第17話 あなたがほちぃ
▷▷▷▷ヴィクトル◁◁◁◁
スーペリア王国の王、ヴィクトル•リンデ•スーペリア。
私は今、目の前で起こった出来事を目の当たりにし、恥ずかしながら震えている。
小さな赤子から放たれた炎?雷かもしれない、そんな攻撃が天空から降り注ぎ全ての盗賊を消し炭にした。
殆どは息絶えているが、2人だけは重症ながら生きていた。
最初は偶然かと思ったのだが、尋問をしていく内に盗賊のリーダーと副リーダーであることが分かった。
この瞬間、私は敢えて、生かしておいたのだと悟ったのだ。
そんな芸当をやって退けたのは、小さな赤子こと、トワイライト王国の第一王女であるリリーナ様である。
この力は紛れもなく神の力だ。
『神の加護』などではない、神、そのものの力だ。
初めてウォード家でリリーナ様を見た時、周りはまだ1歳の赤子のことを完全に信用し、彼女の意志のまま行動させていた。
その時は内心、何をやっているのかと思ったものだが、エリスの目を治し、どこからか料理を出現し、そして今だ。
リリーナ様に対するみんなの気持ちが、ようやく理解できた瞬間だった。
同時に、こんな人を慮る素晴らしいリリーナ様を呪いの影響といい、放置しているトワイライト王に苛立ちを覚えた。
今回、リリーナ様をスーペリアに連れて行くと伝鳥でんちょうを使って頼りを出したところ、躊躇なく二言返事で了承された。
信じられないことだ。
リリーナ様はこの世界の希望であり宝だ。
必ずお守りしなければならない。
▷▷▷▷眩耀神(リリーナ)◁◁◁◁
盗賊の奇襲を退け、馬車は今、目的地に向かって走っている。
昨夜はあれからミアナやコルネ、ヴィクトル達から体調は問題ないか、火傷はしてないか等、色々聞かれて大変だったわい。
ただ、妾が頑張ったということで、今日の朝と昼のご飯は贅沢だったのはよかった。
味は『普通』だがな。
旅の最終日である今日は、盗賊の襲撃もなく、順調に馬車が進み、夕方前には街全体を囲う大きな外壁が見えてきた。
「リリーナ様、見えて来ましたよ。あれがスーペリア王国の首都、スーペリアの街です」
『スーペリア??』
《現実:ちゅーぺりあ??》
「そうですよ。スーペリアの街です」
『ちっ、食べ物じゃなかったのか』
《現実:たべものょ、ないない》
「リリーナ様は食いしん坊でちゅねー」
妾とミアナが話していると、どこか寂しそうに見つめてくるミシェルの姿があった。
『どうしたのだ、ミシェル』
《現実:どちた、みちぇる》
「ええ、その•••。これでリリーナ様とお別れと思うと、少し寂しくなりまして」
『??ミシェル、お前はこれからも一緒だぞ』
《現実:みちぇる、じゅっと、いっちょ》
「り、リリーナ様•••」
ミシェルはそのまま泣き出した。
それを見ていたヴィクトルが、ミシェルに対して一先ず一緒に来るよう、話をしていた。
『ダリア、ミシェルとはお別れなのか?』
『はい、です。ミシェルはたまたま雇われた食事係です。なので、ここで終わり、です』
『なんと•••』
庶民の妾には直接ミシェルを雇う金はない。
困ったものだな•••。
妾が悩んでいる間も馬車は進み、門番にヴィクトルが顔を見せるだけで街の中に入った。
スーペリアは、妾がいた街より数倍大きく、建物も綺麗に整備され、至る所に水が流れる心地よい街だった。
妾が街の景色を見ていると、馬車は大きな要塞のような場所で止まった。
「リリーナ様、お城に着きましたよー」
ミアナに抱っこされて馬車を出ると、城と呼ばれる建物を見上げた。
『おぉーーー』
想像を超えた大きな建物に、妾は声を上げた。
そのままミアナに抱っこされたまま中に入ると、メイドや祭りの兵士が列を作り、「お帰りなさいませ」と声を揃えて言ってきた。
城の中は幾つもの調度品や絵画が飾られ、今までの家とは比較にならない圧倒的なライトを使い、あらゆる物が光の反射でキラキラと輝き、煌びやかだった。
天井は高く、床には真っ赤な絨毯が敷かれ、その上を多くの人が行き交っていた。
『お、おい、ダリア!!ヴィクトル達は庶民のくせにこんな所に住んでおるのか!?』
『あ、あの、です。こ、これは•••』
『もしかして、これが人間マニュアルにあったシェアハウスなのか!?』
『そう、そう、なのです。シェアハウスなの、です!!』
妾が見た人間マニュアルには、シェアハウスといって多くの人が一緒に生活をし、調理場やお風呂を共同で使う事で、一人当たりの賃料を抑えているものがあった。
『なるほど、これだけ多くの人間で家賃を按分すればこれ程の家に住めるのじゃな。考えたものだわい』
『です•••、です』
城の中を歩きながら、ミアナが話しかけてきた。
「お城、大きいですね。しばらくの間は、ここに住むんですよ」
『知っておる。シェアハウスじゃろ?』
《現実:ちってる。ちぇあはうちゅ》
「チェア、ハウス??」
『そうじゃ』
《現実:ちょう》
「ふふふ。そうですね。椅子もいっぱいあるお家ですもんね」
そのまま部屋に案内してもらうと、そこはウォード家で貸してもらっていた部屋より広く、天井にはシャンデリアと呼ばれるライトが設置されており、とても煌びやかであった。
『お、お、お•••。ウォード家では居候であったが、ここはシェアハウスで賃料がかかる。いくら安いとはいえ、は、は、払えるのか??』
『だ、大丈夫、です』
その日は、城で出された不味い王宮料理を食べ、直ぐに眠りについた。
翌日、ヴィクトルに呼ばれた妾達は、ミアナとコルネ、ミシェルと共に執務室に行った。
執務室の中はこれまた広く、大きなテーブルにソファーと呼ばれる椅子、ヴィクトルの自画像まで飾られている。
執務室の中には、ヴィクトルとマリーナ、他に知らない数名の人物がいた。
その者達は、妾を値踏みするような目で見ているのが気になる。
まずはヴィクトルとコルネが何やら話をしているが、内容的には妾がお披露目前だから謁見の間ではなく、この執務室で取り交わしを行う、よう分からんがそんなことを話していた。
話が終わると、ヴィクトルはいつになく真剣な顔でソファーの上でミアナに抱っこされている妾を見てきた。
「リリーナ様。此度は、娘エリスの目を治していただいたこと、また、道中での盗賊の討伐、誠にありがとうございました。心より、お礼を申し上げます」
『それくらい、大した事でないわ。気にするでない』
《現実:たいちたこと、ないない。きにちない》
「おぉぉーー。なんと寛大な」
「本当に1歳で話すことができるんですね」
先程まで妾を値踏みしていた男達から驚きの声が上がった。
「リリーナ様。何かご褒美を差し上げたいのですが、欲しいものはありますか?」
『何!!褒美じゃと!!』
《現実:ほうびぃ!!』
「そうです。何なりと言って下さい」
ヴィクトルのその言葉に、妾はソファーの後ろで遠慮がちに立っているミシェルを指差した。
『ミシェル、お前が欲しい!!』
《現実:みちぇる、あなたがほちぃ!!》
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