第22話 あーちのぺっと




【内容:ビックウルフ討伐】

【場所:王都スーペリア近郊】

【詳細:数日前から廃洋館に棲みつく】





ヴィクトルの粋な計らいに気分を良くした妾は、早速ビックウルフの討伐に来ている。

問題の廃洋館は、先程までいた王都スーペリアから、僅か10分程歩いた丘の上にあった。


丘の上からは、王都を一望でき、大きなシェアハウスも確認できた。

辺りは緑一面で、心地良い風が吹き、妾の美しい髪が揺れている。


ヴィクトルは、妾の願いである討伐と家の入手を同時に叶えられる依頼を用意してくれたらしい。



「り、リリーナ様。やはりこれは何かの間違いでございます。きっと、行き違いが•••」

「リリーナ様。か、帰りましょう•••。あっ、リリーナ様、いつからこんなに力が強くなったんですか!?」


王都を出てからずっとこの調子のコルネとミアナ。

妾は手を繋いでいるミアナを力強く引っ張り、強引に歩みを進める。



『ただの狼で何を怯えているのだ?』

《現実:たりゃのおおかみ、おびえなぃ》


「しかし、リリーナ様。ビックウルフは討伐ランクBの魔物で、騎士団を集めて何とか討伐できるのですよ」



コルネは不安気にビックウルフの説明をしてくる。

額からは大粒の汗が出ていた。





ウゥゥーーーーーーー!!





廃洋館まで後50メートル程になった時、ビックウルフが次々と中から出てきた。

ビックウルフは名前の通り普通の狼より大きく、3メートル以上の体躯をしており、口からは鋭利な牙が2本生えていた。



「あわわわ。り、リリーナ様、す、すごい数でぇしゅ」

「こ、これは•••」


ミアナとコルネは大量のビックウルフを前に尻餅をつく。



『100匹程か。造作もないわ』

《現実:ひゃぴき、じょうちゃない》




ウゥゥーーーーーーー!!

ガウ、ガウ!!




妾達が後退しないことに痺れを切らしたビックウルフは、100匹同時に襲い掛かってきた。


妾は両手を前に出すと、以前ダリアに教えもらった親指と人差し指をハート型にする「キュンでーす」の形にした。




【キュンでーす】

《現実:きゅん、なの》




妾の両手からハート型をした切れ味鋭い、鎌のような攻撃が高速に放たれ、ビックウルフの首を落としていく。

かわいい言葉とは正反対のその攻撃に、ものの1分で100匹のビックウルフを殲滅した。



「な、何という攻撃•••」

「しかも、無駄にかわいいです」



尻餅をついたままの2人は、目の前で起きた光景を見て、そう呟いていた。



『中に入るぞよ。あと、1匹おる』

《現実:なゃかはいるゅ。あといっぴき》



妾を先頭にして廃洋館に向かう。

廃洋館の扉をコルネに開けてもらうと、中からムッとする空気が外に吐き出され、獣の匂いが鼻をついた。


中には割れた調度品が床に散らばり、天井や階段部分には蜘蛛の巣が貼られている。


廃洋館は外から見ても大きかったが、中に入ると広々とした空間に天井も高く、まるでウォード家のような貴族の屋敷であった。



『悪くないのー』

《現実:わりゅくにゃい》



妾はこの屋敷を手に入れるため、迷うことなく一直線に3階のある部屋に向かう。

そこにビックウルフとは違う、何かしらの反応が1体分あったからだ。


部屋の前に来ると、再度、コルネに扉を開けてもらう。



すると、部屋の中には可愛らしい猫が1匹いた。



「じゃ、ジャイアント•キャット•••」

「討伐対象、え、え、A+ランクです•••」



コルネとミアナはまた尻餅をついた。

妾から見ると、ただの可愛らしい猫にしか見えないのだがのー。



『ダリア、どう見ても可愛いい猫だよな?』

『はい、です。もう、ダリア、メロメロです。猫ちゃんは元々鋭い感覚を持っている、です。きっと、眩耀神様の力を知れば、ペットにできる、です』



ペットか、悪くないのー。

この猫ならば、妾を乗せて移動もできそうだ。




シャァーーーーー!!




ジャイアント•キャットは可愛く威嚇をしてきた。


撫でてやろうと妾が1歩前に出た瞬間だった。





コロン



にゃ〜お





ジャイアント•キャットはコロンとその場に仰向けになり、妾にお腹を見せてきた。



『かわいいやつじゃのー』

《現実:かあいい》


妾はジャイアント•キャットのお腹を優しく撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らして喜んだ。



「な、なんと•••」

「しゅ、しゅごい」



お尻が埃まみれのコルネとミアナは、恐る恐るジャイアント•キャットに近づくと、妾と同じように撫でた。




ゴロゴロ



「「かわいい•••」」





無事討伐を終えた妾達は、ビックウルフの死体を亜空間に回収してから、ジャイアント•キャットに乗って王都まで移動することにした。


ジャイアント•キャットはビックウルフよりも大きな体躯で、妾とミアナとコルネを乗せて颯爽と草原を走る。




王都の入口が見えてきた所で、妾は異変に気づく。



祭りの兵士達が大勢門の前に並び、先頭にはヴィクトルがいたのだ。

ヴィクトルは真面目な顔をして祭りの兵士達に指示を出している。


もしや、今日は祭りなのか?



『ヴィクトルーー』

《現実:ゔぃるとるー》



妾の声を聞いたヴィクトルは振り返ると、整った顔立ちが歪み、金色の髪が逆立った。


妾は関係なくジャイアント•キャットでそのままヴィクトルの近づくと、祭りの兵士達は後退りして、前列と後列の隊が交差して綺麗に全員が後ろに倒れた。



「り、リリーナ様?そのジャイアント•キャットは?」


『妾のペットにしたのじゃ』

《現実:あーちのぺっと》


ヴィクトルは顎が外れそうなほど、口を大きく開けた。



『そうじゃ、依頼の件、片付けたぞ』

《現実:いりゃい、おわっちゃ》



妾はそう言ってから、亜空間からビックウルフを100体取り出し、その場に積み上げた。



「こ、これは、今から討伐しようとしていたビックウルフ•••」




ガゴッ




そこら辺に落ちていた小枝でヴィクトルの口をツンツンしてみるが、開いた口が閉じない。

どうやら、ヴィクトルの顎が外れたようだ。




外れた顎を治してやると、なぜかヴィクトルに謝罪されたが、ビックウルフ討伐達成と言うことで、その日は街をあげての祭りになったのだった。





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