第19話 とらうまのじゃみゃ




「リリーナ様。流石にそれは危のうございます?爺は心配で倒れてしまいますぞ」

「コルネの言う通りだ。いくらリリーナ様であっても討伐に行かせる訳には•••」



コルネとヴィクトルは、少し顔を青くし、何とか妾を説得できないかと話している。



『なんじゃ、たかが牛ごときで』

『眩耀神様。この世界では、ランクAを討伐できる人はいない、です』

『何とも情けないのー』




妾の横では、まだミシェルが床に膝をつき、泣いていた。

こやつは、モウモウのミルクがないがために、妾に捧げる料理が作れず泣いているのだ。


配下が苦しんでいるというのに、何もしない訳にはいかないのー。


妾はソファーの前に置かれているテーブルの上に飛び乗ると、そこで仁王立ちをした。



『モウモウは絶対に手に入れる!!』

《現実:もうもう、じぇっちゃいてにいれるゅ》


ミシェル以外のこの部屋にいる全員が妾を見て固まる。



「コルネ、モウモウの生息地に行く道中、盗賊の残党がいる可能性がある。リリーナ様の力はこの目で見たが、やはり危険だと思う」

「私も同感です。ただ•••」



コルネはミシェルを見つめる妾を凝視し、しばらくの間、目を閉じた。

そして、目を開いた時、コルネは優しい笑みを浮かべて言った。



「ただ、今のリリーナ様はミシェル様のために動こうとしています。その理由は分かりかねますが、ミシェル様を助けるために今回の討伐が必要なのでしょう」


「ふふふ。普通なら、僅か1歳の赤子を危険な場所には送らないが•••。友を想うリリーナ様が行くというなら、全力でサポートしなければならないか」



その後、ヴィクトルは隣に立っていた男達に指示を出し、モウモウの生息地に向かう準備を進めた。


ヴィクトルがどこで金を稼いでいるか分からんが、妾と同じ庶民のくせに、ものの1時間で馬車と祭りの兵士を30人用意して見せた。



今回、モウモウの生息地に向かうのは、妾とコルネとミアナ、そしてミシェル。

ヴィクトルはこうむ??とかなんとか、用事があるとかで不参加だ。


ミシェルには留守を任せようとしたが、自ら一緒に行くことを希望してきた。


ミシェルはどこか不安そうな顔をしているが、妾がいれば問題ないだろう。






馬車の準備ができると直ぐに出発した。

モウモウの生息地までは馬車で1時間、今日中にはトロ旨が食べれるやもしれん。



そんな上機嫌だった妾だが、馬車が30分程進んだ所で敵意を持ったものの反応があった。



『ダリア、また盗賊かの?』

『はい、です。30人、です』



妾はコルネに馬車を止めるよう言うと、ミアナに扉を開けてもらい、外に出た。


「リリーナ様。どうしたのですか?」

『ミアナ、中に入っておれ』

《現実:みあな、にゃかにはいりゅ》


「では、リリーナ様も中に•••」



言葉の最後の方は震え、ミアナの顔は真っ青になる。

なぜなら、100メートル程前から盗賊達がこちらに向かって来てるからだ。

祭りの兵士達にも一気に緊張が走り、武器を構え始める。



「どうしたんですか?」


物々しい雰囲気を感じたのか、ミシェルは馬車の扉部分から顔を出した。

ミアナ同様、ミシェルも狼狽えてその場に腰を抜かすが、目線は一点を捉えていた。



「み、ミアナ、あ、あれ」

「ミシェル?」


ミアナはミシェルが指差した方を見ると、同じように1点を見つめて固まった。



「バッドン•••」


ミアナは震えた声で呟いた。



ミアナの後では、頭を抱えて震え上がっているミシェルがいた。



『盗賊が怖いのか?妾の配下に恐怖を与えたその罪、命をもって償え』



妾は静かに右手を上に掲げる。



『お前達は、トロ旨の邪魔だ』



妾の右手から盗賊の数と同じ30発の光の弾丸が上空に向かって放たれると、一気に盗賊達に降り注いだ。









▷▷▷▷ミシェル◁◁◁◁






なぜなんだろうか。

僅か1歳のリリーナ様に全てを見透かされている気がするのは•••。



《みちぇる。とろうま、もっちぇる。だかりゃ、ちゅくりゅ》



リリーナ様が私にそうおっしゃって下さった瞬間、膝から崩れ、場もわきまえず泣いてしまった。




私がトラウマを抱えている

だから、好きな料理を作れ




こんなに愛に満ちた言葉は、生まれて初めてでした。


この時、どんなことがあろうと、例え、危険な魔物の討伐であっても、リリーナ様について行こうと決めました。





そして今



モウモウという魔物が生息している地域に向かっている途中、私達が乗る馬車に向けて盗賊達が襲いかかって来るのが見えました。



盗賊を見て腰を抜かしてしまった私ですが、その目に信じられないものが映ったのです。




バッドン




私が身も心を捧げた相手

そして、裏切られた相手



そんなバッドンが盗賊達の真ん中で嬉々として剣を持ち、こちらを見る目は完全に獣でした。

バッドンが乗る馬の後ろには、一緒に村を出て行った女の冒険者もいました。


冒険者から盗賊に成り下がったのか、元々盗賊だったのかは分かりません。



ただひとつ言えるのは、バッドンと女を見た瞬間、過去の記憶が鮮明に蘇り、吐き気を催したことです。




ああ



やはり私の過去は、トラウマは一生癒されることはないんだ•••




その時、リリーナ様の言葉が私の耳に届きました。




『お前達は、トロ旨の邪魔だ』

《現実:おまえたちぃ、とらうまのじゃみゃ》




バッドンと名前も知らない女

お前達はトラウマを乗り切るのに邪魔だ




リリーナ様の言葉の後には、目も開けていられない程の眩い光が辺りに降り注ぎました。



その光の流れは、まるで、私の過去を洗い流してくれているようでした•••。





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