第16話 とうりょく、くりゅ





馬車の旅は順調に進み、4日目を迎えていた。

この3日間、野営や街への宿泊を行い、野営中はミシェルの料理を食べた。


ミシェルとは話す機会が増え、色々な情報を得ることができた。


彼女、ミシェルは少しふくよかな体型をしている女性で、年齢はミアナと同じ20歳。

独身であり、普段から旅の間の食事係、というのを生業に生計を立てているそうだ。



『独身なら妾の配下になるのに好都合じゃ』



く、くくく



「リリーナ様。今日はご機嫌ですね?」


妾が良からぬことを考え、笑っているのを機嫌が良いと勘違いしたミシェルが聞いてくる。

確かに機嫌は良いがな。



『ミシェルは独身。妾がいただく』

《現実:みちぇる、どくちん。あたち、もりゃう》


「まあ、私を娶って下さるんですか。ふふふ。とても嬉しいです」

『言質は取ったぞ』

《現実:げんち、とっちゃ》


「ふふふ。言質などなくても、リリーナ様に言われれば、私は喜んで娶られますよ」



ミシェルは、膝の上に座っている妾の頭を、優しく撫でてきた。

妾の希望で2日目からミシェルは同じ馬車に乗って移動している。



「きーー、く、悔しいです!!ミシェル、リリーナ様は渡しませんよ!!」


ミシェルと仲良くする妾を見て、幼馴染のミアナはハンカチを咥えて悔しがっている。



「ふふふ。こんなにゆったりとした楽しい旅は久々ですわ」

「ふはあっ。マリーナ様、騒がしくしてしまい申し訳ありません」



ヴィクトルの妻、マリーナは本心から楽しそうな笑顔を浮かべ、馬車の中で騒ぐミアナを優しく見つめる。


娘のエリスの目が治ったことが大きいのだろうが、マリーナは旅の間中、終始、穏やかな表情をしていた。



「しかし、本当にゆったりしているな。ここまで魔物が1匹も現れないとは•••」

「それは私も感じておりました。こんなことは初めてでございます」


ヴィクトルとコルネは、魔物が出ないことへの安堵とは別に、どこか警戒しているような表情を浮かべた。



「魔物が現れないのは有難いが、こうなると『人』の方が心配だな」

「おっしゃる通りです。王都スーペリアまでの工程を考えると、今日あたりが怪しゅうございますね」

「ああ、同感だな」


ヴィクトルとコルネは、その後も小声で何かを相談していた。



『おい、ダリア。人、とは何を警戒しるのだ?』

『はい、です。ズバリ、盗賊、なのです』

『前に住んでいた家に押し掛けてきた奴らも盗賊だったの?』

『そう、です。この世界に盗賊はいっぱい、いるです。魔物も多いんですが、眩耀神様を本能的に恐れて近づいては来ない、のです』

『くくく。妾の配下に危害を加えようとすれば、容赦はせんぞ』




しばらくして馬車は今日の野営ポイントに到着したのだが、そこは木々が少なく、隠れる場所が少ないのが懸念された。


王都に近いこの街道では、見晴らしを良くするため余分な木々は綺麗に切られ、景観重視になっている。


辺りは夕日に照らされてまだ明るいが、やがて日が落ちれば格好の襲撃ポイントになるかもしれない。


そのようなことを、ヴィクトルが祭りの兵士達と話していた。



それからミシェルの『普通』の料理を食べ、就寝の時間となった。

祭りの兵士達が幾つか設置されたテントを包囲するように警備をしている。



『ダリア、近くまで来ているな』

『はい、です。約50人はいる、です』

『祭りの兵士は30人。しかも所詮は祭りの警備が本職なのであろう?仕方ない、妾が力を貸すかな』

『ま、祭りの警備は置いといても、です、数的に不利なの、です』



ダリアとの会話を終えると、妾は一人で歩いてテントの外に出る。

慌ててミアナとコルネが後を追ってきて「リリーナ様、おちっこでちゅか?」と能天気な事を言っていた。



テントを出ると直ぐに大柄の男が背を向けて仁王立ちで立っていた。

どうやら、妾達のテントを警備してくれているらしい。



「り、リリーナ様。ここは危のうございますから、どうかテントの中にお戻り下さい」

『盗賊が来るぞ。数は約50』

《現実:とうりょく、くりゅ。50にん》


「な、なんですと!?」

「どうした騎士団長?」


妾達がテントを出てきたのを見ていたのか、慌ててヴィクトルが駆け寄って来た。



「ご、50人だと!?」

「はい。リリーナ様のお言葉では」



ヴィクトルも騎士団長も妾の言葉を疑うことなく、一斉に指示を与え、臨戦体制を取った。



やがて、暗がりの中から幾つもの人影現れ、こちらの人数を把握しているからか、真正面から襲いかかってきた。



「女子供以外は殺せーー!!」

「ヒャッハー!!」


盗賊達は嬉々として剣を抜き、祭りの兵士達に斬りかかる。


祭りの兵士達は思いの外善戦しているが、やはり数の違いから直ぐに押され始めた。



ミアナとコルネは妾を抱きしめながら震えていて、後からやって来たミシェルも妾を励まそうと声を掛けてくるが、その声は震えていた。


『やれやれ』


妾は近くで戦況を見つめ、指示を出していた騎士団長に声を掛ける。


『肩車をしろ』

《現実:かりゃぐりゅま》


「えっ!?肩車ですか?しかし、今は•••」

『いいから早くしろ』

《現実:いいのょ、はにゃく》



騎士団長は戸惑いながらも妾を肩車した。

騎士団長の背丈は190センチ以上あり、肩車をされたことで辺りが見渡せた。



「もう、よろしいですか?早くテントの中へ」

『まだじゃ』

《現実:まりゃ》



まだまだこの器では悪神の力を出しきれないため、視覚的に敵を捉える必要があったのだ。


『よし。全ての輩を捉えたぞ』



妾は肩車されたまま小さな両手を上空に翳す。



くらうが良い




【悪神の裁き】





妾の言葉と同時に、天空から無数の炎を纏った稲光が降り注ぎ、全ての盗賊達に落ちた。



ピカッ

ドドーーーーン



盗賊達は声を出す間も無く、消し炭となり、その場に倒れた。



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