第18話 トロウマ




▷▷▷▷ミシェル◁◁◁◁





私の名前はミシェル。

年齢は20歳。独身。



私はふくよかな体型をしています。


昔は幼馴染のミアナのように痩せていたのだけれど、ある時を境に私は太り出しました。




私とミアナはトワイライト王国内の小さな村で生まれ、育った。

その村にはもう一人の幼馴染で、結婚の約束をした男、バッドンがいた。



15歳で成人すると、私は身も心もバッドンに捧げた。

もちろん、結婚の約束をしていたから。



だけどバッドンは、私を捨て、たまたま村を訪れた冒険者の女と一緒に村を出て行った。



村を出る時、バッドンは私に声をかけることも、見てくれることもなかった。



信用していたバッドンに身も心も捧げたあげく、最初から私なんて存在していなかったかのように捨てられた•••。



それから私は、食べ物に逃げた。

食べている時は全てを忘れさせてくれ、また、料理を作る内、作る楽しさや、私の料理を美味しいと食べてくれることに幸せを感じるようになった。



今は料理の腕を買われ、旅の馬車で給仕の仕事をしている。




そして、仕事中に出会った一人の赤ちゃん、リリーナ様。



リリーナ様は、過去にバッドンが私に伝えた言葉と同じことを言った。




《みちぇる、どくちん。あたち、もりゃう》


《みちぇる、じゅっと、いっちょ》




真剣な顔で私に伝えてくれたリリーナ様の言葉は、バッドンに言われたより時よりも温かく、私は思わず涙を流してしまった。



リリーナ様が男で、歳も近ければ、私はきっとイチコロだったでしょうね。



リリーナ様はお別れを間近にして寂しがった私を勇気づけるために言ってくれたんだ。

そう思い、私の中ではこの話は終わった。





はずだった•••




それが今•••





《みちぇる、あなたがほちぃ!!》





ヴィクトル王を前に、正式な言葉として発せられたこの言葉。



嬉しくて

嬉しくて


その場に跳び上がりたい気分


けど



同時に、トラウマを抱えた私なんかが、リリーナ様に仕えていいのか、不安も押し寄せました。



私は、今でも過去を引きずっている。


人を信用するのが、怖い。




トラウマ•••









▷▷▷▷眩耀神(リリーナ)◁◁◁◁






妾の言葉に、ミシェルは満面の笑みを見せたが、今はどこか暗い顔をしている。



「ミシェル、あなたまさか•••」



ミアナは最後まで言葉を続けなかったが、何かを知っているようだった。



『ダリア、何か分かるか??』

『はい、です。ミシェルは、過去に色々あって心にトラウマを抱えている、です』

『その言葉、人間マニュアルで読んで知っているぞ』

『はい、です。人間はよく抱える、です』




妾が人間マニュアルで読んだトラウマ



それは



トロッとした舌触りに、上品なウマ味

食べた者は思わずこう口にしてしまう



トロ旨(トラウマ)と




そのトロ旨料理、タイミング良く、神様シンに貰ったレシピの中にあったのだ。



くくく



妾はあまりにうまく進み過ぎる展開に笑みを抑えられずにいる。



何とか笑いを吹き出さないように堪えながら、小さな紙に書かれたレシピをミシェルに渡した。



「り、リリーナ様??」


『ミシェル。お前はトロ旨を持っているのであろう?だったら作れるな?』

《現実:みちぇる。とろうま、もっちぇる。だかりゃ、ちゅくりゅ》



目の前のミシェルがその場に膝から崩れ、顔を覆って泣き出した。



えっ?

おろろ??



なぜか泣き出したミシェルに悪神ともあろう妾は一瞬狼狽える。



ミシェルはなぜ泣き出したのか•••。


もしや、レシピに書かれた材料が無く、妾の期待に応えられない自らの無力さに泣いたのでは!?



妾は泣いているミシェルの側に行くと、背中を摩りながら宥めた。

妾のために、ここまで涙するとは、お前はもう妾の立派な配下じゃぞ。




「も、モウモウのミルク•••」



手で顔を覆った際、床に落ちたレシピを拾い、書かれている内容を見たミアナが言った。



『モウモウは手に入らないのか?』

《現実:もうもう、ないない?》


「リリーナ様。モウモウは討伐ランクAの強い魔物なので、市場には出回らないのです」



なるほど。

モウモウが強い魔物ということを知っていたからこそ、ミシェルは泣いたのだな。




《ダリアの解説、です。モウモウは地球でいう牛ですが、もっと大きくて、獰猛な魔物、です。この世界の冒険者は、ランクBが精々なので、モウモウは市場には出回らない、です》




『モウモウを捕まえに行くぞ!!』

《現実:もうもう、ちゅかえいく》


「「「「リリーナ様!?」」」」



妾の発言にその場にいたみんなが声を出した。





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