第24話 崩壊の始まり
▷▷▷▷オーエン◁◁◁◁
トワイライト王国の王、オーエン•プリズム•トワイライト。
今日は私と第四王妃、第五王妃の結婚式。
しかし、城内は朝からバタついている。
折角の祝いの席だというのに、リタリーめ、勝手な行動を起こしよって。
そう、第三王妃のリタリーが、書き置きとティアラを残し、いなくなったのだ。
まあ、世間知らずのお嬢様のことだ、その内頭を下げて戻ってくるだろう。
兵士にも城内を探させただけで大規模な捜索は行っていない。
リタリーのことは、いずれ戻ってくるから今は忘れてもいい。
しかし、今、目の前に広がっている披露宴会場の有様はなんとかしなければならい。
「おい、ムーラン。これは一体どうなっているのだ。なぜ、料理がこれだけしかないのだ!?」
私は宰相のムーランを呼ぶと、少し低い声で問う。
「国王様、申し訳ございません。ここ最近、農作物が枯れ、水も濁り、市場に食べ物が出回らないのでございます」
「しかし、農民から税の代わりに徴収している麦や野菜があるのだろう?」
「いいえ。農作物が枯れている状況ですので、農民からの年貢も滞っております」
どういうことなんだ?
少し前まで市場にも食べ物が溢れ、城や街にも綺麗な水が流れていたではないか•••。
もしや、農民が嘘の報告をしているのでは!?
「ムーラン。農民が嘘の報告をしているのではあるまいな?」
「それはあり得ません。私自ら現地に赴き確認していますし、農民は皆、リリーナ様に食べ物を納めることができず、申し訳ないと、謝罪をしておりました」
リリーナだと?
あの呪い子の?
リリーナがウォード家に転居した頃から、急に民衆がリリーナを崇め始めた。
一体、何があったと言うんだ?
「それにしてもだ、他の街や国から食べ物を輸入するこはできただろう!?」
「国王様。今、トワイライト王国全域で魔物が増えており、特に王都近郊はその増え方が顕著で輸入も停止状態です」
そこまで話したムーランは、何かを言うべきが逡巡しているような態度をした。
「ムーラン。何かあるなら遠慮せずに申してみよ」
「では、忌憚なく申します。今、話したことは、全て報告書にまとめ、1週間以上前に提出してございます。私はてっきり、国王様は対策を考えているものとばかり•••」
ムーランの言葉に私は息を呑んだ。
確かに、そういった報告があった気がした。
いや、確かにあった。
しかも私は、
第二王妃のケプナーが『神の加護』持ちの子を産んだことと、今日の結婚話で舞い上がり、後回しにしていた。
「すまない。今一度、魔物による被害を教えてくれ」
「畏まりました。被害が最も酷いのはここ、首都トワイライトです。他の街や村は、冒険者達によって何とか持ち堪えています」
「ならば、王都も冒険者に依頼を出せば良いだろう。何なら兵士を使っても」
ムーランとは長い付き合いだ。
そんな彼が今、私の言葉が終わると同時に鋭い目で睨み、怒気を含んだ声で反論してきたのだ。
「無理でございます。他の街や村に現れている魔物は最高Cランクですが、王都に溢れ出している魔物は全てBランク以上で、A+までの魔物を確認しています」
「な、何だと!?」
ムーランは言葉遣いこそ丁寧だが、顔は怒りを堪えているのが分かるほど真っ赤になっていた。
そんなムーランが、更に信じられない言葉を続けた。
「王都に在中する兵士2万人の内、既に3,000人が亡くなっております。3,000人の死によって、民衆まで被害が出ずに済んでいるのです」
「3,000人•••」
「国王様にも出兵の王印はいただいていますが!?」
私は浮かれすぎていたのだろうか•••。
第二王妃のケプナーが生んだ『神の加護』を持つネイサンに会いたくて、執務に手を抜いていたのかもしれない•••。
私の真っ青になった顔を見て、ムーランは溜め息を吐いた。
「兵士は3,000人犠牲になっていますが、魔物は殆ど討伐できていません。この状況でなぜ王都の中まで被害がないのか、お分かりになりますね?」
「なっ!?討伐できていないだと•••」
討伐できていないのに民衆に被害がでていない。
つまり、3,000人の兵士が魔物の餌になっているのだ。
何と言うことだ•••
「こんな中で結婚式を開くのには、何かお考えがあるのかと思ったのですが•••、検討違いでしたね•••」
「ムーラン•••」
ムーランは私に背を向けて歩き出した。
宴会場の扉を出る前に、ムーランがこちらを向いて最後に言った。
「王都近郊は魔物だらけですので、今日の式の参加者は殆ど欠席です。来るのは、王都内にいる貴族だけです」
ムーランはそう言って、宴会場を出て行った。
その背中は哀愁に満ちており、直感的にこれがムーランとのお別れなのだと悟った。
その日行われた披露宴は、参加者は疎らで、料理も品数が少なく、酒も1人数杯分しかなく、散々な式となった。
あまりの酷さに、花嫁の2人は高砂の席で人目を憚らず泣いたのだった。
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