始した。




「リタリー様、私、浮いているのですが!?」

「どうやら、妖精様が助けてくれたみたいです」

「よ、妖精??一体どこにいるのですか!?」

「私にもはっきりとは見えないのですが、今は私達の上にいます」



マルティナは上を見るが、首を傾げている。

妖精達の姿はマルティナには見えなかった。





悪神である眩耀神が器として選んだリリーナの母親。

そのことが妖精達を認識でき、妖精達が助けてくれた理由。





『この人間、すごい見てくる、緑』


『よくしゃべりやがる、火』


『とにかく急ぐ、水』


『はいはい、風』


『飛ばすの、土』





妖精達は速度を上げた。






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