第20話 うしろ から まえ
『ハーッハッハッ!!どうじゃ妾の力は!!』
盗賊を一掃した妾は、昂った気分のまま走ってモウモウの討伐に行こうとする。
とととと(走っている音)
くっ
相変わらずこの器では上手くいかんわい
気分は高速移動であったが、実際は10メートル程しか進んでおらず、トボトボと馬車まで歩いて戻った。
とちとち(歩いてる音)
『まあ、ヴィクトルのやつも、金がないのに無理してこの馬車を用意したことだしな、ちゃんと有効活用してやらねばの』
そんなことを思いながら馬車まで戻ると、そこには妾があえて生かしておいた盗賊2人が喚いているとこだった。
祭りの兵士に拘束された盗賊2人は、どうやらミシェルとミアナに何かを言っているようだ。
「おい!!俺だよ、バッドンだよ。覚えてるんだろ!!」
ミシェルとミアナは蔑んだ目でバッドンを見ている。
「助けてくれよ、幼馴染だろ!!俺だけでも逃してくれよ!!」
「バッドン、あんた何言ってるの!?」
バッドンの言葉に、もう一人の盗賊の女が怒りの形相でバッドンに掴みかかろうとするが、拘束されているためその場に倒れ込んだ。
「お前は黙ってろ!!そ、そうだ、ミシェル。今度こそ結婚してやるから、だから解放してくれ」
バッドンがそう言うと、ミシェルはゆっくりと歩き出し、拘束され、両膝を地面に着いているバッドンの前に来て、笑みを浮かべた。
「だ、だよな。お前は俺のこと愛してるんだも•••」
バチンッ!!
一瞬で笑みから憤怒の表情に変わったミシェルが、バッドンを平手打ちした。
「な、何しやがるこの女(あま)!!くそ、殺して•••」
ドゴンッ!!
バッドンの右頬に妾は飛び蹴りを喰らわした。
ミシェルの平手打ちとは比にならない強力な蹴りを受けたバッドンはそのまま吹っ飛んで気を失うと、下半身から湯気が上がる。
『お漏らしとは情けないのー』
《現実:おもらち、なーないの》
妾の言葉に、祭りの騎士達は顔に手を当てて、必死に笑いを堪えていた。
『ミシェル、大丈夫であったか?』
《現実:みちぇる、だいじょぶ?》
「はい、リリーナ様!!」
ミシェルはそう言いながら、妾を強く抱きしめて来た。
妾が盗賊に絡まれているところを助けてやったのが余程嬉しかったのだな。
「もう、大丈夫です。リリーナ様のお陰で、私は過去(うしろ)ではなく、未来(まえ)を向いて歩けます」
『それは何よりじゃ』
《現実:なりゃ、よかっちゃ》
出発前に泣いていたのが嘘のように満面の笑みを浮かべ、どこか誇らしげに背筋を張り、前を向いていた。
ミシェルの後には、ミアナが腰に手を回し、抱きついていた。
その少し後ろには、ハンカチで涙を拭うコルネの姿もあった。
それから盗賊達を追加で呼んだらしい、祭りの兵士に引き渡し、モウモウの生息地に向かった。
30分程馬車が進んむと、開けた草原に辿り着き、モウモウらしい魔物10体がいた。
その内、5体は馬車に繋がれている馬を獲物と認識したのか、こちらに向かって一斉に走り出して来た。
モウモウを見た馬は前脚を大きく地面に蹴り、胴体部分を宙に浮かせ、身を捩りながら逃げようとする。
揺れる馬車から妾は外に出ると、馬の目をじっと見つめ、『大丈夫じゃ』と一言呟いた。
馬は刹那に落ち着きを取り戻し、地面に生えている草を食べ始める。
「な、なんと•••」
「すごい•••」
二人の御者がその状況に思わず呟いた。
『さて、次はあやつじゃな』
【ゴッド•スピア】
妾が唱えると、右手の5本の指から雷を纏った槍が放たれ、そのままモウモウの頭を貫通した。
『残りの5体は生捕りにして、たっぷりお乳を出していただくぞえ』
【弱者よ、妾に従え】
モウモウは体をビクッとさせると、血走った目が綺麗な紺碧な色をした目に変わり、嬉しそうに妾に走り寄って来た。
『よしよし。これから頼むぞ』
モー
モー
妾は仲間にしたモウモウ5体と、討伐した5体を亜空間に入れた。
『終わったの。では帰るぞー』
妾の掛け声に反応するものはなく、祭りの兵士はその場にへたり込み、ミアナとコルネ、ミシェルは馬車の外で何度も目を擦っていた。
祭りの兵士とミアナ達が正気を取り戻してから妾達はヴィクトルの待つシェアハウスに戻った。
戻ると直ぐにシェアハウスの庭にモウモウを出し、お乳を搾り、ミシェルに渡した。
『これで材料は揃ったかの?』
《現実:じゃいりょ、ちょろっちゃ?》
「はい。砂糖は希少なものですが、ここにはたくさんあるみたいなので、これでご所望の料理が作れそうです」
『おおおー。楽しみじゃー』
《現実:おぉぉ、たのちみ》
ヴィクトルにシェアハウスの調理場を借りると、ミシェルは料理を作り始めた。
ただ、少し時間がかかると言うことで、ちょうどヴィクトルに話があると言われていた妾達は執務室に向かった。
執務室に入ると、ヴィクトルがソファーに座り、先程も居た男達が少し離れた所に立っていた。
ヴィクトルに妾達もソファーに座るよう促されたため、向かい合うように座る。
「実は、モウモウ討伐の道中に襲って来た盗賊達には懸賞金がかけられていてね、それを渡そうと思うんだ」
『懸賞金とは、金か!?』
《現実:けちょきん、おかねぇ?』
「そうです、お金です。リリーナ様は今、個人カードの類が手元にないと思いますので、現金で渡しますね」
ヴィクトルが立っていた男に指示を出すと、男は小さな麻袋をテーブルの上に置いた。
妾が中身を覗き込むと、そこには金貨がたくさん入っていた。
「500万G(ゴールド)です。金貨50枚分です」
『遠慮なくいただくぞ』
《現実:えんりょないの、いたーきます》
金の価値は今一分からなかったが、配下を食わせて行くためには必要であることは分かっている。
有り難くいただくと、ポイっと亜空間に放り込む。
金の入った袋が亜空間に消えると皆の目が大きく見開いたが、直ぐに何かを諦めたような顔に変わった。
「それでだ。お金とは別に、今回の討伐退治のお礼をしたいのだが•••」
『礼とは褒美じゃろ?もう、ミシェルをいただいからのー』
《現実:ほうびぃ、みちぇる、もりゃった》
「そう言うと思ったよ•••。他に何かないかな??」
〈フーーーーーー〉
ヴィクトルと話していた時、微かな精霊の風を感じた。
『おいダリア、精霊が来ているのか?』
『はい、です。トワイライト王国からスーペリア王国に入った所で、なぜか右往左往してる、です』
『トワイライト王国の精霊がこちらに来たと言うことは•••、そう言うことじゃな』
妾は視線をヴィクトルに合わせると、希望する褒美を伝えた。
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